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第5話 王国を動かす影

すいみんぶそくになってきたよぉー!

ぜひ楽しんでください♥︎︎∗︎*゜

王宮の重厚な壁に、静寂が重くのしかかっていた。

王座の間の隣室では、病に伏せる国王が静かに眠り続けている。

その顔はいつもより青白く、呼吸は浅く弱い。

まるで今の現状を嘆いているかのように、亡き王妃の肖像が国王を静かに見つめていた。


王国を揺るがす混乱の渦中で、王の存在はまるで儚い灯火のように頼りなく揺らいでいる。

王都の夜は荒れ狂い、貴族たちの間では不穏な噂が飛び交う。

王国の未来を憂う声と、次代の玉座を狙う者たちの影が交錯し、王宮は緊迫した空気に包まれていた。


とある部屋の片隅には、病に伏せる国王のために特別に用意された薬――誰も知らぬ闇の証が、冷たく光を反射していた。

その存在は、王国の未来を大きく揺るがす秘密の一端を示しているかのようだった。


静寂を破るように、長い廊下を足音が急ぎ足で駆け抜ける。

王国の重鎮たちが、王太子の召集に応じて作戦会議室へと集められていた。


扉が重く軋みを上げて開かれると、会議室にいた騎士団長や貴族たちの視線が一斉に向けられる。

王太子ライト・セフィティナが姿を現した。

青い軍装の襟はわずかに乱れ、手袋に包まれた指先は何度も握り締められていたせいか白く強張っている。

額には冷や汗が浮かび、険しい顔に灯るのは苛立ちと焦燥。

彼は大股で歩み寄ると、会議卓の端に両手を叩きつけるように置いた。


「……アイラを奪還すれば、王国の威信は回復する!」


声は低く震え、胸の奥に燻る怒りを押し殺したようだった。


「ぐずぐずしていれば、民心はさらに離れるだけだ!」


会議室の空気は一瞬にして張りつめ、重い沈黙が降りた。


重厚な会議卓の向こうで騎士団を束ねる老総長グレゴールが深く息を吐いた。

皺の刻まれた顔に苦渋の色を浮かべ、ゆっくりと立ち上がる。


「殿下……焦るお気持ちは理解いたしますが、魔王の領域へ無策で攻め入るのは無謀でございます。軍を動かせば、敵にとっても好機となるやもしれません。」


「無謀だと?」


ライトの目がカッと見開かれ、机を叩く音が再び響く。


「王国の威信がかかっているのだ! 貴様まで臆するのか!」


会議室の空気が一瞬で凍り付く。

誰も次の言葉を続けられず、沈黙が重く垂れ込めた。


そんな中、補佐官クロードが静かに口を開いた。


「……殿下、騎士団総長の懸念はもっともかと存じます。ただし、無策と見える動きは、かえって貴族たちに王家の統制を疑わせる恐れもございます。」


ライトの眉間がピクリと動き、青い瞳がクロードを鋭く射抜く。


「……貴様も俺を止めるのか。」


「止めるわけではありません。

むしろ、殿下の威光を最大限に示すため、成功率を高める策を――」


クロードは一歩前へ出て、机の端に指を置いた。

その動きは慎重で、まるで獲物を追い詰める狩人のような冷静さがあった。


ライトはしばし黙り、額の汗を拭う。


「……いいだろう。だが、俺は待たんぞ。

アイラを――奪い返す。それだけは譲れぬ。」


クロードは内心で小さく嘆息する。


(やはり殿下は焦りに飲まれている。……しかし、それも悪くない。計画を進めるには、今が好機だ。)


王宮の会議室は、張り詰めた沈黙に包まれたまま、燭台の炎だけが小さく揺れていた。

誰もが王太子の一言を待っている。


「……少数精鋭の奇襲部隊を組む。」


ライトが低く、だが断固とした声で言い放つ。


「軍全体を動かせば時間がかかる。だが、俺が自ら先頭に立ち、奪還すれば――

王国の威信は一気に回復する。」


貴族たちが顔を見合わせ、緊張が走る。


「殿下直々に……!? それは危険が過ぎます!」

老将軍が即座に反論するも、ライトは机を拳で叩き、押し切った。


「俺は王太子だ! 王国の未来を背負う者が、恐れてどうする!」


誰もその剣幕に逆らえず、場は沈黙に沈んだ。

その隙をつくように、クロードが穏やかに口を挟む。


「……ならば、交渉の策を並行して進めてはいかがでしょう。

奇襲部隊の準備と同時に、魔王側に揺さぶりをかけるのです。

交渉に応じればよし、拒まれれば我らの手で奪い返す――

その二段構えなら、貴族たちの不満も抑えられましょう。」


ライトは鼻を鳴らしながらも、しぶしぶ頷く。


「……いいだろう。だが、交渉で解決するなどという甘い夢は見ぬことだ。」


クロードは頭を垂れ、口元に微かな笑みを浮かべた。


(殿下の焦りを逆手に取り、騎士団の動きも制御できる……これでよし。だが次は――)


彼の視線は一瞬だけ扉の外をかすめる。

そこには、まだ名を出さぬ“もう一人の殿下”を巡る影が潜んでいるのだった。




外に出ると廊下はひんやりとした空気に包まれていた。

王城の夜は静かだが、その静寂こそが不穏さを物語る。

クロードは壁際にある古い書庫の扉を開き、迷うことなく奥の机に歩み寄る。


そこには一通の封蝋で封じられた書簡が置かれていた。

蝋の紋章は王国のものではない――密やかな印だ。


「……急がねばなりませんね、殿下。」

かすかな声で呟きながら、彼は封を切り、素早く視線を走らせた。



“王都の混乱は追い風――その時を逃すな。”



クロードは書簡を手の中で折り畳み、無言で懐に収めた。

瞳の奥に、一瞬だけ鋭い光が走る。


(ライト殿下……貴方が暴走すればするほど、玉座は遠のく。だが、今はまだ“その時”ではない。……私は盤面を整える。)


彼は足音を殺し、闇に溶けるように廊下を去っていった。

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