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第1話 カーテン返せやぁ!

 枯れた観葉植物の隣、99歳の男は、まだこの世界にいた。


 魔法と機械が共存する国『ハイブリたん王国』。


 老人ホームのとある一室。

 ベッドに横たわる、一人の老人。

 スーハーと静かな寝息をたてる。


「薬で腹いっぱいになっちまうわぁ!」


 いつもの寝言だ。


 しわくちゃの顔面。

 白く薄い髪。

 というか、髪はほとんどなく、毛根は絶滅が危惧される。


 若かりし頃、彼は法人労務の職についていたことがあった。

 老人ホームにいる法人労務の人という、ちょっと訳がわからない状態だ。


 何かが焼けた香ばしいニオイが鼻腔をくすぐった。

 老人のまぶたがパカッと開いた。

 いい感じに焼けたハマグリのような勢い。


「もう夕飯の時間かの?」


 違う。まだ午後3時だ。

 そんなことより、今は世界が滅びかけている。


 老人が、ゆっくりと起き上がる。

 ぎしぎしと悲鳴をあげる骨。

 パキパキっと鳴る関節。

 体を動かすたびに屁を放つ、ゆるいコーモンさま。


「あちこちの骨がファイナルしそうじゃ……」


 だがしかし、彼の目には力があった。いや、光り過ぎていた。

 目からビームが出そうなほどギンギンだ。


「この気配……もしや、“魔王(やつ)”が復活しおったか!」


 殺菌しておいた入れ歯をはめながら、彼は言った。


「しゃあないのぅ。わしが世界を救うかのぉ……」


 痛む腰とヒザをさする。

 布団の横にあったテレビのリモコンを、杖と勘違いして振り回す。

 テレビがついてしまった。


 画面には、“魔王ゾンビル復活記念生中継”の文字が。


 魔王はテレビ出演するレベルでエンタメ化されていた。

 魔王の暴走を止められる者は、この世界には、ほとんどいない。


 勇者育成学校の卒業生たちは全滅。

 賢者ギルドは、とうの昔に廃業している。


 残されたのは、たった一人‥‥‥。


「伝説の勇者『ジジルド・ヨーツーモチ』。だれが呼んだか、通称『ファイナルふぁんたジジイ』、いざ参る!」


 叫ぶや否や、ベッドの下に隠していた“ブーツ型”ロケットを装着。

 なぜか腕に。


 点滴の途中だが気にしない。

 窓を突き破って空を飛んだ。

 後ろ向きで。


 様子を見に来た女性職員のおたけびが響き渡る。


「カーテン返せやぁぁぁぁ!」


 老人のいない部屋で、ぷらんぷらんと点滴のチューブが風になびいていた。


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