7.帰路に就く
マリーって呼ばれるの凄まじいわね。胸がぎゅんぎゅんするわ。
「イブって呼んでもいいの?」
「うん!呼んで欲しい!」
マリアーナは胸がキュンとした。
「イブ、イブ。分かったわ!これからはイブって呼ぶわね!!
愛称で呼んでもいいなんて、本当にありがとうイブ!」
イブと何度か声に出し、本人に向かって言う前に練習した後にお礼を言った。
それを聞いたイーブはぱあっと笑顔になった。
「嬉しい!嬉しいなぁー。マリー、ぼくとっても嬉しいよ!」
二人はにこにこしていた。
その後、ノアの最近読んだ本や人から聞いた興味深い話、コリンの最近遊んだことや興味の湧いた話、ノエルとコーデリアの仕事や家族の話などをマリアーナは聞いた。
イーブは今まで興味が湧いたことがなかったため、
特に自分から話しはせず表情をコロコロと変え、楽しそうに話を聞くマリアーナを見ていた。
マリアーナはイーブとも話しをしたかったため、自分から話しかけた。
「お家ではイブは何してるの?」
「んー。本を読んだり、お庭のお花を見たり、兄様達と遊んだり、母様、父様とお話しをしたりしてるよ」
「そうなのねぇー」
マリアーナはその姿を想像し、にこにことした。
そんなことを話していたら、イーブ達が帰る時間となった。
「もう帰る時間ね。名残り惜しいと思うけど、もう帰るわよ。
さぁ、みんな!姫様にお別れの挨拶をして帰りましょう」
コーデリアがみんなにそう言ったため、一人一人別れの挨拶を始めた。
「今日は突然の訪問にも関わらず、私達の話も聞いていただき誠に感謝致します。
また、いずれこちらに日々のご報告に参ります。」
「えぇ、待っているわねノエル」
「姫様、今日はありがとうございました。久々に姫様に会えて、とても嬉しゅうございました。
イーブのブレスレットを届けに来てくれるの待っておりますわ。
そして、こちらにもまた姫様に会いに参ります」
「えぇ、あなたのことも待っているわコーデリア。身体に気をつけてね」
「また来ます。今日はお話出来て楽しかったです。沢山お話を聞いて下さりありがとうございました、姫様」
「次来たときも沢山お話聞かせてちょうだいねノア」
「次来る時は剣の鍛錬の話をするよ!楽しみにしててな!僕の剣の話!
絶対すごい話持ってくるからさ。また来るぜ!姫様」
「えぇ!あなたの凄いお話待っているわ。剣の鍛錬頑張ってねコリン」
「・・・・・・・・・」
別れの挨拶を言わないイーブにコーデリアが話しかけた。
「ほら、イーブもお別れの挨拶しましょうね。誰かと別れるときはちゃんとご挨拶するってお話したでしょう?」
「・・・でも、帰りたくない。挨拶したくない」
イーブは下を向いてそう言った
マリアーナにはイブが嫌だ!まだマリーと一緒にいたい。嫌だ。とぐるぐると考えているのが見えた。
私も帰って欲しくはないけれど、ここは私が説得しましょう!
そう思い、私は椅子から立ちイブの前に行き、イブに合わせてしゃがんで話しかけた。
「イブ。イブは帰らないと。
ここには貴方に食べさせてあげられる食事もないし、帰らなければ貴方がお家でしなきゃいけないことも出来なくなるでしょう?
そ・れ・に!帰ってみんなでお話ししてくれないと、結婚の話も宙ぶらりんよ。
ちゃんとどうするか決めるのよ。
私はこれからあなたのブレスレットを作って、少ししたらあなたに届けに行くから。ね?イブ」
「・・・分かった。帰る。マリー、早く逢いに来てね。ブレスレット早く欲しいし、
マリーに早く逢いたいから。今日はとても楽しかった。またね、マリー」
マリアーナは悲しげに笑った。
「えぇ、もちろん。ブレスレットが出来次第、すぐに逢いに行くわ。
みんな!今日はありがとう。また会えるのを楽しみにしてるわ。気をつけて帰ってね」
イーブはマリアーナを見ていた目をずらし、ちらっとステイシーのことを見た。
ステイシーはふっと笑い言った。
「わたくしもお待ちしておりますよイーブ様」
「うん!またね、マリー、ステイシー様!」
「それでは失礼致します。姫様」
ノエルのお辞儀に合わせ、みんなでお辞儀をしてイーブ達はマリアーナとステイシーに背を向け歩き出した。
「またねー!みんな!」
マリアーナはゆらゆらと手を振っていた。
ステイシーはその隣でお辞儀をしていた。
ノエルは振り返って軽く会釈をコーデリアは振り返って笑った、ノアもノエルのように軽く会釈をした。
コリンは口を開けて笑いながら手をブンブンとマリアーナに向かって振った。
イーブはすぐに振り返って手を振り返した。
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歩き出して少ししたら、もう振り返ってもマリーは見えなくなっていた。
凄く悲しくて、ぼくは歩きながらずびずびと泣いた。
「偉かったわね、イーブ。」
「あぁ、偉いぞイーブ」
「偉いねぇ、イーブ」
「偉い!偉いぞ!イーブ」
みんなに偉い偉いと言われていたらすぐに門の前についた。
みんなで振り返ってお辞儀をし、みんなは次々と門から出た。
ぼくもすごく名残惜しかったがその門から出た。
そして門から出たあと、ぼくは振り返りもう一度門の中を見た。
「イーブ!イーブも出発する前にトイレに行っとくのよ〜」
「あっ!はいっ!母様!」
ぼくらはトイレを済ませ、馬車に乗り込んだ。
馬車が走り出した。
一つの馬車に五人で乗っていた。
ぼくは結婚の話を考え出した。
結婚、結婚ってどう思ったらするものなんだろう?
どう思ったたら、して、しないのんだろう?分からない。
よく考えてってみんな言ってたけど、、、うーん。
「ねぇ、父様、母様。どうして父様と母様は結婚したの?」
母様はふっと笑って、父様の方をちらっと見てから話してくれた。
「そうねぇ。母様と父様はね、私たちのお父様がね婚約者にどうかなって薦めてきて会うことになったのが最初なの。それでね、、あっ!ちょっと長くなっちゃうかもしれないけれど、いいかしら?」
「うん!大丈夫!」
「最初にノエルとの婚約の話を父から聞いた時は少し荷が重いと思ったわ。
ストラウド公爵家は代々妖精姫様と親しくしているでしょう?
だから、自分が妖精姫様と関わるのは私には力不足だと思ったわ。
それにもしノエルと上手くいっても、妖精姫様に認められなかったらとか考えちゃって怖かったわ。
でも、父様がね。きっと会えばお前はノエル卿のことを気に入るぞって言うの。
だから、気になって会うことにしたの。
実際、ノエルに会って、
ノエルと私、ノエルのお父様、私のお父様の四人で話している時は真面目で堅い印象を受けたわ。
その時はどうして父様が気に入るなんて言ったのか分からなかったわ。
その後、ノエルと二人でねストラウド公爵家のお庭を見たの。
そのときノエルはね、『大丈夫か?疲れてないか?』って聞いてきたの。
まさか、私のことを心配してくれるなんて思わなくてね。まだ会ったばかりだったから。
その後お庭を見て回る時にエスコートしてくれたんだけど、私の歩く速度に合わせてくれたの。
あと、お花についてもとても詳しくてね。
一つ一つ説明してくれて、質問をしても優しく笑って説明してくれたの。
凄く一緒にいて楽しくて、私を気遣ってくれる所もあって、この人なら一緒にこれからやっていけるかもって思ったの。
だから、お庭を見終わったときにね。勇気を出してね『また、あなたに会いたいです。』
って言ったら、ノエルったらね。凄く驚いて、固まってね。
『そんなこと、言われたのは初めてだ』とか言って、そのあとはね動きがガタガタしたり、
帰りの挨拶であたふたしてたりしてね。そんな不器用なところにもキュンときてね。
婚約を決めたってわけよ。
まぁ端的に言うなら、今後一緒にやっていける未来が想像出来たからかしらね。
この人となら楽しく暮らせそう!って思ったからかな。
こんな感じで参考になる?イーブ」
隣にいたノエルは少し頬を赤らめ、恥ずかしいが嬉しそうな顔をしていた。
なるほどぉ、一緒にやっていける未来かぁ、、
「うん!一緒にやっていけるか、その人と楽しく暮らせそうかってことが決めてだったてことでしょ!すっごく参考になるよ」
「なら、良かったわ」
「父様はどうして母様と結婚したの?」
母様の話でかなり参考になったが父様の話も聞いて見たくて、ぼくは父様にも聞いてみた。
ノエルはコーデリアが長く話したので、まさか自分も話すことになるとは思って居らず驚いたが、
参考になるならと思い話し出した。
「そうだなぁ。婚約の話で会った時コーデリアを見て、とても美しくて可憐な人だと思ったんだ。
あまりの美しさにコーデリアに私は相応しくないのではないかと思ったさ。
コーデリアは私の父が質問したり、返答を求めた時の返しが素晴らしくてな。
素晴らしい方だと思ったが、やはり私には相応しくないのではないかと思ったよ。
庭を見たときに、私の話を楽しそうに聞いてくれてな。
質問までしてくれたんだ。
私はそれまで堅苦しくて、一緒に居てもつまらないと言われていてな。
そんな私にコーデリアはまた会いたいって言ってくれてだな。
やはりそんなことを言うコーデリアは私には相応しくないと思ったが、
私もコーデリアとまた話をしたいと、コーデリアの優しく微笑んだ表情や驚いた顔、少し悔しそうな顔なんかもまた見たいと思ったんだ。
だから、コーデリアが会いたいと言ってくれるうちはコーデリアの傍にいようと決めたんだ。
婚約の決めてはコーデリアと一緒に居たかったからとコーデリアを他の者に取られたくなかったからだな。
今は私がコーデリアの隣に相応しいように日々、努力しているさ」
「まぁ!そんなことしなくてもあなたは私に相応しいわよ!
でも、そんなふうに常に努力している貴方も好きよ」
「それは嬉しいな」
ノエルは目を細め愛しそうにコーデリアを見ていた。
そして、コーデリアはとても幸せそうな笑顔でノエルを見ていた。
話を聞き、ノアは少し恥ずかしそうにしていた。
コリンはそんな感じの出会いだったんだぁーと思っていた。
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ぼくはマリーとの未来を想像した。
二人で楽しく話をしたり、一緒に本を読んだり、ぼくの家のお庭のお花を一緒に見たり、
一緒にご飯を食べたり、旅行も楽しそうだなぁ。
マリーとなら何をしても楽しいだろうなぁ。
だがマリアーナと婚約したらどうなるかイーブには分からなかったため、
今後の具体的な想像はイーブには出来なかった。
マリーと婚約したらどうなるかは分からないから、将来何するかはわかんなくて、一緒にやっていけるかはわかんないなぁ。
でも、マリーとならきっと何をしてても楽しいだろうから楽しく暮らせそうだなぁー。
きっとマリーがいるならどこでも楽しくなるし、
マリーが一緒に居てくれたり、褒めてくれたりしたらどんなこともできる気がした。
ぼくは父様が言っていたことの方を考えてみた。
マリーが他の人にとられる、、、
マリーが凄く楽しそうに誰かと話す。
マリーがぼくに言ったみたいに、結婚したいとか好きとか名前で呼んで欲しいとか
私のものって印をつけたいって他の人に言うのを想像してみた。
すっごく、すーーごく嫌だった。
胸がむかむかした。
ぼくにだけがいい。
好きって言うのも結婚したいって言うのも、愛称で呼び合うのも、印をつけるのも
ぼくだけでいい。
そう思った。取られたくないから婚約したって父様は言っていた。
ぼくもマリーを他の人に取られたくない。
マリーともーっと一緒にいて、マリーの笑顔を見たい。
「ねぇ、父様、母様。ぼく、マリーと婚約して、いつか結婚したい!
マリーとなら何をしてても楽しく居られると思うし、マリーが他の人に好き!とか結婚して!とか
名前で呼んで!とか言うのは凄く嫌。だから、婚約してマリーにはぼくだけにそういうことは言ってもらうんだ!」
「あらあら!私はもちろんいいわよ。イーブがそう思うならね」
「私も大丈夫だ。よく考えられたなイーブ」
イーブはぱあっと顔を明るくした。
「ほんと!ほんと!すっごく嬉しいなぁ。早くマリーに伝えたいなぁー」
「イーブが、イーブが!兄上や僕よりも早く婚約するなんて兄としての威厳がぁー」
「なぜか少し悔しいが、おめでとうイーブ。
婚約の先輩として、私に婚約者が出来たら相談に乗ってくれよイーブ」
「うん!もちろんだよ!ノア兄様!でも、マリー婚約してくれるかなぁ?」
「してくれるわよ!!」「してるくれるだろ!!」「してくれるさ」
「あぁ、きっとしてくれるさ」
「そうだといいなぁー」
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「はぁー」
マリアーナは大きくため息をついた。
「なんですか?姫様」
「いや、みんな帰っちゃったからさ」
「それは帰りますよ。姫様はブレスレットの話を進めたらどうですか?」
ステイシーは少し呆れながら、マリアーナに仕事をするよう促した。
「!!そうね!そうだったわ!」
マリアーナはるんるんと自分の部屋に向かった。
すぐに機嫌を直したマリアーナを呆れた目でステイシーは見送った。
椅子に勢いよく座り、椅子の隣の机にある水晶玉の連絡用魔道具でリチャードに連絡をかけ始めた。
リチャードとは八大妖精の一人で魔法のリチャードと言われている。
「繋がるかしら〜」
水晶玉に長く無造作にされた闇色の髪に鋭い闇色の瞳をした者が映った。
「なんだ姫様。今は魔道具作りが忙しいんだが」
忙しいと言いつつ、話を聞くために手を止めているリチャード。
「実はね〜。宝石にね、魔力を込めたら私の姿が映し出される魔法を付与したいんだけど、
リチャードに話を聞きたくね」
「話はわかったが、何故姫様の姿が見られるようするんだ?誰かにあげるのか?」
マリアーナはドキッとした。
「え、えぇ。今日来たねストラウド家の三男の」
「要点だけでいい」
話が長くなりそうな気配を察知しリチャードはそう言った。
「えーっと、加護をあげたい子がいるのだけれど、まだ小さいから、
とりあえず私のものだって分かる印だけつけようと思ってぇー私の魔力が宿った宝石をあげて
着けてもらうことにしたの!それでその宝石にその魔法を付与したいって話」
「?? 何故その魔法なのかの説明が足りないが」
「あぁ!その子にねどんな魔法を付与して欲しいか聞いたらね、それがいいって!
最初はね、私との繋がりが」
「なるほどな。だが、そこまでするとはよほど好みだったのか?」
まだマリアーナは喋っていたが、話を遮ったリチャード。
「えぇ!それはもちろん!!何から話そうかしら?魂?性格?見た目?言動?うーん、、」
「それは言わなくていい。だが、わかった。そんなに大切なものなら直接宝石が見たい」
「ほんと!なら私がそっちに持っていくわ!明日そっちに行ってもいーい?」
「明日なら大丈夫だ」
「はーい。明日行くわね!起きたらすぐ行くわ!」
「俺が起きてからにしろ」
「起きるまでそっちで待ってるわよ!失礼ね!私があなたを叩き起すみたいな感じぃー」
マリアーナはそう言うと目を細めて口をムスッとした。
「なら明日待っている。他に要件はあるか?」
「ないわー。じゃあ明日!」
「あぁ」
すっとリチャードの姿は水晶玉から消えた。
「よし!次はナイトハルトね!」
ナイトハルトもリチャードと同じく、八大妖精で技術のナイトハルトと呼ばれている。
土色の髪と瞳に丸眼鏡をした男性が水晶玉に映った
「なんでしょうか、姫様。」
よしこっちも繋がったわね!
「実はあなたに頼みたいことがあってね」
「ほう。なんでしょうか」
「実はある宝石をブレスレットにして欲しいの」
「それは姫様用ですか?」
「いいえ。五歳の人間の子用よ。チェーンのサイズは少し変えられる感じがいいわね。
人間の子はすぐ大きくなるからねぇ」
「かしこまりました。私が取りに向かいましょうか?姫様」
「んーん。私がそっちに持っていくわ。私の頼み事だもの。
でも、まだ詳しい日にちは決められないの。
リチャードにその宝石に魔法を付与してもらおうと思っててね。明日、リチャードの所に行くのよ。
ねぇ、リチャードの方が早めに終われば、明日そっち行ってもいいかしら?」
「明日でございますか。大丈夫ですよ。リチャードの方が遅くなったら、その次の日になりますか?姫様」
「えぇ、そうするつもり。それで大丈夫?」
「大丈夫でございます。」
「なら、それでよろしく頼むわ!」
「はい。かしこまりました」
水晶玉からナイトハルトの姿が消えた。
「よぉーし!これでブレスレットの話は進んだわね! 明日が楽しみね!」
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
夜になり、イーブは布団の上にいた。
「早くマリーに逢いたいなぁー」
そしてそれぞれ夜が更けていった。