第15話:梓の過去、効率の理由(わけ)
神崎美玲が新たな力に覚醒した頃、堀口梓は一人、孤独な戦いを続けていた。
彼女は、オプティクスワークスの膨大なデータベースと、外部の公開情報を駆使し、ストレス・マキシマイズ社という謎の企業の正体を、独自に追っていたのだ。
「……あった」
深夜、自室のモニターの光だけが、梓の険しい横顔を照らしている。
彼女が発見したのは、数年前に倒産した、とあるコンサルティングファームの登記情報。その役員リストの末尾に、黒井という名前を見つけた。
そして、その企業の事業内容には、「組織内ストレスの定量化と、生産性向上への応用」という、不気味な一文が記されていた。
(やはり、奴らは以前から……)
梓は、なぜこれほどまでに「効率」と「ロジック」に固執するのか。
その理由は、彼女の過去にあった。
数年前、梓は新卒で、誰もが羨むような大手企業に就職した。希望に燃え、理想に満ち溢れていた彼女は、持ち前の頭脳と行動力で、すぐに頭角を現した。
しかし、彼女が配属された部署は、古い慣習と、非効率な精神論が支配する場所だった。
「堀口、この資料、もっと熱意が感じられるように作り直せ」
「理屈はいいんだよ。俺たちは、心で仕事をしてるんだから」
上司たちは、梓の的確なデータ分析や、効率化の提案に耳を貸そうとせず、ただ根性や気合といった、曖昧な言葉を繰り返すばかり。
そして、ある大きなプロジェクトで、事件は起きた。
梓は、プロジェクトの潜在的なリスクをデータに基づいて指摘し、計画の見直しを何度も訴えた。
しかし、上司たちは「若いくせに、ネガティブなことばかり言うな」「勢いが大事なんだ」と、彼女の警告を完全に無視した。
結果、プロジェクトは梓の予測通り、致命的なトラブルに見舞われ、大失敗に終わった。
だが、経営会議で責任を問われたのは、計画を強行した上司たちではなく、リスクを指摘した梓だった。
「君が、チームの和を乱したせいだ」
「もっと、ポジティブな姿勢で取り組めなかったのか」
理不尽な責任転嫁。ロジックが、データが、正しさが、何の力も持たない現実。
梓は、会社という組織に深く絶望した。人の「感情」という、非論理的なものに、心底嫌気がさした。
(もう、二度と……感情なんかに、振り回されるものか)
その日を境に、梓は変わった。
感情を切り捨て、ただひたすらに、効率と結果だけを追い求めるようになった。オプティクスワークスに転職し、ロジカルアズサとして戦う今も、その信念は変わらない。
彼女にとって、怪人とは、かつて自分を絶望させた「非効率な感情」の塊そのもの。だから、一片の情けもかけず、バグのように駆除するのだ。
その夜も、梓は一人、怪人が発生したという埠頭に降り立った。
そこにいたのは、港湾労働者のストレスが生み出した怪人――オーバータイム・タイタン。終わらない荷役作業の絶望が、彼をコンテナと融合した巨人へと変貌させていた。
「邪魔よ」
アズサは、何の感情も見せず、剣を構える。
ミレイならば、まず対話を試みるだろう。なぜ彼が苦しんでいるのか、その背景を理解しようとするはずだ。
だが、アズサは違う。
「原因は、過重労働。解決策は、業務の停止。プロセスは、対象の機能停止のみ」
彼女は、最短距離で怪人の懐に飛び込み、その動きを止めるべく、関節部分を的確に狙う。
しかし、オーバータイム・タイタンのパワーは、アズサの想定を上回っていた。
「俺は……まだ、帰れないんだ……!」
家族のために、という想いが、怪人に異常なまでの力を与えている。
「くっ……!」
アズサは、巨大な腕に弾き飛ばされ、コンテナの山に叩きつけられた。
(なぜ……! 私のロジックは、完璧なはず……!)
薄れゆく意識の中、梓は、かつての上司たちの顔を思い出していた。
『理屈だけじゃ、人は動かないんだよ』
その言葉が、今になって、重く彼女の心にのしかかる。
(違う……。私は、間違ってない……)
怪人が、とどめの一撃を振り下ろそうとした、その瞬間。
ピンク色の温かい光が、アズサを庇うように、巨大な盾を形成した。
「……ミレイ……!」
そこに立っていたのは、ミラクルミレイだった。彼女は、梓の危機を察知し、駆けつけたのだ。
「一人で、無理しないでよ、梓!」
ミレイは、承認印・ロッドを構え、怪人に叫ぶ。
「あなたの頑張りは、みんな知ってる! でも、一人で全部背負うことはない! 業務分担を要求します! ヘルプ・ミー・オーダー!」
ミレイのロッドから放たれた光が、怪人の動きを止め、その心の叫びを周囲に響かせる。
その光景を、アズサはただ、呆然と見つめていた。
自分のロジックでは破壊することしかできなかった相手を、ミレイは、その非効率な「感情」で、救おうとしている。
(……なぜ、あなたは……)
自分の正しさが、初めて、揺らいだ瞬間だった。
次回、魔法少女ミラクルミレイDX!
「第16話:由奈の覚醒?『私、先輩の力になりたい!』」
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