第14話:パワーアップ!届け、私の業務改善命令(オーダー)!
瓦礫の中で、神崎美玲は、手の中に現れた新しい力をじっと見つめていた。
それは、白とゴールドを基調とした、美しい装飾が施されたロッド。その先端には、会社のロゴを模した承認印が輝いている。まるで、彼女の「誰かを助け、認めたい」という想いが、その
まま形になったかのようだった。
「面白い……! 実に面白い! 土壇場で新たな力を覚醒させるとは、あなたという商品は、実に私を楽しませてくれる!」
黒井は、驚きから一転、恍惚とした表情でミレイを見つめている。1
「さあ、その力、見せてみなさい! 行け、コーポレート・ガバナー! あの玩具が、我々のビジネスにどれほどの影響を与えるか、きっちり査定してやれ!」
黒井の号令を受け、怪人コーポレート・ガバナーが再びミレイに襲いかかる。無数のモニターの腕から、「業績下方修正ビーム」や「株主総会召喚ウェーブ」など、聞いているだけで胃が痛くなるような攻
撃が、雨あられと放たれた。
以前のミレイならば、防戦一方で、心を削られていただろう。
だが、今の彼女は違った。
「もう、あなたの思い通りにはさせない!」
ミレイは、承認印・ロッドを強く握りしめ、大地を蹴った。
(このロッド……! 使い方が、自然と頭に入ってくる……!)
ミレイは、ロッドの先端にあるスタンパー部分を、地面にトン、と軽く打ち付けた。
「第一条項、承認! 全ての攻撃を『ポジティブ情報』に変換します!」
ロッドから放たれた光の波動が、怪人の攻撃に触れる。すると、絶望的な光線は、たちまちキラキラと輝くポジティブな情報へと変換されてしまった。
「業績下方修正」は「将来性への期待」に、「株主総会」は「ファンミーティング」に。悪意に満ちた攻撃が、見る間に無力化されていく。
「なっ……! 私の攻撃が……!?」
怪人が戸惑いの声を上げる。
「馬鹿な! ネガティブ・エネルギーを、ポジティブ・エネルギーに変換しただと!? そんな芸当、聞いたことがない!」
黒井が初めて、焦りの色を見せた。
「あなたのやり方は、一方的な押し付けよ!」
ミレイは、ロッドを構え、まっすぐに怪人を見据える。
「本当の経営は、対話から生まれるはず! あなたのその苦しみ、私が受け止める!」
ミレイは、ロッドの側面にあるダイヤルをカチリと回した。
「第二条項、承認! 経営課題の可視化を『要求』します!」
ロッドから伸びた光の鎖が、怪人を縛り上げる。しかし、それは傷つけるためのものではない。怪人の体を構成する無数のモニターに、社長が本当に抱えていた悩みが、次々と映し出されていったのだ。
『資金繰りが苦しい』『優秀な人材が育たない』『競合他社との差別化が図れない』――。
それは、誰にも言えずに一人で抱え込んでいた、悲痛な心の叫びだった。
「そうか……。あなたは、ただ、誰かに助けてほしかったんだ……」
ミレイの瞳に、憐れみの色が浮かぶ。
「ならば、答えは一つ!」
ミレイはロッドを天に掲げ、その先端のスタンパーに、ありったけの想いを込めた。
「届け、私の業務改善命令! その悩み、全社で共有し、全員で解決せよ! 最終承認! リビルド・ザ・フューチャー!」
スタンパーから、巨大な「承認」の光の印が放たれた。
それは、浄化というよりも、再構築の光。怪人の体を構成していたモニターは、一つ一つが具体的な改善案へと書き換えられていく。
「おお……! 私の悩みは……一人で抱えるものでは、なかったのか……!」
怪人は、安らかな表情で光に包まれ、元の社長の姿へと戻っていった。
「……信じられない。我々が積み上げたストレスデータを、一瞬で……」
黒井は、自らのビジネスが根底から覆されたことに、愕然としていた。
「覚えておきなさい、ミラクルミレイ。あなたのその力は、いずれ、あなた自身を破滅させることになるでしょう」
不気味な言葉を残し、黒井は闇の中へと消えていった。
一人残されたミレイは、手の中のロッドを強く握りしめる。
(梓がいなくても、私には、私の戦い方がある)
新たな力を手に、彼女の心には、確かな決意が宿っていた。
だが、その決意が、やがて親友との、より深い断絶に繋がることを、彼女はまだ知らなかった。
次回、魔法少女ミラクルミレイDX!
「第15話:梓の過去、効率の理由」
社会の理不尽、私がきっちり最適化します




