第13話:敵の名は「ストレス・マキシマイズ社」
第13話:敵の名は「ストレス・マキシマイズ社」
マジカル・アズサとの決裂から数日。神崎美玲の心は、重い鉛のように沈んでいた。
オフィスで顔を合わせても、堀口梓は美玲をまるで存在しないかのように扱い、美玲もまた、何と声をかければいいのか分からなかった。二人の間に流れる空気は、かつてないほどに冷え切っている。
「美玲しゃん、元気出すでしゅ……」
バッグの中から、ペンデュルンが心配そうに声をかける。
「……大丈夫よ。仕事は、ちゃんとしないと」
美玲は無理に笑顔を作り、溜まったタスクリストに意識を集中させようとする。だが、心のどこかで、常に梓のことが、そして黒井と名乗った男の言葉が、棘のように引っかかっていた。
(私たちの敵は、もっと組織的で、悪意に満ちている……)
その日の夜。美玲は一人、夜の街をパトロールしていた。
梓がいなくても、自分がやるべきことは変わらない。そう自分に言い聞かせるが、一人で歩く夜道は、以前よりもずっと暗く、広く感じられた。
ふと、美玲は異様なプレッシャーオーラを感知した。
発生源は、高層オフィスビルの最上階。そこは、最近急成長を遂げているIT企業「デジタル・フロンティア」のヘッドオフィスだった。
「こんな時間に、まだ仕事……?」
嫌な予感を覚えながら、美玲は変身してビルへと急行する。
最上階の役員フロアにたどり着いたミレイが見たのは、衝撃的な光景だった。
フロアの中心で、デジタル・フロンティアの社長が、巨大な怪人と化して暴れている。その体は無数のPCモニターで構成され、それぞれの画面には、下落し続ける株価チャートや、燃え盛る炎上の文字が映
し出されていた。
そして、その怪人の傍らには、あの男――黒井が、まるで指揮者のように優雅に立っていた。
「これはこれは、ミラクルミレイ。今夜はお一人ですか? 相方様とは、喧嘩でもされましたか?」
黒井は、全てを見透かしたような笑みを浮かべる。
「あなたたちの仕業ね!」
「人聞きの悪い。我々は、ただ彼に『最高のサービス』を提供しただけですよ」
黒井は、怪人化した社長をうっとりと見上げた。
「彼は、会社の成長という強迫観念に常に苛まれていた。我々は、そのストレスを最大化し、最高のエネルギーへと転換するお手伝いをした。いわば、彼は我々にとって、最優良顧客(プレ
ミアム・カスタマー)なのです」
黒井は、自社のビジネスモデルを、誇らしげに語り始めた。
「我々、ストレス・マキシマイズ社は、現代社会に生きる全ての人々をクライアントと考えています。仕事、人間関係、将来への不安……人々が抱えるあらゆるストレスを、我々は『資源』と捉えている。その
資源を効率的に回収し、エネルギーとして販売する。実に、持続可能なビジネスモデルでしょう?」
「人の苦しみを、商品にするなんて……!」
「おや、ご理解いただけませんか? あなた方がやっていることと、何が違うのです? あなたはDXとやらで、人々のストレスを『解消』しようとしている。我々は、それを『有効活用』している。アプローチ
が違うだけで、やっていることは同じ。人の心に介入しているという点では、あなたも我々も、同罪なのですよ」
黒井の言葉が、ミレイの心を鋭く抉る。
(私も、梓と同じ……? 人の心を、変えようとしてる……?)
一瞬の迷い。その隙を、黒井は見逃さなかった。
「さあ、行け! コーポレート・ガバナー! 彼女に、経営の厳しさを教えてやれ!」
黒井の号令一下、怪人がミレイに襲いかかる。その攻撃は、これまでの怪人とは比較にならないほどに重く、統率が取れていた。
「くっ……!」
梓がいない今、ミレイ一人では、この組織的な攻撃を防ぎきれない。
(どうすれば……! 私のやり方は、間違ってるの……?)
吹き飛ばされ、瓦礫に叩きつけられながら、ミレイの意識が遠のきかける。
その時、ミレイの脳裏に、これまでの光景が蘇った。
DX化を喜び、生き生きと働く昭和野製作所の職人たち。
新しいシステムを熱心に学ぶ、経理部の根津部長。
「ありがとう」と笑ってくれた、新人の由奈。
(――違う!)
ミレイは、瓦礫の中から、決然と顔を上げた。
「私は、間違ってない! あなたたちのように、人の心を絶望させるためじゃない! みんなが、もっと前向きに、笑顔で働ける未来を作るために、私は戦ってるんだ!」
その強い想いに応えるように、胸のIDカード型チャームが、これまでにないほどの眩い光を放った。
「これは……!」
光はミレイの手の中に収束し、一つの新しいアイテムを形作る。
それは、美しい装飾が施された、承認印の形をしたロッドだった。
「その輝き……! まさか、新たな覚醒だとでも!?」
黒井が目を見開く。
ミレイは、新たなる力――承認印・ロッドを強く握りしめ、怪人と、そして黒井を睨みつけた。
「あなたのやり方、私がここで、完全に『差し戻し』てあげる!」
次回、魔法少女ミラクルミレイDX!
「第13話:敵の名は『ストレス・マキシマイズ社』」
社会の理不尽、私がきっちり最適化します!




