第6話 世界はちょっとだけ静かになった
冥府山のほとんどは崩壊。
魔王城があった場所は、お花畑へと変貌をとげていた。
「爺ちゃん。かっこよかったよ……」
お花畑の真ん中で、ヨワメはひとり腰を下ろしている。
赤くした目で、ぼんやりと蒼穹を眺めながら呟く。
「ホントにいなくなっちゃったのかな……」
大きな爆発のあと、爺の姿は消えていた。
遺されたのは、焦げた腹巻と1本の湿布だけ。
ヨワメは、強めに腹巻を握りしめる。
「なんだよ爺ちゃん、ちゃんと最後までツッコませてよ……」
感傷に浸っていると、どこからか声が聞こえてきた。
「誰が死ぬかい。年金はあと3回分残っとるわい」
空の彼方、ふわふわと浮かぶ雲の上に、ちゃぶ台の上に敷かれた座布団に座っている老人がいた。
「爺ちゃんッ!? 生きてたの!?」
「当たり前じゃ。クスリがおやつみたいな年寄りはな、しぶといんじゃよ」
「大物歌手か! ってか、どこにいたの!? なんでちゃぶ台ごと浮いてるの!?」
「老人ホーム天界支部じゃ。腰に優しいベッド付きじゃ」
「死んどるやないかぁ~い!」
しかし、ヨワメの表情はどこか満ち足りていた。
「ヨワメ、おぬしはもう立派なツッコミじゃ」
「爺ちゃんのボケが濃すぎただけでしょ」
「それでもな……」
風に吹かれて、爺の声が少しだけ優しくなった。
「おぬしと旅ができて楽しかったぞい」
「私もだよ……」
ぽろりと一粒、ヨワメの目から涙が落ちた。
そんなヨワメを見て、すかさず爺が叫ぶ。
「泣くでない! それは“目薬”じゃろがい!」
「ちがう! ガチの涙だよ!!」
二人の声が、澄み渡った空に溶けてゆく。
世界は救われた……。
ギャグと鼻水と湿布の勇者が、確かにそこにいた……。
爺が残したものは、ボケでも武勇でもない。ひとりの少女の成長だった。
ファイナルふぁんた爺は、今日もどこかで叫んでいる。
薬で腹いっぱいになっちまうわぁ!