第12話:決裂!私たちのワークライフバランス
ストレス・マキシマイズ社――その存在が明らかになってから、神崎美玲と堀口梓の関係は、表面上は変わらないものの、水面下で大きく変化していた。
二人は魔法少女として、夜な夜な密かに接触し、黒井と名乗った男の情報を共有するようになっていたのだ。
「これまでの怪人発生地点と、黒井の目撃情報をマッピングしたわ。特定の業種や地域に偏りはない。奴らは、どこにでも現れる」
深夜の公園。マジカル・アズサは、空中に投影した光のマップを指し示しながら、冷静に分析結果を述べる。
「……ありがとう、梓。すごいよ、こんな短時間で」
ミラクルミレイは、素直に感心した。自分一人では、決してここまで辿り着けなかっただろう。
「当然よ。感傷に浸る時間があるなら、一秒でも多くデータ分析に充てるべき」
アズサの言葉はいつも通り辛辣だが、その奥に確かな危機感が滲んでいるのを、ミレイは感じ取っていた。
しかし、二人の協力関係は、根本的な思想の違いによって、常に危ういバランスの上に成り立っていた。
ある夜、二人は同時に、巨大な商業施設で発生した怪人の気配を察知した。
現場に駆けつけると、そこでは施設の警備員が怪人化し、暴れていた。長時間労働と、理不尽なクレーム客への対応。そのストレスが、彼をモンスター・クレーマーへと変貌させたのだ。
「お客様は神様だろォォ! 神の言うことには、絶対服従しろォォ!」
怪人は、客の無理難題をそのまま叫びながら、周囲の店舗を破壊していく。
「止めましょう、梓!」
「ええ」
二人は同時に飛び出すが、そのアプローチは正反対だった。
ミレイは、まず避難誘導を優先する。
「皆さん、危ないです! こちらへ!」
逃げ遅れた客を庇い、怪人の攻撃を受けながらも、安全な場所へと導いていく。
一方のアズサは、最短距離で怪人へと突進する。
「ターゲットの行動パターンは単純。クレームという名の攻撃を繰り返すのみ。ならば、その攻撃の起点を潰すまで」
アズサは、怪人の攻撃を最小限の動きでかわし、的確に急所だけを狙っていく。
その戦い方の違いが、最悪の事態を招いた。
アズサが怪人の腕を切り落とそうとした瞬間、ミレイがその攻撃範囲にいた客を庇って飛び込んできたのだ。
「危ない!」
アズサは咄嗟に剣を引くが、その一瞬の隙を、怪人は見逃さなかった。
「まとめて消えろォォ!」
強力な一撃が、二人をまとめて吹き飛ばした。
「……っ!」
「……ぐっ……」
瓦礫の中に倒れ込みながら、アズサはミレイを睨みつけた。その瞳には、これまで見せたことのない、激しい怒りの色が浮かんでいた。
「……なぜ、邪魔をしたの」
「邪魔なんかじゃない! 人を助けようと……!」
「あなたのその自己満足な『人助け』が、被害を拡大させていることに、まだ気づかないの!?」
アズサの怒声が、静かな夜に響き渡る。
「あなたのやり方は、非効率的で、甘くて、危険すぎる! 敵は、そんな感傷が通用する相手じゃない! 黒井という明確な悪意を前にして、まだそんなおままごとを続けるつもり!?」
「おままごとじゃない!」
ミレイも、感情的に言い返した。
「梓こそ、人の心が見えてない! あなたがやっているのは、ただのバグ駆除よ! でも、相手はプログラムじゃない、心を持った人間なの! 苦しんでる人を、ただ『削除』するなんて、私にはできない!」
「それが、あなたの限界よ」
「それが、私の戦い方なの!」
二人の魔法が、互いの感情に呼応するように、激しくぶつかり合う。ピンクとブルーの閃光が、夜空を焦がした。
その光景を、遠くのビルの屋上から、黒井が満足げに見下ろしていた。
「素晴らしい。実に素晴らしい。正義と正義がぶつかり合う時、最も質の高いストレスエネルギーが生まれる。魔法少女同士の仲間割れとは……最高のディナーになりそうだ」
彼の策略通り、二人の絆には、修復不可能なほどの亀裂が入ってしまった。
「……もう、あなたとはやっていけない」
アズサは、冷たくそう言い放つと、瓦礫の中から立ち上がり、背を向けた。
「私も、あなたとは戦えない」
ミレイもまた、アズサのやり方を受け入れることはできなかった。
二人の魔法少女は、決裂した。
最強のコンビになるはずだった光は、二つに分かれ、それぞれの孤独な夜へと消えていく。
ストレス・マキシマイズ社の本格的な脅威が迫る中、あまりにも、無防備な別離だった。
次回、魔法少女ミラクルミレイDX!
「第13話:敵の名は『ストレス・マキシマイズ社』」
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