第2話 骨伝導かっ!
人でごった返す冒険者ギルドの中で、少女が溜息をついた。
「はぁ……また、クエスト受注失敗かぁ。これでも、未来の勇者候補なんだけどなぁ……」
彼女は『金剛力 弱芽』。
上げて落とす! みたいな氏名の少女は、魔導スマホでSNSばっかり見ている。
楽して明日のスター(勇者)を夢見る、ちょっと残念な娘だ。
いろいろな事業を興しては、撤退を繰り返す。
焼き菓子のプロデュースを手掛けたが、見事に玉砕。
売れたのは3個だけ。
菓子の名は『おじいちゃんの根性焼き』だった。
「#世界滅亡なう、でバズらないかな……」
そのときだった。
ギルドの重い扉が、爆音とともに吹っ飛んだ。
「……すちゃたらばぁぁぁ!」
立ち昇る煙の中から現れたのは、ファイナルふぁんたジジイだ。
腰の曲がった爺の姿はブーメラン。
床にぶっ刺さったブーメラン、いや、爺が立ちあがる。
背中には『今月ぶんのおくすり袋』を背負う。
袋には、年々増え続ける大量の診察券が入っている。
「だ、誰ですくわぁ? ギルドにブーメランを投げこんだのは!」
ギルドの受付嬢が絶叫した。
爺は、ずかずかと遠慮なくカウンターに近づき、真剣な顔で言い放つ。
「若者が頼りにならん時代じゃ。わしが勇者やるぞい」
爺の一言で、ギルド内が静まり返った。
「何かのコント? 爺ちゃんはブーメランなの?」
傍らにいたヨワメが、不思議そうな顔で爺に話しかけた。
「コンセントじゃないわい。コルセットじゃ。つけ忘れたんじゃがな!」
「誰がうまいこと言えとぉぉぉ!!」
思わずツッコミを入れたヨワメの声が響く。
「爺ちゃんって、いくつよ?」
「99歳と11ヶ月と27日と6時間と6分《《66》》秒……」
「何時計だよ! ってか、爺ちゃん。頭のそれはなに?」
「これか? 補聴器じゃ」
「骨伝導かっ!」
「は? あんだって?」
都合の悪いことは、爺の耳には入ってこないらしい。
ヨワメが脳内で思考をめぐらせる。
この爺ちゃん、ただのボケ老人に見えるんだけど。
なんか気配がバグってるし、顔がパグっぽい。
え? ウソ……レベル999……!?
ヨワメのスマホ魔導スキャンが弾き出した数値は、常識をはるかに超えていた。
「わしの必殺技、『くしゃみメテオ』を試すにはちょうどええ天気じゃの……ふぇ……ふぇっ……くしょん!!!」
爺がボソッと呟やくと、すぐさま、遠くの火山が噴火した。
「なんで?」
脱力したヨワメの手から魔導スマホがこぼれ落ちた。