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第10話:昭和野製作所の“本当の”DX

平日の昼下がり。

神崎美玲は、オプティクスワークスのロゴが入った紙袋を手に、都内の町工場が立ち並ぶ一角を歩いていた。

目的地は、昭和野製作所。

先日導入したビジネスチャットツールのフォローアップ訪問だ。


「美玲しゃん、油断は禁物でしゅ! あの百々社長のこと、どうせ『よく分からん!』とか言って、結局FAXを使ってるに決まってるでしゅ!」

「もー、失礼なこと言わないの。百々社長だって、頑張ってるんだから」

バッグの中のペンデュルンをなだめながら工場に足を踏み入れると、意外な光景が美玲を待っていた。

油の匂いが立ち込める工場内で、数人の若手職人が、一台のタブレットを囲んで熱心に何かを議論している。


「この加工手順、動画で撮ってマニュアル化した方が、新人にも伝わりやすいんじゃないか?」

「いいっすね! 俺、テロップとか入れるの得意っすよ!」

「百々社長にも見せてみましょうよ!」

その活気ある様子に、美玲は目を丸くした。


「おお、神崎さん! よく来てくれた!」

奥から現れた百々社長は、以前の頑固なオーラが嘘のように、晴れやかな顔をしていた。

怪人ドドゲラになった記憶はもちろんないが、ミレイとの戦いで心に突き刺さった「未来に繋げる」という言葉が、彼の意識を大きく変えたのだ。

「いやぁ、あんたに言われた通りチャットってやつを導入してみたら、これがまあ便利でな! 今まで電話で怒鳴り合ってたのが、アホみたいだ!」

社長はガハハと笑う。

「それに、若い連中が、俺たちの知らんツールを色々使いこなして、どんどん改善案を出してくるんだ。

正直、驚いてるよ」


しかし、社長は少しだけ、寂しそうな顔で続けた。

「……ただな、神崎さん。俺たちみたいな古い職人には、どうもあの小さい画面は馴染まなくてな。

結局、大事な指示は、今でも口頭か、紙に書いて渡しちまうんだ」

その言葉に、美玲はハッとした。

そうだ。

DXとは、ただ新しいツールを導入することではない。

使う人、一人ひとりに寄り添い、誰も取り残さないことこそが、本当の目的なはずだ。


その時だった。

工場の片隅で、ついていけない古参の職人たちが集まって深刻な顔で話し込んでいる。

「最近の若いモンは、口頭で伝えたことはすぐ忘れる」

「マニュアルがないと何もできんのか」

「俺たちの技術、このままじゃ誰にも継がせられん……」

彼らの不満と、未来への不安。

そのストレスが、工場の古い機械と共鳴し、赤黒いオーラを放ち始めた。


「ぐおおおお! やはり、仕事は見て盗むもんだ! 手取り足取り教えるなぞ、甘えの極み!」

古参職人たちのストレスが、工場の巨大なプレス機を依り代に、新たな怪人――テクノロジー・リジェクターを生み出してしまった。

怪人は、職人たちの熟練の技を歪んだ形で再現し、若手職人たちが持つタブレットやスマホを、その巨大なアームで次々と破壊し始める。


「みんなの想いを、壊させない!」

美玲は工場の外で素早く変身すると、ミラクルミレイとして再び舞い戻った。

「またお前か、魔法少女! だが、我らの長年の経験と勘で培った“匠の技”の前に、小手先の魔法など通用せん!」

テクノロジー・リジェクターの攻撃は、これまでの怪人のように力任せではない。

μ(ミクロン)単位の精度で、ミレイの急所を的確に狙ってくる。


「くっ……! 強い……!」

「美玲しゃん! この怪人の強さは、職人さんたちの誇りの強さでしゅ! 力でねじ伏せようとしたらダメでしゅ!」

ペンデュルンの助言を受け、ミレイは攻撃ではなく、対話と提案に切り替えた。


「あなたの技術は、素晴らしいものです! でも、そのままだと、あなただけのものになってしまう! それを、みんなの財産に変えましょう!」

ミレイはIDチャームを掲げ、光のキーボードを叩く。

「例えば、熟練の技を“スマートグラス”を通して録画し、若手が見習えるようにする! 口頭での指示は、“音声入力”でテキスト化し、いつでも確認できるようにする!」

ミレイが提案したのは、最先端のツールではない。

今の彼らにとって、本当に必要な「橋渡し」の技術だった。

「古いものと、新しいもの。

どちらも否定しない! 二つを繋ぐことこそが、本当のデジタルトランスフォーメーションなんです!」


ミレイの言葉は、怪人のコアである職人たちの心に深く響いた。

「俺たちの技が……消えずに、残る……?」

揺らぐ怪人に、ミレイはとどめの一撃を放つ。

「届け、みんなの想い! 伝統と革新のハーモナイゼーション!」

浄化の光が、優しく怪人を包み込む。

それは、古い機械を労い、職人たちの誇りを称えるような、温かい光だった。


戦いの後。

美玲は、百々社長と職人たちに、改めてDXの進め方を提案していた。

「社長。まずは、皆さんが普段使っている言葉や、やり方を、そのままデジタル化することから始めてみませんか?」

それは、魔法少女としてではなく、一人のビジネスパーソン、神崎美玲としての、心のこもった提案だった。

百々社長は、深く頷いた。

「……神崎さん。あんた、ただの物売りじゃねえな」


帰り道、美玲の心は不思議と晴れやかだった。

(私、少しは役に立ててるのかな)

その時、ふと視線を感じて振り返る。

路地の向こうに、先日見た黒スーツの男の影が一瞬見えた気がした。

だが、それはすぐに人混みに紛れて消えてしまう。

胸騒ぎを覚えながらも、美玲は自分のやるべきことを見据え、前を向いて歩き出した。


次回、魔法少女ミラクルミレイDX!

「第11話:敵の幹部?謎の男、現る」

社会の理不尽、私がきっちり最適化します!

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