第16話:新人・由奈の覚醒?「私、先輩の力になりたい!」
「業務分担を要求します! ヘルプ・ミー・オーダー!」
神崎美玲の叫びとともに放たれた光が、巨大な怪人オーバータイム・タイタンの動きを一時的に拘束する。
その隙に、ミレイは倒れ伏す堀口梓の元へ滑り込んだ。
「アズサ! 大丈夫!?」
「……離しなさい。これは私のミス。私の計算違いよ」
アズサは痛みに顔を歪めながらも、ミレイの手を振り払おうとする。そのプライドの高さは、傷ついてなお健在だった。
「計算とかどうでもいい! 今は生きて帰ることが最優先でしょ!」
「帰る……? 任務を放棄して? それこそ最大の非効率……」
「ガァァァァ!! 帰れると思うなァァ! 仕事は終わってないぞォォ!!」
拘束を力任せに引きちぎり、オーバータイム・タイタンが咆哮する。
港のコンテナを軽々と持ち上げ、二人めがけて投げつけてきた。
「くっ……!」
ミレイは承認印・ロッドを掲げ、防御障壁を展開する。だが、度重なる連戦と、アズサを庇いながらの戦いで、彼女の魔力も限界に近かった。
ガギンッ!!
重い衝撃が障壁を揺らす。ミレイの足が地面にめり込む。
(重い……! これが、家に帰りたくても帰れない、現場の人たちの重圧……!)
その光景を、コンテナの影から震えながら見つめる少女がいた。
三浦由奈だ。
彼女は、梓がオフィスに忘れていったスマートフォンを届けようと、位置情報を頼りにここまで追いかけてきてしまったのだ。
「神崎先輩……堀口先輩……」
由奈の目には、二人の姿が焼き付いていた。
いつも優しくフォローしてくれる憧れの神崎先輩。
厳しくも完璧な仕事で導いてくれる堀口先輩。
二人が、ボロボロになって戦っている。
(どうしよう……私なんかがいたら、邪魔になるだけ……)
(またミスして、足を引っ張って……)
由奈は動けなかった。彼女の心には、常に「失敗への恐怖」が張り付いている。
だが、次の瞬間。
タイタンの追撃が、ミレイの障壁にヒビを入れた。
「きゃあっ!」
ミレイが体勢を崩す。アズサはまだ動けない。
次の一撃が来れば、確実に終わる。
「先輩!!」
由奈は、理屈より先に飛び出していた。
「逃げて、由奈ちゃん!」
ミレイの悲鳴も耳に入らない。由奈は、無防備な二人の前に立ちはだかり、両手を広げた。
震える足。涙目の瞳。それでも、彼女は叫んだ。
「私……私は仕事も遅いし、ミスばっかりだし、お荷物かもしれないけど……!
でも、二人がいなくなったら……私、どうすればいいか分からないよぉ!!」
それは、悲痛な叫びだった。
そして、誰よりも「先輩たちを助けたい」という、純粋な“支援”への渇望だった。
「その心意気……バックアップ完了でしゅ!」
どこからともなく、ペンデュルンが由奈の目の前に現れた。
「え? 変な生き物!?」
「由奈しゃん! その『助けたい』という気持ちこそが、最強のセキュリティでしゅ! これを受け取るでしゅ!」
ペンデュルンが差し出したのは、黄色く輝くタブレット端末型のアイテムだった。
「こ、これを……?」
「願うでしゅ! 二人を守る、最強のサポーターになると!」
由奈はタブレットを胸に抱いた。
(私は、先輩みたいに強くない。堀口先輩みたいに賢くない。
でも……二人が失敗しそうになったら、私が何度でも助ける!
私が、二人の保険になる!)
眩い黄色の光が港を包み込む。
「変身! 失敗を恐れない、再挑戦の魔法!」
光の中で、由奈のオフィスカジュアルな服が、活動的なイエローとグリーンの魔法衣装へと変わる。パーカーのようなトップスに、動きやすいショートパンツ。手には光のスタイラスペンが握られていた。
「魔法少女……コネクト・ユナ! ただいま出社しました!」
「なっ……新人が、覚醒しただと……?」
遠くのクレーンの上で、黒井が驚愕の表情を浮かべる。
「新人がァァ! 生意気なんだよォォ!」
タイタンが巨大な拳を由奈に振り下ろす。
だが、由奈は逃げなかった。彼女はタブレットを操作し、空中に巨大なウィンドウを展開する。
「攻撃なんてさせません! 自動保存・シールド!」
ドォォォン!!
拳が光の障壁に激突するが、障壁はへこむどころか、衝撃を柔らかく吸収し、弾き返した。
「すご……い……」
ミレイが呟く。
「先輩! 今のうちに!」
由奈が振り返り、ニコッと笑う。その笑顔に、悲壮感はない。
「堀口先輩! 私とリンクしてください!」
「は? 何を……」
「いいから! 共有開始!」
由奈がスタイラスペンを振ると、光のラインがアズサとミレイ、そして由奈を繋いだ。
瞬間、アズサの脳内に、戦場の全データと、ミレイの魔力残量、そして敵の弱点解析データが流れ込んでくる。
「これは……クラウド同期……?」
アズサは目を見開いた。
由奈がハブとなり、ミレイの「感情の力」とアズサの「論理の力」を強制的に接続させたのだ。
一人では足りないリソースを、三人で補い合う。
これこそが、組織で働くことの真価。
「……フン。非効率なやり方だけど、リソースが余ってるなら使わせてもらうわ」
アズサがようやく立ち上がる。その瞳に、冷静な光が戻っていた。
「ミレイ、右翼のコンテナ裏。構造的欠陥がある。そこを狙って」
「分かった!」
アズサの指示が、ミレイに直感として伝わる。
「由奈、シールドの出力を最大に。私たちが攻撃する瞬間の隙を埋めなさい」
「はいっ! お任せください!」
三人の動きが、まるで一つの生き物のように連動する。
由奈が鉄壁の守りで敵の攻撃を無効化し、アズサが導き出した最適解のルートを、ミレイが駆け抜ける。
「これで終わりよ!」
「終わらせます!」
ミレイの承認印・ロッドと、アズサのエラーデリート・ブレードが交差する。
「今夜は定時で帰れェェェ!! 合同施策・業務終了・クロス!」
ピンクと紺色の十字の閃光が、タイタンを貫いた。
「おおぉぉ……帰れる……やっと、家に帰れるんだなぁ……」
巨人は光の粒子となって崩れ去り、そこには疲れ切った作業員が、安らかな寝息を立てて倒れていた。
「……勝った……」
変身を解いた美玲は、その場に座り込んだ。
「やりましたね! 先輩!」
由奈が駆け寄ってくる。その顔は、涙と鼻水でぐしゃぐしゃだったが、今までで一番誇らしげだった。
「由奈ちゃん……ありがとう。本当に、助かったよ」
そして、梓。
彼女は少し離れた場所で、腕を組んで二人を見ていた。
「……梓」
美玲が声をかけると、梓はふいと視線を逸らした。
「……勘違いしないで。今回は、リソース配分の最適化が偶発的に上手くいっただけよ」
相変わらずの憎まれ口。
だが、その後に、蚊の鳴くような声が続いた。
「……でも、一人よりは、マシだったかもね」
「え?」
「なんでもないわよ!」
梓は顔を赤くして背を向け、足早に去っていく。
「あ、待ってくださいよぉ! 堀口先輩!」
由奈がその後を追う。
美玲は、夜空を見上げて微笑んだ。
敵は強大だ。黒井の策略も、まだ底が見えない。
でも、今の私には、背中を預けられる仲間がいる。
頼もしい後輩と、素直じゃないライバルが。
「さて、明日も仕事だ!」
美玲はパンパンと服の埃を払うと、軽やかな足取りで二人の後を追った。
オプティクスワークスの「働き方改革」は、まだ始まったばかりだ。
次回、魔法少女ミラクルミレイDX!
「第17話:アズサの居候!?波乱のシェアハウス」
社会の理不尽、私がきっちり最適化します!




