第8話 【船への思い】
ダイガンに怒鳴られながらも、順調に作業は進んでいき、10日の日々が経っていた。
この数日の間で、タコ以外の3人は細かい作業になれ、心なしかダイガンからの叱りも少なくなってきている。
その間に、なんのトラブルもないわけもなく。
繋ぐ配線を間違えてライアンが感電し、それを止めようとした天琉まで感電したこともあった。
他にも、ネルが昼ご飯に持ってきた禍々しいカレーを食べたことで、ダイガンとネル以外が再起不能になり、作業続行不可能になったこともあった。
ネルは怒られるのと同時に、ダイガンは握り飯の作り方を教えてやると、ネルと約束した。
そのつぎの日、ダイガンは大量の塩むすびを昼飯に作ってきてくれた。
その味はとても美味しくて、嬉しそうにしているみんなの顔を見て、感謝の言葉を聞いていたダイガンは照れ臭そうだった。
しかし、そのまま普通に終わるわけもなく、ネルがものすごいスピードで食べはじめたのだ。
負けじとライアンが2個いっきに口にいれ、天琉の勝負好きな性格が発動した。
その結果、天琉とライアンは腹がはち切れそうになっていた。
しかし、ネルだけはけろっとしていた。
ダイガンはその様子を見て、静かに食えないのかと言っていたが、その様子を見ていて楽しそうだった。
タコ「爺さんのにぎり飯食べたいなぁ。あいつら食いすぎるから量多めでお願いしたいなぁ」
そんなことを考えながらタコがプログラムを組んでいると、なにか物音が聞こえてきて、
気になったタコは音のした方に歩いていくと、そこには驚くべき光景が広がっていた。
◆
その頃、天琉とライアンは船のパーツを組み立てを作業をしていた。
そんなとき、ライアンから天琉に話題が飛んでくる。
ライアン「なんかさ、最初に比べて爺さん優しくなったよな」
ライアンのその考えは、天琉にとってもまったく同じだ。
天琉「たしかに、ここんとこ妙に優しくなってる気がするよな」
もしかすると、このまま親しみも深くなって仲良くなれるのではとも考えながら作業していると、ネルがそこにやってくる。
ネル「2人とも、今すぐ、来て」
何事かとネルの方を見た二人の顔は、ずっと作業をしていたせいか、真っ黒だった。
何事かとネルに聞くと、その答えに2人は驚かされることになる。
ネル「お爺さん、倒れた」
それを聞いた瞬間、2人は驚きの声を上げ、そのままネルの案内でダイガンの寝室に走り出す。
ダイガンは、寝室のベットで少し苦しそうな表情で眠っていた。
3人が到着したときにはタコ1人で看病しており、状況を理解してからは四人で看病をすることにした。
その日の夜は、いつものように港町の宿屋に泊まるのではなく、ダイガンの家で付きっきりで看病する。
しかし、その日はいつまで待ってもダイガンは目覚めなかった。
起きるまではどうしようもないと思いながら見守り続けるが、しばらくして全員が寝落ちしてしまった。
それから数時間後、もう日にちが変わってしまった暗い時間にタコの目が覚めてしまう。
ふと夜に起きてしまう人間の性のようなものだ。
しかし、起きたと同時にタコは布団の上からダイガンがいなくなっていることに気づく。
一瞬どこにいったのかと考え込むが、考えられる場所は1つしかなく、すぐに船のある工房に向かう。
そこには予想通り、ダイガンが荒い息をたてながら、顔色も優れないまま船を作る作業をしていた。
タコ「爺さん! なにやってんだよ!」
タコはまだ回復していないであろうダイガンに作業をやめさせようと説得するため、肩をつかむ。
ダイガン「離せ…! わしがくたばるまえに…!」
タコ「そんな状態で無茶したら余計に…!」
そんなタコを振り払い、作業しようとするが、苦しそうに咳き込みながら膝をつけてしまう。
騒ぎを聞き付け、他の3人もやってきて、協力してなんとかダイガンを布団の上に戻す。
タコは歳による限界だとは思っていたが、まさかと思い、改めてちゃんとした機器でダイガンを検査する。
その結果、過労が原因であることが判明。
タコ以外はその理由がわからなかったが、タコのダイガンへの質問に驚かされる。
タコ「爺さん、俺らが帰ったあとも、さっきみたいに夜遅くまで作業してたんだろ? 今までずっと…」
ダイガンはその質問に対し顔を背けるが、それは逆にタコの推測は当たっていることを証明していた。
いったいどれだけの間、そんな無茶をしたのかとライアンが聞いたとき、ダイガンは隠し通せないとわかり、全てを明かす。
ダイガン「わしは、船の改造を決めた日より、3年間この船に手をくわえてきた。お前らの言う無茶は、決めた日より続けている」
ダイガンの年齢は168歳であり、人間でいう80歳辺り。
人間でもかなり高齢にもかかわらず、3年間まともに休まず作業を続けていると考えると、疲労が尋常ではない。
現代の魔石での科学技術を学ぶために1年費やし、船の改造に2年をかけたと言い、その間の睡眠時間をかなり削ったという。
なにかに夢中になることは、時として時間を惜しまないということはよくある話だし、リベルタスの皆もわからないわけではない。
ただ、自分の身を削ってまであの船にこだわる理由はなんなのだろうと思い、天琉がそれを聞いてみる。
ダイガン「あの船はな、わしのすべてと言っても過言じゃないほど、大切なものなんだ」
それをはじめとし、ダイガンはあの船のこと、この依頼を出した理由を、無茶をする理由を教えてくれた。
ダイガンは昔、仲間たちと共に、あの船で海を旅する冒険家であり、ダイガンは船大工という役職だ。
冒険をする日々は大変ではあったが、それと同時に楽しく飽きないものだった。
自分達の限界を考え、冒険を終えて隠居したあとも仲間たちと昔のことを語らって楽しんでいた。
しかし、時が経つにつれて、やはり人間の生涯は短いということを思い知らされるように、仲間たちは先に逝ってしまっていった。
1人だけドワーフという長命種ということもあるが、その事実は悲しいものだった。
とうとう最後に自分だけが残され、寂しい日々をおくっていたある日、船大工だったということで自分に預けられた船をみて思い付いた。
それは、今の世代を生きる者たちに、船を託すこと。
共に冒険してきたこの船には、まだまだ冒険できると、まだ誰かの居場所でいられると信じていたから、自分の生涯の終わりで、その旅を終えてほしくなかった。
それ故に、技術者だったダイガンはその船を今の形を残しつつ、新たな船出へと向かってもらうために改造をはじめた。
海だけでなく、空さえも航行できるような船にしようと思ったのは、どんな場所へも行けるようにしたい。
そんな願いもあるが、それだけではない。
さきに逝ってしまい、空にいるであろう仲間たちに、その行く末を見ていてほしいという思いもあった。
しかし、ダイガン自身もその頃にはかなり年老いてしまい、自分1人でそれほどの作業をするのは少々厳しかった。
故に、ダイガンは今回の依頼を出すことにしたのだ。
共に作りつつ、ふさわしいかを見極め、船を託す者たちを見つけるために。
しかし、来るのはどいつもこいつも平凡で対して普通な連中。
依頼ということもあるが、冒険心などの自由な心がまったく無い者ばかり。
もちろん、仕事で来ているということはわかっていたが、どうしてもかつての仲間たちと重ねてしまい、暴言ばかり言ってしまう。
そして、最終的にはふさわしくないと判断すれば、すぐに追い出すようになってしまった。
それが、今のダイガンの頑固ジジイと言われる理由となったのだ。
4人は真実を聞き、ダイガンという人物の認識を改めた。
この人はただ、自分の大切なもののために、必死なだけだったのだと。
話し終えたダイガンは少し楽になったのか上半身を起き上がらせ、リベルタスに質問をする。
ダイガン「お前ら、あの船を手に入れて、どうする」
ダイガンは、リベルタスを認めはじめていたが、最後にそれを確認したかった。
それに対して、天琉が答える。
天琉「正直いうと、わかりません」
その答えを聞いて、ダイガンはもちろん、メンバー全員が驚いた。
天琉「船を飛ばす機会も、少ないかもしれない」
出てくる言葉は、ダイガンの望むものではなく、不安だらけだった。
しかし、言葉を並べていく天琉の目に迷いなんてものは一切なく、言葉の続きを聞く。
天琉「でも、進む先がどうなっているかは、進まなきゃわからない。だから進んで確かめて、その時が来たら決めます。それも、冒険の醍醐味だと思うから」
その言葉を聞いたダイガンは、天琉の後先をあまり考えず、ただ今を全力で楽しむという考えを感じ取った。
天琉「かといって、あの船の凄さを、意味もなく終わらせる気もない。爺さんが、爺さんの仲間たちの思いは、絶対不意にはしない!」
その言葉を聞き、昔のいきあたりばったりで危険な目に会いながらも仲間と笑いながら冒険をした記憶を思い出す。
ダイガンは自然と笑顔になり、逝ってしまった仲間たちを思い出す。
メンバーの3人も天琉という男を再確認したことと、ダイガンの想いを聞いたことで、いてもたっても入られなくなり、ライアンからの提案で、今から作業を再開することを決める。
皆その提案に賛成で、やる気満々ではあったが、ダイガンはそれを聞いて止めようとする。
ダイガン「わしの看病で疲れているだろ? それに寝るときにはしっかり寝んと…」
それに対して全員が「爺さんにだけは言われたくない」とツッコミをいれ、ダイガンは言葉を返せなくなる。
タコ「心配せずに休んでてください。俺たちは大丈夫ですから」
タコがそういうと、ライアンとネルもそれに続く。
ネル「私、夜は、得意な方」
ライアン「俺たち若者だから、夜更かしなんて平気だしな」
天琉はライアンの言葉に少し違和感があって言葉を挟む。
天琉「おまえ俺らのなかで1番年長だし、若者ではないんじゃね?」
ライアン「ちょっ! 痛いとこつくなよ!」
そして、ダイガンはその様子を見るなかで、ついに決められなかったことを決めたのだった。




