第70話 【甘味と癒し】
天琉と功敦が墓参りに言っている頃、リベルタスのメンバー4人と1匹は、焔と烏丸の案内で竜胆の街を観光していた。
観光とは言ったものの、ほとんどは食べ歩きである。
というのも、この竜胆は甘味処や食べ物に関する店が多く、武道国でも一二を争うほどらしく、食べることがメインになるのも必然なのかもしれない。
特に、食べ物には目がないと思えるリベルタスの魔族は。
そんなとき、ある店で串に三つの団子が刺さった食べ物を見つける。
それを目にしたタコとライアンは何だろうと思い、焔に聞いてみる。
焔「あれは三色団子っていうんだ。美味いぞ~? 特に、あそこで売られてる三色団子は、武道国1と謳われるほどだ」
それを聞いた途端、即座に食べようと買いに行こうと店を見た頃には、ネルが自分とマインの分だけを買って先に食べていた。
3人は「はや!」と驚くが、ネルの食べているときの幸せオーラを見、自分達も食べたいと思い、すぐに店に行って自分達も購入する。
その甘味に驚きながら食し、また外国人のような喋り方になっていた。
その後、一旦落ち着くためにお茶を飲むことが出来る店舗に行こうと烏丸が提案した。
最初は興奮がすぐに収まるわけないとタコとライアン言っていたが、抹茶を飲んだ瞬間、なにか悟りを開いたように落ち着いた。
タコ「和む~」
ライアン「落ち着くわ~」
マキナ「効果覿面ですね…」
あまりの感情の収まり具合にマキナはそのお茶の効果を称賛しつつ、少し困惑する。
そんな和んでいる空気の中、2人は何故玲来は街には着いてこなかったのかと言う話題を出す。
2人は、玲来も元はこの街の出身であれば、久しぶりに甘味を楽しんだりしたいのではと思っていたが、そうはしなかったことに少し疑問を抱いていた。
その疑問に対し、焔が答えを出す。
焔「多分だが、あの山に行ってるんだろう」
そう言って焔は竜胆の街の象徴のひとつとも言える、山の方を指差す。
それを聞いた全員が、最初は「何故あんなところに?」と思っていたが、焔が言ったことに納得する。
焔曰く、あの山の中に玲来が住んでいた家や思いでの場所があるらしい。
それを久しぶりに見たくなったんだろうとのこと。
◆
その頃、玲来は山の中を歩いており、自分の記憶を頼りにある場所へと向かっていた。
それは、かつて自分が父と共に暮らしていた家だ。
今となっては誰も使っておらず、少しボロくなってはいたが、まだしっかりと思い出にある原型をとどめていた。
匂いは変わっていなかったからか、ここで暮らしていた日々を思い出し、映像のようにその光景を見ることが出来た。
外で遊んだり、稽古をつけてもらったり、何気ない日常を送っていた日々を。
家の中を見たあと、次は自分が父に隠れて特訓をしていた場所へと移動した。
ここは街にも近い場所だからか、悪ガキたちに苛めをされそうになった。
それを、天琉が助けてくれた。
そこから、本当にしたいと思うことを、ありのままであり続けることが出来るようになった。
それを見て、最後に行きたいと思っていたが場所に足を運ぶ。
そこは今となってはもう神主どころか人もいない廃神社だった。
ここはかつて、主に天琉と共によく勝負をしたり、一緒にかくれんぼなどをして遊んだ場所だ。
敷地がとても広いので、そういったことをするのにはもってこいなのだ。
かなり山奥にあるためか、天琉と玲来、そして焔と烏丸と玲来の父以外には誰も知らない場所であったため、悪ガキたちにも邪魔されることもない。
そんなことを思い出しながら賽銭箱へと上がるための階段に腰掛け、敷地内の広場を見つめる。
そして天琉と勝負したり、焔の修行メニューをこなしたり、焔に2人がかりで挑んでボコられたりした日々を思い出す。
父は過保護なところがあったが、焔の修行ではハードな修行ができてよかったと思えている。
その頃の景色を座って思い出していると、雨の日のことを思い出し、久しぶりに境内に入ってみることにする。
ある雨の日、玲来がうっかり足を挫いてしまい、歩けなくなったときがあった。
それと同時に雨が降ってきて、仕方なく神社の境内で雨宿りをすることになったのだ。
その時の情景を思い出していると、天琉が自分を心配して傷の対応をしている時の真剣な顔を思い出し、顔が赤くなる。
玲来「なっ! なんか顔アッツいなぁ!?」
自分の体調の変化を誰もいないのに誤魔化しつつ、玲来は境内に入るために扉を開ける。
玲来は開けたとき、そこにはないはずのものがあり、一瞬思考が止まった。
正確には「ある」ではなく「いる」といった方が正しい。
突然の出来事に驚きすぎて、それをもののようにあると思ってしまった。
境内の中には、可愛らしく、銀色の毛並みがとても美しい狐が眠っていたのだ。
それを見て思考停止した後、まず最初に思い浮かんだ言葉は「めっちゃモフモフしたい」だった。
そんなことを言っている場合かと思っていると、狐が自分の気配を感じたのか、起き上がってこちらを威嚇する。
玲来は寝ているところを邪魔して申し訳ないと思い謝っていたが、途中で違和感に気がつく。
この威嚇は自分を脅しているだけではなく、何かを怖がっているかのようなもので、息が少し荒い。
何故だろうと狐を全体的によく見ると、足を少し深めに怪我していることがわかる。
恐らく昼寝をしていのではなく、この傷が癒えるまで、ここで休んでいるつもりだったのだろう。
玲来は狐のために、応急処置だけは施してあげたかったが、警戒心を解かなければできない。
とりあえず、自分は危害を加えるような人間でないということを、行動で示すために両手を上げ、無防備な体制になる。
そして、ゆっくりと近づきつつ、優しく柔らかい表情を続ける。
少し近づいたところで、狐は玲来に悪意がないと解ったのか、威嚇の唸り声を出すのをやめる。
玲来は警戒を解いてくれたことにお礼を言うと、収納空間から常に持っている医療箱を取り出す。
何故持っているのかと言うと、軍人時代に怪我をした人の応急処置が出来るようにと、常に持つようにしていたからで、今でもそれは続けている。
玲来は狐が痛がらないように丁寧かつ手早く作業し、薬を使うときは沁みることを伝えてから使うなどし、最後に包帯を巻き終えて治療を完了させる。
狐は玲来の顔を見つめているとき、玲来は1回くらいならと思い、その毛皮に触れようとする。
しかし、あともう少しで触れられるというところで、銀の狐は威嚇の唸り声を出し始める。
玲来はさすがに調子に乗りすぎたと思い謝ったが、唸り声は止まらない。
どうしたものかと焦ったが、銀の狐の視線をよく見ると、自分に向けられたものでないとわかった。
銀色の狐が視線を向ける先を見ると、虎のような体格をした黒い狐が2匹、唸り声を上げながらこちらに近づいてきていた。
銀の狐が少し弱々しく怯えた感じがしていることから、傷を負わせたのはこの黒狐たちだとわかる。
玲来はまず友好的にと思い、境内から出て両手を上げて手を振り、争うつもりはないと伝えるが、ちっとも威嚇を止める気はないらしい。
玲来は最後まで交渉を続けたが、結局黒い狐2匹は玲来に飛び掛かる。
宙に上がったところを見て、自分の斜め前上に来たところで、玲来は確信し、決心した。
玲来「なら、やるしかないなぁ」
こうなることも予想していた玲来は冷静に収納空間から鞘をつけた状態で刀を取り出し、黒い狐の顔を一回づつ殴打する。
2匹は別れて左右に飛ばされるが、すぐに体制を整え、玲来に襲いかかる。
玲来はそれを華麗に避け、黒狐は仲間同士で正面衝突した。
頭を打ったせいでくらついたが、すぐに正気を取り戻し、玲来に対して怒りの唸り声を放つ。
玲来は銀の狐から自分に注意を向けることが出来たことに喜んでいた。
何故なら、銀の狐を逃がすことが出来たからだ。
黒狐がくらついている時、玲来は銀の狐に口パクで「逃げて」と何度も言い、銀の狐はそれを察したのかその場から離れていった。
玲来はそれが嬉しくて笑顔になるが、黒狐たちにとってはそれは煽りの笑顔に捉えられてしまい、怒りを露にして正面から同時に襲いかかる。
玲来は動きを冷静に見切り、2匹が飛び掛かったことで露出した腹に気絶する程度の一撃を腹に叩き込む。
2匹は気絶しながら、切り捨てられたように玲来の後方へと吹っ飛んでいき、木に激突して目を回す。
玲来は申し訳なかったので、念のために手を合わせて謝っておいた。
その後、玲来はあの銀の狐を呼びながら探してみたが、見つからなかった。
もとから狐というのは警戒心の強い動物であるため、あのようなことがあれば出てこないことは予想していた。
だが、玲来はそれがわかっていても1つだけどうしてもやりたかった欲望があったため、それをその場で小さく叫んだ。
玲来「せめて一回くらいモフらせとくれぇ~!」
帰ってくるのは響いて返ってくる自分の言葉だけで、少し悲しくなりつつも、助けることが出来たからよかったと言い聞かせる。
そしめ、時間も時間だったため、そろそろ青龍寺家本家に戻ろうと言い足を運んだ。
その様子を助けた銀の狐が見つめているとも知らずに。




