表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
15/38

第15話:梓の過去、効率の理由(わけ)

神崎美玲かんざき・みれいが新たな力に覚醒した頃、堀口梓ほりぐち・あずさは一人、孤独な戦いを続けていた。

彼女は、オプティクスワークスの膨大なデータベースと、外部の公開情報を駆使し、ストレス・マキシマイズ社という謎の企業の正体を、独自に追っていたのだ。


「……あった」

深夜、自室のモニターの光だけが、梓の険しい横顔を照らしている。

彼女が発見したのは、数年前に倒産した、とあるコンサルティングファームの登記情報。その役員リストの末尾に、黒井という名前を見つけた。

そして、その企業の事業内容には、「組織内ストレスの定量化と、生産性向上への応用」という、不気味な一文が記されていた。

(やはり、奴らは以前から……)


梓は、なぜこれほどまでに「効率」と「ロジック」に固執するのか。

その理由は、彼女の過去にあった。


数年前、梓は新卒で、誰もが羨むような大手企業に就職した。希望に燃え、理想に満ち溢れていた彼女は、持ち前の頭脳と行動力で、すぐに頭角を現した。

しかし、彼女が配属された部署は、古い慣習と、非効率な精神論が支配する場所だった。

「堀口、この資料、もっと熱意が感じられるように作り直せ」

「理屈はいいんだよ。俺たちは、心で仕事をしてるんだから」

上司たちは、梓の的確なデータ分析や、効率化の提案に耳を貸そうとせず、ただ根性や気合といった、曖昧な言葉を繰り返すばかり。


そして、ある大きなプロジェクトで、事件は起きた。

梓は、プロジェクトの潜在的なリスクをデータに基づいて指摘し、計画の見直しを何度も訴えた。

しかし、上司たちは「若いくせに、ネガティブなことばかり言うな」「勢いが大事なんだ」と、彼女の警告を完全に無視した。

結果、プロジェクトは梓の予測通り、致命的なトラブルに見舞われ、大失敗に終わった。


だが、経営会議で責任を問われたのは、計画を強行した上司たちではなく、リスクを指摘した梓だった。

「君が、チームの和を乱したせいだ」

「もっと、ポジティブな姿勢で取り組めなかったのか」

理不尽な責任転嫁。ロジックが、データが、正しさが、何の力も持たない現実。

梓は、会社という組織に深く絶望した。人の「感情」という、非論理的なものに、心底嫌気がさした。

(もう、二度と……感情なんかに、振り回されるものか)


その日を境に、梓は変わった。

感情を切り捨て、ただひたすらに、効率と結果だけを追い求めるようになった。オプティクスワークスに転職し、ロジカルアズサとして戦う今も、その信念は変わらない。

彼女にとって、怪人とは、かつて自分を絶望させた「非効率な感情」の塊そのもの。だから、一片の情けもかけず、バグのように駆除するのだ。


その夜も、梓は一人、怪人が発生したという埠頭に降り立った。

そこにいたのは、港湾労働者のストレスが生み出した怪人――オーバータイム・タイタン。終わらない荷役作業の絶望が、彼をコンテナと融合した巨人へと変貌させていた。


「邪魔よ」

アズサは、何の感情も見せず、剣を構える。

ミレイならば、まず対話を試みるだろう。なぜ彼が苦しんでいるのか、その背景を理解しようとするはずだ。

だが、アズサは違う。

「原因は、過重労働。解決策は、業務の停止。プロセスは、対象の機能停止のみ」

彼女は、最短距離で怪人の懐に飛び込み、その動きを止めるべく、関節部分を的確に狙う。


しかし、オーバータイム・タイタンのパワーは、アズサの想定を上回っていた。

「俺は……まだ、帰れないんだ……!」

家族のために、という想いが、怪人に異常なまでの力を与えている。

「くっ……!」

アズサは、巨大な腕に弾き飛ばされ、コンテナの山に叩きつけられた。

(なぜ……! 私のロジックは、完璧なはず……!)


薄れゆく意識の中、梓は、かつての上司たちの顔を思い出していた。

『理屈だけじゃ、人は動かないんだよ』

その言葉が、今になって、重く彼女の心にのしかかる。

(違う……。私は、間違ってない……)


怪人が、とどめの一撃を振り下ろそうとした、その瞬間。

ピンク色の温かい光が、アズサを庇うように、巨大な盾を形成した。

「……ミレイ……!」

そこに立っていたのは、ミラクルミレイだった。彼女は、梓の危機を察知し、駆けつけたのだ。


「一人で、無理しないでよ、梓!」

ミレイは、承認印スタンパー・ロッドを構え、怪人に叫ぶ。

「あなたの頑張りは、みんな知ってる! でも、一人で全部背負うことはない! 業務分担を要求します! ヘルプ・ミー・オーダー!」

ミレイのロッドから放たれた光が、怪人の動きを止め、その心の叫びを周囲に響かせる。


その光景を、アズサはただ、呆然と見つめていた。

自分のロジックでは破壊することしかできなかった相手を、ミレイは、その非効率な「感情」で、救おうとしている。

(……なぜ、あなたは……)

自分の正しさが、初めて、揺らいだ瞬間だった。



次回、魔法少女ミラクルミレイDX!

「第16話:由奈の覚醒?『私、先輩の力になりたい!』」

社会の理不尽、私がきっちり最適化します!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ