表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
17/38

第17話:アズサの居候!?波乱のシェアハウス

「……だから、私は大丈夫だと言っているでしょう」

「全然大丈夫じゃないですよ! 足、引きずってます!」


港湾地区での激闘から数時間後。

神崎美玲かんざき・みれいは、肩を貸そうとする手を頑なに拒む堀口梓ほりぐち・あずさと、路上で押し問答を繰り広げていた。


先ほどのオーバータイム・タイタン戦でのダメージは深かった。

アズサの左足は大きく腫れ上がり、立っているのがやっとの状態だ。

それでもなお、彼女は涼しい顔でスマホを操作し、タクシー配車アプリを起動しようとしている。


「自宅に戻れば、完備されたメディカル・キットと高酸素カプセルがあるわ。自己修復プロセスを回せば、明日の始業までには……っ!」

言いかけたところで、アズサが膝から崩れ落ちる。

「ほら、言わんこっちゃない!」

美玲が慌てて支える。

「もう、諦めてください! うち、ここから歩いて5分なんです。今日は泊まっていってください!」

「は? なぜ私があなたの家に……」

緊急避難エマージェンシーです! 文句言わないで!」


美玲は有無を言わせぬ剣幕で、アズサの腕を自分の肩に回した。

その強引さに気圧されたのか、それとも本当に限界だったのか。

アズサは「……宿泊費は、請求して」と小さく呟き、その身を預けた。


***


「……汚い部屋ね」

「もう、うるさいなぁ……。これでも片付いてる方なんですよ?」


美玲のマンション――1LDKの部屋に入った瞬間、アズサが放った第一声がそれだった。

確かに、モデルルームのように無機質なアズサの生活空間とは雲泥の差だ。

ソファには読みかけの雑誌、テーブルには昨晩の晩酌の残骸、床にはヨガマットが敷きっぱなしになっている。


「モノが多すぎる。動線が最適化されていないわ。この雑誌の山、検索性サーチャビリティが皆無よ」

「家はくつろぐ場所なんです! 検索しなくていいの!」


文句を言いながらも、アズサはソファに座らされ、美玲の手際よい応急処置を受けた。

湿布を貼り、包帯を巻く手つきは、意外にも手慣れている。

「……慣れてるのね」

「魔法少女やってれば、生傷なんて絶えないですからね。はい、これでよし」

美玲は満足げに頷くと、タンスから着替えを取り出した。

「スーツだと窮屈でしょう。これ着ててください」


渡されたのは、前面に『熱海』と筆文字で書かれた、温泉土産のビッグTシャツと、高校時代のジャージだった。

「……これを、私に?」

アズサの眉間に深い皺が刻まれる。

「文句言わないでください。パジャマの予備がないんですから」


しぶしぶ着替えたアズサ・イン・熱海Tシャツは、そのシュールな姿でソファに深々と沈み込んだ。

「……ふぅ」

張り詰めていた糸が切れたのか、アズサの瞼が重くなる。

「お腹空いてない? 何か作りますけど」

「……不要よ。ゼリー飲料があれば……」

「そんなの夕飯って言いませんよ! 待ってて、すぐ出来ますから」


キッチンからトントンと包丁を叩く音と、出汁の香りが漂ってくる。

それは、アズサが久しく忘れていた、「生活」の音だった。

効率化のために切り捨ててきた、無駄で、温かい時間。

(……非効率だわ、本当に)

そう心の中で悪態をつきながら、アズサは意識を手放した。


***


翌朝。

香ばしい匂いで目を覚ますと、テーブルには炊きたてのご飯、味噌汁、焼き魚、そして卵焼きが並んでいた。

「おはよう、アズサ。足の具合どうですか?」

エプロン姿の美玲が、コーヒーを淹れながら振り返る。


「……おはよう。痛みは引いたわ」

アズサはテーブルを見て、また溜息をついた。

「朝からこんなに品数を作るなんて。あなたのリソース配分、どうなっているの? 睡眠時間を削ってまでやること?」

「朝ごはんは一日の活力エネルギーの源ですよ! ほら、冷めないうちに食べてください」


出されたものは残さない。それがアズサの流儀だ。

彼女は無言で箸を取り、味噌汁を一口すする。

わかめと豆腐のシンプルな味噌汁。

その温かさが、胃袋から全身に染み渡っていく。


「……どう?」

美玲が不安そうに覗き込む。

アズサは箸を置き、小さく息を吐いた。


「……塩分濃度が適切ね。……悪くないわ」

「ふふ、でしょう?」


その時、インターホンが鳴った。

「神崎せんぱーい! 堀口先輩の様子、どうですかー?」

現れたのは、コンビニ袋を下げた三浦由奈みうら・ゆなだった。

「あ、由奈ちゃん! いらっしゃい」

「お邪魔しまーす! あ、堀口先輩! 生きてた……って、ぷっ!」

由奈はアズサの『熱海』Tシャツを見るなり、吹き出した。

「ちょ、その服! ギャップ萌えですか!?」

「……笑ったら評価下げて報告するわよ」

アズサが氷の視線を送るが、由奈はもう以前ほど萎縮していなかった。


「はいはい、これお見舞いです! 『完全栄養食クッキー』! 先輩が好きそうだと思って!」

「気が利くじゃない。……で? なぜあなたがここに?」

アズサの問いに、由奈は真面目な顔に戻る。


「実は……昨日の戦闘データ、ペンデュルンちゃんと一緒に解析してみたんです。私の『コネクト』能力について」

由奈がタブレットを開く。

「私、先輩たちとリンクすると、二人の思考や状態が全部見えちゃうんです。で、分かったことがあって」


由奈は、画面上のグラフを指差した。

「堀口先輩は、ロジックで感情を抑え込んでますけど、実は神崎先輩以上に『誰かを守りたい』って数値が高いんです。逆に神崎先輩は、感情で動いてるように見えて、土壇場の判断はすごく冷静なんです」


「はぁ!?」

「なっ……!」

二人が同時に声を上げる。

「つまり、お二人は、お互いが持ってない部分を、無意識にカバーし合ってたんですよ! 喧嘩しながらも!」

由奈は得意げに胸を張った。

「だから、二人は『混ぜるな危険』じゃなくて、『混ぜたら最強』なんです! 私がその接着剤になりますから!」


部屋に沈黙が流れる。

美玲とアズサは顔を見合わせ、気まずそうに視線を逸らした。


「……余計な分析ね。次の査定に響くわよ」

「えーっ! 褒めてくださいよー!」


アズサはコーヒーを一口飲むと、静かに言った。

「……でも、昨日の戦いで分かったわ。私のロジックだけでは、黒井には勝てない。あなたの……その、泥臭いやり方も、オプションの一つとして認めてあげる」


それは、アズサなりの精一杯のデレ(歩み寄り)だった。

「素直じゃないなぁ……。ま、これからもよろしくお願いしますね、パートナーさん」

美玲が手を差し出す。

アズサはその手を見つめ、ため息交じりに、しかししっかりと握り返した。


「……あくまで、業務提携よ」


その時、美玲のスマホが鳴った。

『神崎さん! 大変だ! 本社のサーバーールームから、煙が出てる!』

佐伯課長の悲鳴のような声。

どうやら、安息の休日はこれまでのようだ。


「……行きますよ、二人とも。休日出勤手当、しっかり請求させてもらいますからね」

アズサが『熱海』Tシャツのまま立ち上がる。

「まずは着替えてからですよ!」

「わかってます! 行きますよ、先輩!」


シェアハウスの短い朝は、新たな戦いのゴングと共に終わった。

だが、三人並んで玄関を出るその背中は、以前よりもずっと頼もしく、そして少しだけ楽しそうに見えた。


次回、魔法少女ミラクルミレイDX!

「第18話:黒井の罠!ブラック企業・連合艦隊」

社会の理不尽、私がきっちり最適化します!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ