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弱きものを踏みつける人たち⑦

「お疲れさまでした、ミラさま。シェフが腕によりをかけたマドレーヌはいかがですか?」


 ミラが自身の机を片づけ終わったところでモモが声をかけた。


「ええ、いただくわ」


 お気に入りの小さな丸テーブルに用意されたマドレーヌと真っ白なミルク。ミラはいそいそとイスに座り瞳を輝かせた。マドレーヌはミラが二番目に好きなお菓子だ。


「とてもおいしい」


 マドレーヌを半分ほどかじって咀嚼すると、バターの香りと砂糖の甘さが口いっぱいに広がる。それを十分堪能したところでマドレーヌを飲みこみ、続けてミルクで流しこむ。マドレーヌとミルクの相性は抜群。ミラはご満悦の表情だ。


(ミラさまの食べる量もかなり増えてきたわね)


 以前はマドレーヌをひとつ食べれば十分だったが、最近は最低でもみっつは食べるし、それまで小さめのコップでミルクを一杯飲めば、そのあとの食事に影響が出てしまうくらいだったのに、今では大きめのコップで二杯は必ず飲んでしまう。


 おかげでミラの体は、ここ数か月のあいだに急激に成長していた。


 女の子はミラの年齢くらいになると、だんだん身長は伸びなくなり、ふっくらとした柔らかな曲線へと体形が変わり始めるものだ。それに成長期に栄養が足りていない場合、低身長のまま大人になってしまったり、あらゆる能力が低下し、本来持っている能力を発揮することができないままだったりするのだが、ミラはそういった常識などまったくあてはまらず、身長は確実に伸びているし肉付きがよくなった。


 おかげで半年前に作ったドレスは、すでにミラの体には合わなくなってきている。一か月前に新たにドレスを作ったのだが、果たしてそれもいつまで着られるか。


(カサブランカさまはドレスを作る楽しみが増えて喜んでいるけど。……そういえば)


 ふと、ごくごくとミルクを飲んでいるミラの髪を飾る大きなリボンを見た。ヘアバンドのように頭に巻かれた大きなリボンは、一番高い場所できれいに結ばれている。


 実はずっと気になっていることがあるのだ。ミラがいやがるのであまり見ないようにしているのだが、リボンで隠している髪が生えていない部分。つまり以前ツノが生えていた場所が、とても気になっているモモ。


(私の見間違いでなければ、もしかしたら……)


 モモはタイミングを見はからってミラに話しかけた。


「ミラさま」

「なぁに?」


 マドレーヌを食べて上機嫌のミラが、かわいらしい笑顔でモモを見る。


「ミラさまのリボンがゆがんでいるので、直してもよろしいでしょうか?」

「え? リボン?」

「はい。少々リボンの形が崩れてしまっているので」


 モモがそう言うと、ミラは頭を触ってリボンをなおそうとした。そのとき。


「あれ?」


 ミラが探るように同じ場所を何度も触る。


「うーん……」

「いかがなさいましたか?」

「……頭に、なにかある」

「まぁ、なんでしょう。私が確認してもよろしいですか?」


 モモが聞くと、ミラは少し考えてからうなずいた。その様子を見てモモがホッと息を吐く。


 実は、ツノが取れてしまって以来、その部分を見られることをミラがとてもいやがったため、モモは極力その部分を見ないようにして髪を整えていた。そのため、見せてほしいと言っても聞いてはもらえないかもしれない、と心配をしていたのだ。


「では、失礼します」


 ミラの背後に回ったモモがミラの髪のリボンを外し、少し乱れた髪を整えると。


「あら?」


 モモがそう言ってミラの頭上をじっと見つめる。


「やっぱり」


 そこはツノの根元がなくなり傷となった場所で、かさぶたになっていたが徐々に傷痕の面積が狭くなっていた。ではそこから髪が生えてくるのかと思えばそんなことはなく、かなしいことにその部分は剥げた状態になっていて、触るとずいぶんと硬かった。それを隠すためにヘアバンドやリボンをつけていたのだが。


「なぁに?」


 モモが熱心にミラの頭をのぞき込んでいる。いったいなにが彼女の顔をそんなに笑顔にしているのだろう。


「モモ?」

「ああ、すみません、ミラさま。少しお待ちくださいね」


 そう言うと、鏡台に置いてある手鏡をとって、ミラのツノが生えていた場所を合わせ鏡で鏡台の鏡に映した。


「え?」


 ミラは鏡台の鏡に映った自身の頭を見て、目を見はる。


 剥げていると思っていた場所に小さな尖りを見つけたのだ。


「ツノ?」

「ええ、そうですミラさま。ツノが生えてきたのですよ!」


 それは退化した突起ではなく、間違いなくツノだ。


「ツノが? 新しく?」

「ええ、そうです! とてもかわいらしくてきれいなツノです!」

「――っ! 私! ブランカさまに見せてくる!」


 ミラは勢いよく立ちあがると、そのままドアを抜けてカサブランカの部屋まで走っていった。


「まぁ、ミラさまったら、本当にうれしそうだわ」


 モモは、まったく淑女らしからぬミラの背を見おくって、クスクスと笑った。



読んでくださりありがとうございます。

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