第7話 【頑固ジジイ】
試験をクリアし、無事にチーム結成を成し遂げたリベルタス。
結成して早々に新メンバーを迎えてから約1ヶ月が経ち、彼らは様々な依頼をこなしていた。
それは魔獣討伐、薬草採取、荷物運び、迷子の子猫探し、交通安全教室の演劇の役者の代役などなど幅広く。
かと言って、彼らに限ってそれらが普通に終わるはずもない。
例をあげるなら猫探しだ。
見つけたことには見つけたのだが、捕まえるのが大変だった。
タコ「よしっ! 行けるぞぉ!」
ライアン「捕まえたぁ! って… ありゃ?」
捕まえられると思い猫に飛び付いたタコとライアンが猫に避けられ、そのまま長い坂を転がり落ちてしまった。
他の依頼も成功はしているものの、何かとトラブルが多い。
しかし、それもあってメンバー同士での仲も深まり、お互いの特徴や得意不得意も把握してきた。
そんなある日、今となってはすっかり集合場所となっていたタスク受け付け場にて、ライアンがあることを提案する。
それは「チームハウスを手に入れないか!?」と言うものだった。
ライアン曰く、共に同じ屋根の下で暮らすことで、よりお互いを理解しあい、絆も深まるのではないかとのこと。
タコ「いいなぁ! 俺そういうの憧れてたんだ!」
タコはその案に賛成し、ネルもその考えに目を輝かせ、ワクワクした感じのオーラを出す。
しかし、天琉がそこで待ったをかける。
天琉にとっても魅力的な話ではあったが、決定的かつ現実的な問題がひとつあった。
それはチームハウスを買うためのお金である。
この世界での通貨の名前は「ハドル」と呼ばれ、日本の円単位と全く同じだ。
チームハウスを買うと言うことは、建物を買うことになるため、安くても何百万とかかってしまう。
今のリベルタスは結成してからまだ1ヶ月しか経っていないこともあり、報酬金が少ない依頼しかまわってこない。
天琉の場合、取り分の金額で今住んでいる宿の家賃を払うだけでやっとの状態。
とはいえ天琉自身も、仲間たちと生活を共有し、共に毎日を過ごすという理想的な生活ができ、家賃支払いに追われずに済むということを考えれば、その案には賛成だった。
この現状でチームハウスを手に入れないかと言ってきたからには案があるのかと聞くために、待ったをかけた。
それに対するライアンの答えは「大丈夫だ。問題ない」という自信に満ち溢れたものだった。
そう言った後にライアンが指パッチンを鳴らすと、それに反応したランが待ってましたと言わんばかりにとある依頼書を持ってくる。
この1ヶ月の間にライアンは受付嬢であるランともかなり仲良くなっていた。
あまりの手際のよさに少し困惑したが、とりあえずその依頼書に目を通す。
依頼書の内容は「船を作る手伝いをしてほしい」と言うもの。
内容だけを見ればただの手伝いだが、ライアンとランが注目してほしいのはその報酬。
報酬欄を見た瞬間、天琉とタコは驚きで目を限界まで開かせ、タスク受け付け場の店が揺れ外を歩く人々を驚かせるほどの、驚きの声を上げる。
何故そんなにも驚くのかと言うと、その依頼の報酬がチームハウスだったからだ。
天琉「こんな良い条件の依頼、何でだれも受けないんですか!?」
天琉がランに質問すると、ランは渋々その理由をこたえる。
ラン「その… 依頼人の方がかなり頑固な方で… 行けばわかると思います…」
若干その返答に疑問を抱くが、背に腹は変えられないため、リベルタス一同はその依頼を受けることにする。
その事を聞いたランはなにやら不満そうな笑顔を浮かべており、なぜだろうと思い聞いてみる。
ラン「だって… 皆さんハウスを手に入れたら… もうここに来なくなるんじゃないかなって思うと…」
寂しそうな表情を浮かべながらも、恥じらいながらその言葉を放ったランを見て、リベルタス男組は一人づつ「可愛い…」と心の中で言ってしまった。
そんな中でネルはランに声をかけ、大丈夫だと伝える。
ネル「ハウスが、手に、入っても。私は、ここに、くる」
それを聞いたランは嬉しそうにネルの名前を呼び、それに返事をするようにネルもランの名前を呼ぶ。
そして、2人でクルクルと手を繋ぎながらその場で回る。
その光景を見ていた男3人は感動的だと思いながら見ていた。
しかし、天琉はその半面、突然始まった光景に「なにこれ」とツッコミをいれていた。
◆
そして、依頼を受注したリベルタスは、全員で依頼人のいる港町にやってくる。
依頼人がいる場所を突き止めるため、一般人などに聞いて場所はわかったが、同時に心配の声をかけられた。
その事から、依頼人はここら辺の人たちからでさえも評判が悪いのだと考えられる。
少しの不安を抱えながらも、リベルタス一行は依頼人がいる場所へ足を運ぶ。
そこは家と言うよりは、港でよく見られるような倉庫のような見た目で、少しぼろかった。
船を作ると言う依頼なだけあって、一同はここで間違いないと考える。
ライアン「よし! まずは俺が先陣を切らせてもらおう!」
ライアンはそう言って早速玄関と思われる扉をノックするために前に立つ。
天琉「えらく気合い入ってるな」
ライアン「そりゃ、俺が持ちかけた依頼だからな。先陣は俺しかいねぇだろ?」
天琉はそんなライアンの忘れかけていた大人の背中を見直し、少しかっこいいと思いながら任せる。
ライアンはノックする前に挨拶しようと思い、ノックする腕の形をつくり、しようとした。
しかし、する前に扉は壊れて飛んできて、大きな音を立てて後方の三人を飛び越えて地面に落ちる。
三人は当然その事に驚き地面に落ちた扉を見ると、その上には黒スーツの男が重なって2人倒れていた。
黒服2人は目を回していたがすぐに正気を取り戻し、「覚えてろよ!」と言いながら走り去っていく。
それを見て天琉はなんだったんだと言い、ネル「さぁ」とだけ答える。
しかし、タコだけは違い、今出てきた2人を遠くから見ていた。
タコ「なんか見覚えあるな…」
天琉「あれ? そういえばライアンどこ行った?」
天琉とタコは辺りを見渡して見るが、先ほどまで扉の前にいたはずのライアンはどこにもいない。
すると、ネルは突然壊れて飛んできた扉を立てて、地面についていたほうの面を2人に「ん」と言って見せる。
その扉を見た瞬間、2人は驚いた。
そこにはギャグ漫画のように紙のような薄さで扉に張り付いているライアンがいたからだ。
天琉「さっき見直した背中が、薄っぺらい背中になっちまった…」
現実でこんな状況になるのかとツッコミたくなったが、とりあえず剥がすことにする。
しかし、想像以上に強くくっついていて全く剥がれず、天琉とタコと2人係でも剥がれない。
天琉「なんでこんなベッタリくっついてんだ! こういうのって、自然に剥がれて飛んでくってのが漫画でのあるあるだろ! 俺ら漫画のキャラじゃねーけど!」
タコ「おそらくだが、2人分の重量と鉄扉の重さ、それに男2人が飛んできた勢いもプラスされて、こうなったのかもな!」
天琉は状況にツッコミながら、タコは冷静に分析しながらも、共に必死に剥がそうとするが、全く剥がれない。
一旦休憩をとるために壁に立て掛けて、どうしたものかと考えていると、ネルがなにか思い付いたらしく、2人に扉を持っていてもらうよう頼む。
立てて持ってもらうと、ネルはライアンが張り付いていない方の面に立つ。
ネル「こう時は、押して、駄目なら、引いてみる。引いて、駄目なら、押してみる」
そう言ってネルは立てて持ってもらっていた扉をおもいっきり殴り、すごい音を出す。
2人はその行動にびびったが、押し出す力により、ライアンはなんとか扉から剥がれた。
その後、ライアンの安否を心配した2人はすぐにそばに駆け寄り、大丈夫かときくと、案外平気そうだった。
ある程度ライアンが調子を取り戻し、扉が壊れたんだから仕方ないと言い家に入ろうとしたが、いつのまにかネルが雑に直していた。
本人曰く、ノックもせずに家にはいるのは失礼なんだと言う。
変なところで常識を突きつけられた三人は、気を取り直してまたノックからやり直すことにした。
ライアンはさっきのことがあって少し弱腰になり、天琉にノックをお願いする。
二三回ほどノックと挨拶をしてはみたが、返事はなにも返ってこない。
選手交代してタコもやってみるが、同じく返事は返ってこない。
ライアン「ふっふっふっ、なら次は俺が行かせてもらおう。 リベンジだ」
2人がどうしたものかと考えていると、ライアンが堂々と次にノックをすると出てくる。
タコは先程よりも気が強くなっているところから、なにも飛んでこないことを確信したからライアンは名乗り出たのだと考える。
天琉「え? じゃあ俺たちはあいつの生け贄として前に出されたってことか?」
タコ「そう言うことになるな」
ネル「せこい、」
そんなライアンは、3人に少し冷たい目線を向けられているとも知らずに、堂々と扉の前に立つ。
ライアン「こういうときはな、勢いがいるんだよ」
そういうとライアンは、わざわざネルが直した扉を蹴って壊し、大声で挨拶をする。
しかし、またもやあいさつは途中で終わり、言いきる前に、扉の向こうに広がる暗闇から、ライアンの額にトンカチが飛んできて直撃する。
当然ライアンは目を回しながら地面に倒れた。
3人はライアンの不幸さ異常だと思いながら彼の姿を見ていると、トンカチが来た暗闇のなかから声が聞こえてくる。
「やかましいぞ! また懲りずに来たか!」
声からしてかなりの老人で、声の張り具合からも頑固ジジイという印象を受けた。
徐々に足音が4人のもとに近づき、ついに暗闇のなかから姿を表す。
その男はかなり年老いていて、身長は140センチほどだが、筋肉質で体つきが良く、どうやらドワーフのようだ。
しかし、さすが老人と言ったところか、髭も髪の毛も白くなっていて、顔のシワも多い。
「なんだ? さっきのクソガキじゃないな」
天琉は自分達が依頼を受けに来たものだということを伝えると、お爺さんは眉間にシワを寄せ、難しい表情を見せる。
「お前らが…? まぁいい、ソイツ起こして入れ」
その言葉にしたがい、ネルは先になかに入り、タコと天琉はライアンを担いで家の中にはいる。
暗闇のなかをしばらくあるくと、船を作っていると思われる工房にやってくる。
最初は真っ暗でなにも見えなかったが、お爺さんが電気をつけた瞬間、全員そこにあるものに驚かされた。
そこには、とても大きな作成途中の未来チックながらも、どこか海賊のようなデザインの船がおかれていた。
先ほどまで目を回していたライアンでさえも、この船を見た瞬間、痛みが消し飛んだ。
驚きと感動を覚えたと同時に、全員が今回の依頼の船なのだと知る。
「ボサッとしとらんと、こっちこんかい。とっとと始めるぞ」
お爺さんはそんな4人はいざ知らずと言った感じで、作業を始めようとする。
タコ「まぁまぁ、まずは自己紹介からしませんか? 俺はタコって言います」
そんなお爺さんにタコは同じ技術者として感動したこともあり、なによりも依頼人として自己紹介をしようと提案する。
そして、タコを筆頭にリベルタスメンバーは全員が名乗り終える。
「わしはダイガンだ。さぁ、始めるぞ」
名乗り終えたと思えば、すぐに指示を始め、リベルタスは作業に取りかかる。
後でわかったが、正確には船を作ると言うより、船を現代の技術を使って改造することらしい。
設計図を見たところ、それは海をわたるだけでなく、空を飛ぶことを可能にする船だった。
タコは機械でのプログラムを組み、改良の余地がないかを調べながら作業をするなどして、発明家としての実力を発揮していた。
ダイガンはそれに感心し、自分が組んだ部分を見てもらっていた。
それに負けじと天琉は対抗心を燃やし、自分もせっせとパーツを組み込むが、ダイカンに怒鳴られる。
ダイガン「誰がそこにおけと言った! その部品はあっちだろうが!」
ライアンも天琉と同様に怒鳴られ、ネルは力の入れすぎで部品のひとつを壊して怒鳴られた。
タコを除いた3人はダイガンの大きな声で注意されたり、怒鳴られたりの繰り返しだった。
もちろん、タコを除いた3人はこのような技術面においてまったくもって無知と言っていい。
それゆえに間違えることはあるだろうが、ここまで言うかと言うほどの文句をつけられる。
依頼をたらい回しにされた理由が嫌でもわかった。
タコのサポートもあってなんとか作業は進み、時は過ぎていき5日目の夜がやってくる。
タコとネルを除いた2人はつかれた表情を浮かべて床に座って壁にもたれ掛かっていた。
体力面なら問題ないのだが、精神面で少し疲れてしまっていた。
いくら依頼人とはいえ、あそこまで怒るほどなのかと疑問に思っていると、ダイガンがそこにやってくる。
ダイガン「どうした? もう根をあげるのか?」
それを聞いた天琉は、さっと立ち上がりそれを否定する。
天琉「悪いが、怒鳴られる程度で根をあげるほど、弱くないんでね」
それに続いてライアンもその質問に返答する。
ライアン「そうそう、精神的なダメージはもう何度も受けてるからな!」
ネル「ライアンのは、自業自得が、ほとんど」
ネルの心理をついた言葉にライアンの心にぐさりと刺さり、タコがフォローする。
タコ「おいおい、事実を言うなって」
フォローができていないことを天琉がツッコミをいれる。
天琉「それフォローになってないぞ?」
タコ「あ、ばれた?」
ライアン「ひでぇなお前ら!!」
ダイガンの怒鳴り声で精神的につかれてはいたが、彼らの本質はなにも変わっておらず、根をあげるという選択肢は元よりなかった。
そんな様子を見たダイガンは、すこし眉間のシワが減ったような気がした。
ダイガン「ふんっ、口ではなんとでも言える」
そういって今日はもう寝ろと言ってそこから去ろうとするダイガンを呼び止め、後どれくらいで完成予定なのかと聞いてみる。
ダイガン「この人数とペースで行くなら、あと3ヶ月ってとこだな」
それを聞いた天琉とライアンは、その場でかたまって目蓋をぱちぱちとした後に驚きの表情を浮かべる。
ダイガンは予想通りの反応だなと思い、今まで依頼を受けてきたやつらとやはり同じかと思ったようだが、彼らは違った。
天琉「ま、船をまるまる改造すんだからな。それくらいかかるよな」
ライアン「なにより、受けた依頼は最後までやりとげないとな」
ネル「ライアン、変なとこで、大人の発言、でる」
その様子を見ていたダイガンは「フンッ」と言って部屋を後にした。
タコはその様子を見ていて、すこし不思議そうな表情を浮かべていた。
◆
全員が寝静まった頃の時間に、ダイガンは自室で明かりをつけ、画面でプログラムを組みながら悩んでいた。
そんな中、今日はもうやめておこうと思い、寝床につこうとした瞬間、苦しそうに咳き込んでしまう。
その時に机の上に置いてあった写真立てが倒れてしまい、呼吸を整えてそれを手に取る。
ダイガン「3年、か。長かったな…」