6.ぼくはあなたの傍にいたい
「んー。繋がり、、相手の位置がわかるやつかな?
でも、この宝石から私の魔力を感じない?」
マリアーナは風魔法で宝石をイーブの前にゆっくり運んだ。
そして、イーブは宝石を両手で受け取った。
「魔力、、」
イーブは自分の手の上にある宝石を見つめ、眉を下げしゅんとした顔をした。
「イーブ、自分の魔力は感じることは出来る?」
「出来ない」
出来ない。魔法の練習をまだしてないのかしら、それとも、苦手でまだ魔力を感じることが出来ないのかしら。
マリアーナがそう考えていたら、ノアが口を開いた。
「イーブはまだ魔法の練習はしていないんです」
「んーなるほど。じゃあ自分の魔力を感じることができるように練習しましょう!
そうすればその宝石から私の魔力を感じられるようになるわ。
ノエル、コーデリアいいかしら」
「そろそろ練習させようと考えていたため、問題ありません姫様」
「私も問題ありません姫様。これでイーブの願いが叶うなら、練習するべきです!」
「じゃあ、イーブ。目を閉じて、自分の体に集中するの。
自分の中を流れる魔力を感じない?
魔力はその人の髪、身体、血液、涙、その人のものであれば、魔力が宿るものなの
その人のよく使っているものにも魔力が残るのよ。強大な魔力の持ち主なら、触っただけのものにもしばらく魔力が残ったりするわ。
どうかしら?血液とともに流れる魔力とか考えてみて?
でもまだ出来なくても大丈夫よ。
本当は魔力を他の人に流してもらったりした方が自分の魔力は知覚しやすいものだからね。
どうかしらなにか感じたりする?」
本当は他の人が身体に魔力を流したりした方がわかりやすい。
だが、マリアーナが魔力を流す訳にはいかないし、合わない波長のものが魔力流したり、大量に魔力を流すと、流されたものは気持ち悪くなって体調崩すことになる。
そのため、危ないので出かけ先であるここではするべきことではない。
マリアーナの癒しの力もあるが、あれは根本的な解決にはならない。
魔力酔いは休むことが一番大事なためだ。
他人の魔力が体から出切り、体の中の魔力がその人の魔力だけに戻れば体調は回復する。
無理やり魔力を他人の魔力を抜きとることもマリアーナには出来るが、
安静にしていた方が体への負担は少ない。
安静にしていれば治るため、わざわざ負担をかけてまですることでは無い。
なので、魔力を流してもらうなら波長が近い同じ属性のものや親族に家の敷地でやってもらうべきだ。
なので、今は口頭で説明することしかできない。
これで出来ればいいけれど、、
これでできる者もいる、なんとなく本を読んでやったら出来てしまい。
家の中で魔法を使い、家が大変なことに、、なんて話は偶にある。
魔法への才はありそうだからそれに期待するしかないわね。
まぁ、今できなければ出来たときに確認してもらえばいいしね!
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自分の中に流れる魔力、、血液、身体中を流れる血液とともに身体を巡る魔力、髪の毛
とぼくは姫様に言われた事を頭で想像した。
すると、ぶわっと風が吹いた気がした。
それは魔力を感じたサインだった。
自分の身体の中を巡る魔力、自分から溢れる魔力。
目を開ければこの場所は色々な魔力が漂っていて、視界がキラキラしている。
前にいる姫様を見ればとんでもない魔力量だと感じた。
他の人の魔力など初めて見たが、なんだかこの人は凄いのだと直感で感じた。
姫様の魔力は緑色に見えた、姫様の瞳と同じ若緑色だった。
持っているさっき姫様から渡された宝石を見たら、姫様から溢れ出る魔力と同じ色が見える。
そして、その若緑色の魔力から、澄んでいて優しく、姫様の深き愛を感じる。
あぁ、これが姫様の魔力。
ぼくはふと姫様に近づいた。
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マリアーナがイーブに魔力の感じ方を伝えたすぐ後。
それはイーブが自身の魔力を感じ取るほんの少し前。
イーブは目を瞑っていた。
少ししたった後、目を開けこの空間に漂う魔力を見ているような顔をした。
まさか、もう分かったていうの!
天才だわ!この子!
そしてイーブは私をしばらく見て、手元の宝石を見て目を細めて笑った。
そしてこちらに歩いてきた。
「ひめさまぁ、ぼく分かりましたよ!
自分の魔力も、この空間に漂うキラキラ光る魔力も、姫様の若緑色の魔力も、宝石の姫様の魔力も!
これでいつでも姫様を感じられます!」
イーブは目をキラキラさせてそう言った。
「ほんとうにもう分かったのね。凄いわよイーブ。
魔力の色も見えるとはさすがね。さすが、妖精の愛し子ね。
妖精の愛し子の子は魔力の色が見える子も偶にいるのよ。
でも、感覚が鋭いのかしらこんなに言ってからすぐ魔力を感じるなんて。
魔法の才があるのは確かね。でも、頑張ったのはあなたよ。
よく頑張ったわねイーブ」
マリアーナは優しくにこりとイーブに笑みを向けた。
「これでさっきの願いは叶ったわね。
なら、付与する魔法はどうする?他に希望はある?」
「んーじゃあ、ぼくが家に帰っても姫様とお話できるようにして欲しい!」
「あー、それはこの宝石では無理ね。だけど、遠く離れていても話せるものはあるわよ。
みんながいいって言えばあなたに渡せるけど、この宝石では無理なの」
みんなとは他の八大妖精のことである。
八大妖精は遠くで離れていても話せる魔道具を持っており、八大妖精同士で連絡が取れるようになっている。
両手ほどの大きさの水晶玉がその魔道具である。
それは自分の魔道具と連絡したい相手の魔道具にお互いに魔力が注がれていれば連絡が取れるようになっている。
魔力を注がなければもちろん連絡は取れないが、魔力さえ注げば連絡できるため。
その魔道具をもっている八大妖精全員の許可がなければ誰かに渡すことはできない。
これは八大妖精の一人であるリチャードが作った物であるため、
もちろん八大妖精か八大妖精が渡した者しか持っていない。
ちなみにこの魔道具は録音機能はないため、相手が魔道具の近くにいず
連絡に気づかない場合は相手が誰かが連絡してきたことに気づき、
連絡をこちらにしてくるまで待つしかない使用になっている。
誰かが連絡してきたことは、魔道具から溢れる魔力反応によってわかるが、
いちいち連絡し直したり、連絡が来るのを待つのが面倒なため、
リチャードは今相手が近くにいない場合に要件を伝えられる方法や魔道具の開発など考えていたりする。
「んーそっか。なら、姫様のお顔が見えるようにとか出来ない?」
!? 私の顔!?
あまりのことに心臓が飛び出でるかと思ったわ。
動揺してないようにしなきゃ。
「顔?あー、魔力を込めたら姿が映し出されるやつね!
それなら出来ると思うわ!
でも本当にそれでいいの?
怪我とかから護ってくれる防御魔法とかじゃなくていいの?」
「それなら別にぼく持ってるから、防御魔法の付与されたブレスレット。
母様が外で遊ぶ時は危ないからってぼくにくれたやつ!
それに姫様に会えないならお顔が見たいんだ!
だから、お顔が見えるのが欲しい」
まぁ、なんてことかしら。会えない時に顔が見たいなんて、なんて愛らしいのかしら。
はぁ、結婚したいわぁー。
私のものにしたい。
マリアーナは考えていたことを一度抑え、イーブに返事をした。
「分かったわ!じゃあ、それで決まりね。見えるのは全身?それとも顔が近い方がいい?」
「え?うーん・・・・・・お顔が近いのがいい!」
「よし!分かったわ!じゃあ、それで作るわね。
出来たら、私があなたの元へ届けに行くわ。私の顔が見たいなんて嬉しいわね〜。好きよぉイーブ」
うっとりとした顔でマリアーナ言った。
「う、うん」
なんでか姫様に好きって言われるとなんか顔が熱くなって、姫様の顔をちゃんと見れなくなる。
ん?
「届けに?ぼくの家に来るってこと?」
「そうよ!私がこの羽でひとっ飛びよ!
ステイシーの許可さえ出れば、私はいつでもあなたの元に行けるのよ」
マリアーナはチラッとステイシーを見た。
「はぁ、ちゃんとお仕事なさいましたら、ブレスレットを届けることは許可しましょう。
いつでも行かれるのはイーブ様に許可をとってからになさってくださいね、姫様。
あと、姫様自らお届けになるお話はイーブ様に伝える前に私に先にお伝え下さいね」
ステイシー少し怒りを纏った笑みで言葉を返した。
「は〜い」
「いいよ!いつでも来ていいよ、姫様!そうだ!毎日きてよ!毎日!毎日逢いたいよ姫様!」
かわいいとマリアーナは思った。
マリアーナは毎日行けるように何とかするわ必ず!と決意した。
「イーブ、姫様も忙しいのだから毎日は難しんじゃないかしら。
姫様、会いに来る話はブレスレットが出来たらお返事いたします。
それと、姫様ひとつお聞きしたいのですが、ブレスレットはどれくらいで出来るのでしょうか」
いつでも会いに来る話は結婚するかどうかによってお返事しようと思い、返事を遅らせたコーデリア。
「んーそうねぇ」
リチャードとナイトハルトには後で連絡して、会えるのが早くて明日ね、そうなると、、
「早くて明後日くらいかしらね」
その話を聞き、結構早いが今日と明日で話し合いは何とかしようと意気込んだコーデリア。
「かしこまりました。姫様、明後日以降ならいつでもお持ちしております。」
「うん!わかったわ! もし時間がかかるようなら、明後日以降に伝えに行くわね」
「かしこまりました。お気遣いいただき感謝致します」
結婚について話す時間が必要であることをマリアーナも分かっているため、
明後日以降という言葉に対してマリアーナは特に何も言わなかった。
コーデリアはチラッとコーデリアの髪と同じ金色の宝石がいくつもあしらわれたブレスレット
型の時計を見た。
もう来てから1時間ほど経っているわね。
みんなまだ元気そうなので後1時間ほど話をしたら帰るとするかしら。
コーデリアの考えていることを見たマリアーナはみんなに声をかけた。
「あなた達疲れていない?トイレとか行っていいのよ。行きたかったら言ってね」
マリアーナの領域は街の途中に入口がある。
妖精の姿や森の形が付いているアルミ鋳物で出来た門がある。
そこから道なりに1時間ほど歩くと、マリアーナの領域がある。
領域の前にも先程と同じ門があり、そこを開けるとマリアーナが気配に気づき
話しかけてくるようになっている。
貴族などは二つ目の門までは馬車を使うことがよくあるため、馬車だと40分ほどで着く。
そして、領域のすぐ外には公衆トイレがあるり。
ストラウド家が管理しているものである。
歩くと一時間はかかるため簡単には街に帰れない。
森に排泄されるのも嫌だし、
そしてもっと人間が気楽に来れるようにとマリアーナがストラウド家に頼み作ったものである。
そのため、マリアーナにトイレに行きたいと頼めば、魔法で道を出してくれるのである。
「私、行かせてもらってもよろしいでしょうか。姫様」
「僕も行く!」
「じゃあ、母様が二人について行きますよ〜。イーブは大丈夫?」
「・・・・・ぼくも行く」
マリアーナのそばを離れたくなかったため、渋ったが行くことにしたイーブ。
「ノエルは大大丈夫?」
とマリアーナは残ったノエルに声をかけた。
「私はだい」
「ノエル!私は男性のトイレには入れないのよ!三人行くならあなたも一緒に行くわよ」
「はい」
今日は結婚の話などのせいで気が回らないノエルだった。
「よ〜し。 はい!」
マリアーナは道を作った。
「行ってらっしゃ〜い。気をつけてねー。 待ってるわー」
「みんな行っちゃったわね。」
「わたくしがお傍におります、姫様」
「そうね、、」
マリアーナは悲しそうにそう返した。
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一、二分歩くと門の前だった。
門を開けて、トイレに入る。
そして手を洗い、ハンカチで拭きトイレを出た。
「イーブ、ちゃんと手洗ったかしら?」
「もちろんです。母様」
「よし、全員いるわね。馬車で水分補給をしたら姫様の元に帰るわよ。
あと、一時間くらいしたら帰るからね。話したいことはしっかり話してくるのよ」
「はい、母上」「はーい」
しっかりと返事をした二人と違い、イーブは絶望的な表情を浮かべていた。。
あと、一時間!! もっと姫様と一緒にいたい。帰りたくない。いやだいやだ!!
コーデリアは宥めるような声でイーブに声をかけた。
「イーブ。また会えるわ、大丈夫。ブレスレット、届けに来てくれるでしょ」
「でも、明日は会えないよ」
「今日と明日は話すことがあるわ。姫様とあなたの結婚についてよ。
それによって色々変わってくるわ。姫様と婚約すれば、もっと会える機会は増えるはずよ。
帰ったら、あなたからどうしたいか聞くからしっかり考えておきなさいね。
でも私達はね、どちらにするか決められなくても、今のあなたの気持ちがは聞きたいの。
それは覚えておくのよ」
婚約すればもっと逢える。なら婚約したいと思った。
でも、結婚というのはもっとちゃんと考えるべきなんだ。帰りの馬車の中で考えよう
今は姫様との時間を大事にしたい
「分かりました母様。帰りの馬車の中で考えます。今は姫様との時間を大事にしたいから」
「ええ、分かったわ。じゃあ、そろそろ姫様の元に向かいましょう。
姫様がきっと寂しがっているわ」
母様が全員の水分補給が終わったことを確認し、ぼく達は歩き出した。
「あー、あいつ結構寂しがり屋だもんな」
「いつも帰る時は寂しそうな顔してるよね」
「ふふ。姫様は昔からああよ。ノエルが小さいときはどうだったの?」
「・・姫様は愛情深い方だからな、いつも別れを悲しんでくれていたさ」
「つまり昔からと、、」
そう言いながら、ふむふむと頷いたコーデリア。
「そうだな」
姫様は寂しがり屋なんだ。
姫様はぼくにブレスレットをくれる、ぼくもなにかプレゼントしたいな。
そうしたら、姫様も少しは寂しくないかも、、
渡すならぼくが使ってる物がいいなぁ。
ぼくの使っていた物ならぼくの魔力が宿っているかもしれないし!
それにぼくの使っていたものを姫様に持っていて欲しい。
それにぼくが使っていた物のほうが姫様もきっとぼくを感じられるはず!
でも、姫様に渡せるぼくの物ってなんだろう。
そんなことを考えていたら、姫様とステイシーさんの声が空中から聞こえてきた
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
イーブ達が戻る少し前
「あーー、名前で呼んで欲しいわぁー」
木の椅子にだらっと座り、片方の肘掛けの外に両手をぶらぶらさせながらマリアーナはそう思いを零した。
「なら、そう申せばよろしいのではないですか?」
傍にピシッとした姿勢で立っているステイシーはそう答えた。
「会ってから少しで、名前で呼んでって言われるの怖いかな〜っと思って。
それに結婚出来ないなら名前で呼ばない方がいいかなって。
結婚については決まっていないし、もししてもいいって決まったら、言おうかなって、、」
「ですが、姫様。もし結婚をしないとイーブ様がお決めになられたら、
名前で呼んで欲しいと言えなくなりますよ。
今から呼んでいただくことにしておけば、これからずっと名前で呼んでいただけますよ?」
「・・・・・・・・・そうだけど、、、」
まったく姫様はしょうがない人ですね。とステイシーは思っていた。
ん?と思いマリアーナがふと前を見ると、イーブ達が帰ってきていた。
「あらっ!!おかえりー!!飲み物はちゃんと飲んできたかしら?
いつから居たのだろう。きっと今着いたんだなっとマリアーナは思いながら、
少しバクバクとしている胸を抑えた。
「ねぇ、姫様。今の話って?」
「! 今の話って?」
動揺を悟られぬように、そして肝心な所聞こえていなかったと信じて
マリアーナは顔に笑みを貼りつけ、そう答えた。
「名前で呼んで欲しいってぼくに?ぼくにだったら嬉しいけど」
「き、聞いてたの!いつから!」
「えーっと、ぼくが結婚しないって決めたら名前呼んで欲しいって言えなくなるってあたりから」
マリアーナは恥ずかしくて顔が赤くなりながら答えた。
「ななななんで! そんな前からいたの? えっ、えー!」
「いいえ、姫様。姫様のお声を皆様が聞こえるようにわたくしがしておりました」
「な、なんてことを!な、なぜ!」
「それはこのままでは姫様が愛しきお方にお名前を呼んでいただけなくなるかもしれないと思いまして」
「あ、あなたね!か、勝手にこんなこと」
マリアーナは顔を真っ赤に恥ずかしがりながら、ステイシーにぷりぷりと怒ってしていた。
名前。妖精姫様の名前は勝手に呼ぶことはこの世界では御法度だ。
尊きその名は姫様の許可がなければ口には出せない。
そのため、みな妖精姫様や姫様と呼ぶようにしている。
ぼくによんでほしいって思ってくれているなら、
それはぼくなら呼んでもいいって思ってくれてるってことだよね!
それはなんだかとても嬉しい。
なぜこんなにも嬉しいんだろう?名前を呼べる人が特別だから?姫様の名前を呼べるから?
きっとどっちもなんだろうなぁとイーブは思っていた。
そして、やっと落ち着いた姫様がこちらを向いた。
「えっとそれでね、その、えっと私の名前をイーブに呼んで欲しいなって思ってるのは本当よ。
でも、結婚のこと話してしまったのに名前までっていうのは良くないかと思って、、
もし、結婚してくれるって言ったら言おうかと思ってたの」
ほんとうだった!!!!とイーブは凄く喜んだ。
「なら、ぼく呼びたい!姫様の名前ぼく呼びたい」
「えっ?いっ、いいの?
そっそれならマリアーナ、いやマリーって呼んでほし、、、、、
んーそれは図々しいかしらね、マリアーナでいいわよ」
「マリーじゃだめなの?」
名前の愛称は特別な相手にのみ許す行為だ。
できるなら愛称で呼びたかった。
そこでぼくはあることに気づいた。
ぼくも愛称で呼んで欲しい。
イーブだから、イブかな?
少し目を見開き驚いた顔をした後、マリアーナは優しい顔つきで口を開いた。
「だめじゃないけど、嫌じゃないの?
初対面なのに結婚まで申し込まれた私の愛称を呼ぶの」
「全然いやじゃないよ!むしろ嬉しいよ!
ぼくのこともイブって呼んでよ!!マリー!」