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ツノあり姫  作者: 三毛猫 寅次


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ディクソンとエレンティアラの出会い①

「――君たちにも見せてあげたかったな。二十頭はいた野犬が一斉に俺に襲いかかってきたのを、剣を振って野犬たちを次々なぎ倒してやったんだ」

「ま、まぁすごい」

「え、ええ、そうね。野犬なんて……」


 あまり間がいいとは言えない令嬢たちの相槌に満足しながら、子息は話を続ける。


「我が国の騎士団長は、他国にも敵うものはいないと言われている強者だが、俺に言わせればそうでもない。なぜなら、これまで何度も手合わせをして、俺が勝っているからな」

「殿下は、とても剣がお強いのですね」

「あぁ、自分で言うのもなんだが、はっきり言って俺に勝てるやつなんてそうそういないんじゃないかな」

「それは、ええ、すごいわ」


 とても信じることができない内容も、おもしろければ許せるが、ただの自慢話ではどう受けとめていいのやら。


 殿下というからにはアヴィリシア王国の王子なのだろう。


 さすがに他国の王族を無下にすることもできず、逃げだしたいのを我慢してつきあっていることが、令嬢たちの表情からありありとわかる。それに彼らを離れた所から見まもっている侍従の顔にもはっきり書いてある。あれは大変だ、と。


 さてどうしたものか、とアンジェが考えてちらっとエレンティアラを見ると、彼女は顔をゆがめ淑女らしからぬ表情を浮かべていた。


「なに、あの人」


 明らかに不快であると訴えている。


「あの方がアヴィリシア王国のディクソン王子殿下です」


 アンジェがいまさら言わなくてもいいことを言い、エレンティアラはますます顔をゆがめた。


「ずっとティアさまを待っておられました」

「……最悪」


 恐ろしい顔をしているわけでも、オオカミのような大きな牙を持っているわけでもなさそうだが、図々しいくらいに大きな態度と、あきれるほどのほら吹きのようだ。


 エレンティアラは大きく息を吐いて、自分を鼓舞してからディクソンがいる席に向かう。


「大変お待たせいたしました」


 エレンティアラの声を聞いてディクソンが振りかえる。そして、固まった。


「遠くからようこそお越しくださいました。クラフィール王国王女エレンティアラと申します。どうぞお見知りおきくださいませ」


 エレンティアラはていねいに、そして優雅にあいさつをした。


「……」


 しかし、ディクソンから返事はない。


「あの……?」


 そこでようやくはっとしたディクソンが顔を真っ赤にして勢いよく立ちあがった。


「お、お、いや、僕はディクソンだ。アヴィリシア王国から来た。王子だ。な、仲良くしてくれ。あ、俺、いや僕のことはディクソンと呼んでくれてかまわない。き、君のことはエレンティアラと呼ぼう」

「はぁ……そのように」


 なんともあいまいな返事をしながらエレンティアラが席に着く。その様子を見ていた令嬢たちは一様にホッとした顔をしている。


「エ、エ、エレンティアラさまは、お、おいくつですか?」


 ディクソンから唐突な質問。


「私は十歳ですわ」

「そ、それはいい! お、僕は十一歳なんだ」

「まぁ、そうですか」


 だからなんだというのだ。


「エレンティアラさまには、こ、こ、こ、婚約者はい、いますか?」

「いいえ。まだ決まっていませんの」

「そ、そうですか!」


 ディクソンの声がとても大きい。


「お、ぼ、僕もまだなんです。本当に参っちゃいますよね。本当によかった」


(参った? よかった?)


 ディクソンが言わんとしていることが理解できず、エレンティアラが首を傾げる。


(婚約者が決まっていないことがいやなのかしら。私も決まっていないから仲間意識でも持たれたのかしら? なにをおっしゃりたいのかまったくわからないわ)


「ディクソン殿下は剣の腕に覚えがあるとか」

「あ、聞かれていましたか? い、いや、はずかしいな。実は、五歳から剣を振っていまして。師の騎士団長も、もう僕に教えることはなにもないなんて言っちゃってて。ぜひ、エレンティアラさまに僕の腕前を披露したいなぁ。あ、エレンティアラさまはそんな凶暴な男はお嫌いですか?」


 なんて、先ほどまで緊張していたのに話を始めると、途端に流暢な自慢話が始まった。


(ずいぶんとおしゃべりな方だわ)


「――本当に驚きです。エレンティアラさまがこんなにかわいらしい人だったなんて。僕の国にもかわいい女の子たくさんいますが、エレンティアラさまほどの容姿をした女の子なんていません。エレンティアラさまとこうしてお話ができるなんて、本当に僕は幸せ者です」

「はぁ」

「そういえば、こんな話を知っていますか? 運命の出会いは幼いときにしているそうです。その出会いを逃したら幸せを逃すっていう」

「さぁ、存じませんが」

「本当ですか? 僕の国ではとても有名な話なんですけどね。僕はその話が事実であると確信しました。なぜなら、僕はあなたに出あってしまったのです」

「え?」


 ディクソンがじっとエレンティアラを見つめる。


「僕たちの出会いは運命だったのです」

「え? い、いえ、それはないかと」


 思わず大きく首を振ってしまうエレンティアラ。


「ハハハ、エレンティアラさまはとても恥ずかしがり屋なのですね」


 ディクソンはかわいい人だ、なんてことを言いながらエレンティアラとの距離を詰めてくる。


(なに、この人? 気持ち悪い)


 エレンティアラは振りかえってアンジェに目で訴えた。アンジェがそれを合図に近づいてくる。


「失礼いたします」


 アンジェが声をかけるとエレンティアラがホッとした顔をする。


「ご歓談中に申し訳ございません。エレンティアラさま、そろそろお時間です」

「まぁ! もうそんな時間? せっかく楽しくお話をしていたのに」


 エレンティアラが大袈裟に残念そうな声を上げた。


「申し訳ございません。お客さまがエレンティアラさまをお待ちですので」


 アンジェは恭しく頭を下げ、エレンティアラはますます残念そうな顔をしてから立ちあがる。


「申し訳ございません、ディクソンさま。私、ほかのお客さまとお約束をしておりましたの」

「そ、そうでしたか。それはとても残念です。もっと、エレンティアラさまと話をしたかったのに」

「ええ、私ももっとお話をしたかったので残念ですわ」


 その言葉にディクソンの頬が染まり、瞳が輝く。


「で、では、また僕と会ってくださいますか?」

「え……? ええ、機会があれば、ぜひ」


 ディクソンはますます瞳を輝かせた。


「では、失礼します」


 エレンティアラは上手にカーテシーをして、ニコッとかわいらしい笑顔を残してその場をあとにした。


「はぁ、なんてかわいらしいんだ。とても毅然としているのに、僕を恥ずかしそうに見つめて……。待っていてください、エレンティアラさま。必ず僕が迎えに行きます」


 ディクソンの心に小さな恋の火が点く。その火は短い時間で大きな炎となり、彼の心を存分に燃えあがらせた。「会えない時間が二人の愛を育てるのですね」なんて一人呟きながらエレンティアラのかわいらしい姿を思いだし、二人の幸せな未来を想像して頬を赤らめて。


読んでくださりありがとうございます。

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