恋心に花は咲かず
[恋心に花は咲かず]
夏の空は高く感じる。
気のせいかも知れないけど大切なことよ。
だからこの恋心もきっと気のせい。
貴方に対する恋心はきっと偽物。
夢から覚めた。
何かを掘り起こしている夢。
何も無い廊下きら響く一通の電話。
魔王様からのお呼び出し。
絶対に逆らえないお呼び出し。
銀に光る長い髪を簪でまとめる。膝下まである靴に足を入れて外に出る。暑い日差しが世界を照らす。
雲の流れがやたらと早い。
きっとこんなに綺麗な空は、今ものすごい速さで動いている。
地上とは違う世界。
あの人と私のように。
大きなお城に入る。
すこし傷がついてる廊下には、暗い色のシャンデレラがキラキラと光っている。
あの蝋燭、灯りがついてないわ。
私は地面に膝をつく。
視界いっぱいに赤いカーペットが映り込む。
魔王様の声はどこか苛立っているハスキーボイス。
そのお姿は神々しさまで感じるわね。
椅子にふんぞりがえり偉そうに座っているの。
こちらを見る視線がチクチクと痛むわ。
ー
私の思い人は今日殺されるらしい。
勇者としてここに乗り込んできて、負けた。
なんと惨めな話なのかしら?
だから辞めろと言ったのに。
私を助けるなんて馬鹿なこと言わないで、幸せに暮らしたらよかったのに。
私に信じさせて欲しいわ。
間違いは知らない方が幸せだったかも知れない。
あの時掘り起こしていたものは恋心。
捨てた筈なのに……ね。
死んだら同じ世界かな? 一緒にお茶ができるかしら?
断じて許されない恋は儚く散るのがお似合いかも知れないわね。まだ咲いてもいなかったのに。
「私も一緒に死なせて貰えないかしら?」
貴方に対する恋心はきっと本物。