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第9話 【リベルシップ】

次の日、ではなく数時間後にもう太陽が真上に上って少しした頃。


リベルタスは暗い時間から今までずっと作業を続け、さすがにお腹が空いたということで、タコ以外の3人は買い出しに出掛けた。


タコは待っている間、ダイガンの様子を見に行くと、具合が良さそうだった。


タコ「よかった。さっきより具合良さそうですね」


ダイガン「あぁ。こんなにぐっすり眠れたのは久しぶりだ」


タコ「まだ安静にしてなきゃだめですよ」


タコは妙に手早く濡れたタオルを絞り、再びダイガンの額に乗せる。


ダイガン「思ってたんだが、お前妙に手慣れた手付きで看病をしているな」


タコ「え? あぁ、昔爺さんみたく、夢中になりすぎて体調崩す人が居てさ、俺がよく看病してたんですよ」


それを言っているタコはどこか懐かしそうで、それと同時に寂しそうな顔を浮かべていた。


ダイガン「お前が発明をはじめたのは、その人がきっかけか?」


その質問に少し戸惑うが、タコはすぐに答える。


タコ「まぁ、そうですかね。俺にとっては家族で、恩人でもある人です。その人、いっつも人のためって言って体調崩すんですよ。俺にはいつも早く寝ろとかいう癖して」


それを話すタコはとても楽しそうで、ダイガンも聞いていて楽しかった。


しかし、そんな楽しい時間は突然打ち砕かれた。


「出てこい頑固ジジイ! この前の借りを返してやる!」


玄関の方から怒鳴り声と共に、大勢の人の声が聞こえてくる。


タコがなんだろうと思っていると、ダイガンは「また来たか」と言って眉間にシワを寄せる。


ダイガン「お前らが来た日、黒服のやつがいたろ? そいつが仲間連れてきたらしい」


それを聞き、タコは初日のライアンを扉で潰したなにやら見覚えのある黒服2人を思い出す。


ダイガン「やつら、ちょっと前からあの船をよこせと言ってきよってな。断ったらしつこく来るようになりおった。んで、お前らが来る日に脅してきたんだ。仲間全員引き連れてくるってな」


ダイガンが起き上がって対処しに行こうとするが、タコがそれを許すはずもなく。


タコ「爺さんは寝てなよ。俺が相手しますから」


ダイガン「いや、これはわしの問題だ。お前らを巻き込むわけには…」


タコ「いや、俺たちの問題でもありますよ。俺たちは爺さんの船への思いを知ってる。その船を俺は完成させたいし守りたい。きっと、他の皆も」


その迷いの無い様子を見たダイガンは、気を付けるように言って、タコを見送った。


そして、タコが外に出てみると、おそらくは50人近くの人数が集まり、その先頭には3人いた。


そのうちの真ん中の人物の姿を見た途端、タコは驚きつつ、ようやく頭の中のモヤモヤを消すことができた。


この場にいる50人ほどの者たちは、以前タコをチームに無理矢理いれようとし、ほぼ天琉によってボコられたチームであり、真ん中のはそのリーダーだった。


「きみぃ! なんでここにいるのかなぁ!?」


タコ「いや、それこっちの台詞。天琉にボコられといてまだ懲りてないのかよ」


それを聞いた途端、あの日のうちに起きた様々なことを思いだし、チーム全員が怯える。


天琉によって全員ボコられたのち、その夜にやけ酒をして「闇夜の槍」と呼ばれていたころのネルにボコられたことを。


彼らにとってはもうトラウマ同然だった。


「君らと通り魔が僕らをボコったせいでぇ、全員復帰するまでこんなに時間かかったんだぞぉ!? 爺さんをボコってぇ、船を手に入れるついでにぃ、強い仲間のいないぃ、君をリンチだぁ!」


その言葉を聞いた途端、チーム全員が戦闘態勢に入り、全員があくまでも暴力を振るうためなのか、収納空間か各々の武器を取り出す。


タコ「爺さんに手はださせないし、あの船もお前らには渡さない」


そういうとタコは、自分の武器であるメカメカしい両剣を取り出し、殺傷力のない打撃モードにして構える。


「こらこらぁ、君1人でこの数ぅ、相手できるのぉ?」


タコ「1人? いーや、最終的には4人になるぞ?」


「はぁ? なにを訳のわからないことぉ」


そんな言葉は無視して、タコは自分の時計を確認する。


タコ「あれから大体40分ほど経ってる。もう少しだな」


チームはその言葉に疑問を持っていたが、そんなことはお構いなしにタコは攻撃を最初にきた黒服2人に与える。


そこから戦いが始まり、タコは自分にできる動きで対処する。


しかし数の暴力とは恐ろしく、タコは隙をつかれて後ろにいた1人から棍棒で殴られそうになるが、その攻撃が当たることはなかった。


棍棒を振り下ろそうとした者の頭に弾丸のように飛んできた魔力の塊が命中し、気絶したのだ。


その事にチームは驚くが、タコは笑顔を浮かべ、魔力の塊が飛んできた方向を見る。


タコ「予想的中! 帰って来た」


そこには、以前結成試験で使っていたものとは違う、メカメカしい銃を片手で構えていたライアンがいた。


もう片方の手には袋が握られている。


ライアン「買い出しから帰ったと思ったら、俺の親友になにしてんだよ」


そう、タコはこのタイミングで戦いを始めれば、買い出しに行った3人のうち1人は帰ってくると言うことを、出掛けた時間から考え、もうすぐ帰ってくると予想したのだ。


ライアンの姿を確認したタコは事情を説明する。


タコ「ライアン! こいつら船を無理矢理手に入れるために、爺さんをリンチしに来たんだってさ!」


それを聞いたライアンはすぐにしかめっ面になり、もう片方の手に持っていた袋を収納空間に入れる。


そしえ、そのままもう一丁同じ銃を取り出して構える。


ライアン「そういうことなら、ぶっぱなさねぇとなぁ!」


そういってライアンは、二丁の銃で魔力の塊の弾丸を連射する。


この銃はタコがライアンに作った、魔力の塊を発砲する銃であり、タコの両剣と同じく、殺傷力をなくすことができる。


しかし、当たるとかなり痛いので、普通の人間なら頭に当たれば気絶するのは確定だろう。


魔力の塊を発泡するため、弾丸を装填することはないが、定期的に冷却を必要とする。


ライアンが放った魔力弾は、余すこと泣く命中し、内部の冷却のために一時的に乱射をやめたころには、意識のあるものは10人だけになっていた。


「こ、こんなはずじゃあぁ…! みんなぁ、ひとまず、逃げるんだよぉ!」


そういってライアンのいる逆の道に逃げようとするが、先に行ったチームのメンバーが立ち止まる。


「どうしたんだよぉ!?」


その質問に対し、メンバーは指差ししてその方向を見るよう促す。


その方向からは、チームにとってのトラウマの1人、緋色の髪の武道国人が両手に買い物袋を持って歩いてきていた。


天琉「あれ? お前はたしか…」


「ひぃ! そ、そこの路地にぃ…!」


そういって暗い路地に逃げ込もうとしたが、先に行ったものが悲鳴を上げて出てくる。


なにかと思っていたら、その奥からもう1人のトラウマである「闇夜の槍」の影が近づいてきていた。


だんだんと近づいてくる恐怖に震えていたが、その中から出てきたのは、黒髪の身長の低い女の子だった。


そのせいで緊張が抜けたのか、残りの10人も気絶してしまうのだった。


その状況についていけない天琉とネルは疑問に思いながら事情を聞く。



それから数時間後、チーム全員が起き、リベルタスと、椅子に座ったダイガンの前で正座していた。


その様子を見ながらダイガンはどうしてやろうかと考える。


「な、なんでもするから許してほしぃよぉ…」


考え抜いた末、ダイガンはただでは許さず、重労働をしてもらうことにした。


ダイガン「お前ら、リベルタスの船を作る手伝いしろ! そしたら許してやる!」


その事を聞き、驚いたのは罰を受けるチームだけではなく、リベルタスもだった。


今ダイガンは、「リベルタスの船」と言った。


ダイガンからその言葉がでたと言うことは、もうすでにリベルタスに船を渡すことを決めていることを示していた。


最初いやがっていた相手も、ダイガンの睨みと天琉とネルの姿を見た途端、すぐに「喜んで!」と返事をした。


天琉とネルはわけがわからなかったが、ともかくそう決まったからにはやることはひとつ。


5人ではなく、約55人による船の作成作業が開始された。


やはり、相手のチームは素人とばかりで、困惑してばかりだった。


だが、そこは10日間分先輩である3人と、根っからの技術者であるタコに優しく教わる。


天琉に教わっていたものは、嫌なイメージしか持っていなかったが、徐々に変わっていった。


「ここはどうすれば…」


天琉「ここはな、こうすればいいんだよ」


「こうか?」


天琉「飲み込み早いな。でも、俺だって負けねぇからな?」


どこか子供っぽいところがありながらも、たしかな優しさと強さを見て、かつて自分たちが強引に仲間に引き入れようとしていた時、この緋色髪の男がタコを救いに来たときのことを思い出す。


同時に、この男は何故危害を加えようとした自分たちに、こんなに真剣に向き合うのか不思議に思った。


天琉の優しさにむず痒くなり、それを隠すように天琉に負けじと作業ペースを上げる。


それを見た天琉はわけもしらず対抗していたが、そんな作業の様子はとても楽しそうだった。


ネルに教わっていた者は、最初こそびびってはいたが。


「こ、こうですか?」


ネル「そう。グッジョブ」


そういってネルはグッドサインを作り、相手を褒める。


そんなネルを見て、教わっていた者はギャップで可愛いと思った。


そして、ネルに教わっていたグループは、もっとグッジョブがほしいと思い、作業スピードが上がっていく。


そんな日々が経った2日目、チームのリーダーであるセルフはチームの中で孤独感を覚え、1人で外で座っていた。


そんなリーダーの側に、ライアンが座る。


ライアン「悩みごとか?」


「そんなんじゃないよぉ」


リーダーは、プライドが高いゆえに、なかなか打ち解けられない。


ライアンは、そのリーダーが少し前の自分に似ていると思い、声をかけた。


ライアン「まぁ、プライドを捨てられないのはわかるよ。でもさ、プライド高いままじゃ、大切な何かを見落としちまうんだよ」


リーダーは、どこかでその事はわかってはいたが、今さらどうしようもないと思って、一歩踏み出せなかった。


「今さらぁ、どんな風に接したらいいかぁ… 僕はずっとぉ、こんな風に生きてきたからぁ…」


そんなリーダーに、ライアンは手を差しのべる。


ライアン「ほら、一緒に行こうぜ? まず、真っ向から話すことからだ」


リーダーはライアンの手をとり、丁度休憩時間に戻ってくる。


そして、ライアンの声掛けのもと、残りのリベルタスの3人と、リーダーのチーム全員が集まる。


リーダーは、少し不安でもあったが、勇気を振り絞って声をだす。


「あのぉ、みんないろいろぉ、身勝手なことしてぇ、すまなかったよぉ…」


その言葉を聞き、しばらく静かになるが、タコが最初に言葉を発する。


タコ「反省してるんだろ? 気にすんなよ。なんだかんだ言って、作業もちゃんと手伝ってくれてるしな」


それを始めとして、天琉とネルからも言葉が放たれる。


天琉「そうそう。それにお前が作業したとこ、めっちゃ綺麗に配線並んでたし、反省してるってこと、もう十分伝わってるよ」


その言葉に続くようにネルは頷き、チームのメンバーたちも、気に病まないでほしいというセルフを気遣う労りの言葉が降り注ぐ。


それからというもの、リーダーは態度こそ変わらないが、心は改めていた。


この中で、リーダーの名前は「セルフ」と言うことと、年齢はライアンより歳上の24だということがわかった。


それを聞き、ライアンはもちろん、リベルタスの全員が驚いていた。


ライアン「俺より下かと思ったぁ…」


セルフ「見た目若いってよく言われるよぉ」


それから、誰かがまた感電したり、ネルの料理でみんなが気絶したりと、いつものごとく騒がしくも楽しく、順調な作業の日々が過ぎていった。



そして、それから1ヶ月後、人数が増え、予定よりも早く作業が進んだお陰で、リベルタスの船が完成した。


しかし、全員まだ喜びの声は上げてはいなかった。


最後の仕上げとして、確認することがあった。


それは、タコとダイガンがプログラムを組み、その通りに改造し作り上げた船が起動するか。


そして、設計どおりに飛ぶことができるかだった。


2人は操縦室で作業し、リベルタスの3人はそれをそばで見守り、セルフとそのチームのメンバーは外で見守る。


そして、タコがまず起動を完了させると、外にいるセルフにあることを伝える。


タコ「よし、屋根を開けてくれ! 全開だ!」


その指示を聞いたセルフチームは屋根を全開にしたあと、それを伝える。


タコはそれら全てを確認したあと、ダイガンと操縦室にいるみんなの顔を見る。


タコ「みんな準備はいいな?」


その質問に対し、各々が緊張した表情で頷く。


それを確認した上でタコは船の操作をしようとしたが、ダイガンがそれを止める。


ダイガン「船出には、名前と船長の合図が不可欠だ。お前が最後をくくれ。天琉」


天琉「俺!? いいのか?」


それに対する答えは「もちろん」であり、他の3人にも異論はなかった。


そして天琉はある意味重大な仕上げに悩み、名前を決め、息を飲む。


天琉「「リベルシップ」! いざ、発進!!」


合図を聞き、タコはリベルシップを離陸させる操作をする。


その瞬間、船に燃料である魔石から流れる魔力が巡り、リベルシップが揺れ始める。


そして、ついにリベルシップは、問題なく宙に浮かぶことに成功した。


最後に各システムに異常がないか確認したが、なんの問題もなかった。


タコはそれをリベルタス、そしてセルフたちに知らせた途端、全員が喜びの声をあげる。


この中で、もっとも喜んでいたのはダイガンであり、感動の涙を流していた。


「お前ら、ありがとな…!」


その後、一度なにもないところで着陸させ、ダイガンを下ろす。


ダイガン「わしはここまでだ。このままお前らのいる場所、中央都市に戻るといい」


それを聞いたリベルタスは少し寂しいと感じた。


ダイガン「そんな顔するな。いつでも来い。また握り飯作ってやる」


その言葉を聞き、リベルタスは全員ホッとして「絶対来ます!」と返事する。


セルフたちは、自分達の足で中央都市に帰りながら、今まで迷惑をかけた人たちに、謝罪をして回るらしい。


セルフ「君らにはほんと感謝だよぉ。これからもぉ、僕らのチームと仲良くしてほしいよぉ」


その頼みに対し天琉、そしてあのタコでさえも喜んで受け入れた。


そして、別れの言葉を交わし合ったあと、リベルシップに乗り込んだリベルタスは、再び船を離陸させ、中央都市へと向かっていく。


その様子を港町の地上から見ていたセルフのチームは、全員で手を振って見送っていた。


そしてダイガンはその様子を見ながら、心の中で空にいるであろう仲間たちに言葉送る。


ダイガン「皆、見ていてやってくれ。あいつらの冒険への船出を、空の上の特等席でな」


こうして、リベルタスは無事に空飛ぶ船のチームハウス、「リベルシップ」を手に入れるのだった。

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