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第69話 【湖に響く思い】

功敦との手合わせを終えた天琉と仲間たちは、食事ができるまでの間、再び応接間で待ち、天琉は待っている間にタコとマキナの検査の元。出来る限りの治療をしてもらっていた。


打撲で済んでいたものの、箇所が多すぎるため少し時間がかかった。


それからしばらく経ち、治療が終わったタイミングで応接間の襖が開かれ、科戸風が食事の準備が出来たと伝えられる。


そして、科戸風の案内で食事をする場所に行くと、連れてこられた部屋はまるで料亭の宴会場のような場所だった。


そこには一人づつ座布団が用意されており、その前にある膳の上に料理が置かれていた。


そして、入ってきた襖から見て、広間の一番奥の左側の座布団に功敦が座って待っていた。


その豪華さを遠くから目を輝かせて見ていると、科戸風がそれぞれ座る座布団が決まっていると言われ、その通りに座る。


そして、結果的に天琉は功敦と対面になる形で座ることとなり、天琉から見て左側に玲来、ネル、タコ、ライアンの順に好きな姿勢で座る。


功敦の方には、功敦から見て右側に焔、烏丸、科戸風という順番に座る。


そして、科戸風からの好きなようにお食べくださいという言葉を聞き、全員が「いただきますと」言い、食事を始める。


膳の上には主にはすき焼きや天ぷら、色とりどりの魚や野菜といった豪華なものが置いてあった。


天琉以外のリベルタスの皆はどれから手をつけようか迷っていたが、各々が食べたいものを選ぶと、それを同時に口のなかに入れる。


すると、美味しさに感動するがあまり、つい声に出してその喜びを表してしまう。


あまりの美味しさに仲良し二人組は少々騒ぎすぎてしまい、マキナと科戸風から注意されるが、焔から「まぁまぁ! いいじゃないか!」と仲介される。


烏丸も焔に同調するが、科戸風に対し毒舌を披露し、喧嘩しそうになる。


ネルはひたすら淡々と料理を口に運び、目を輝かせながら食べ続ける。


もちろん、しっかりとマイン用の料理も用意されていた。


玲来もその旨味に感動しながら食べており、天琉にその思いを共有し合おうと顔を向ける。


しかし、その方向を見た瞬間、玲来は思わず驚きの声を上げてしまう。


何故ならそこには、自分達の楽しげな雰囲気とはうってかわって、別の空間なのかと思わせるほど重い空気が漂っていた。


天琉はいつもよりも何倍も遅いスピードで食事をしていたのだ。


何故なら、再び父親と対面しているという状況に緊張してしまっているからだ。


緊張しすぎるがあまり、料理の味がまったくわからず、必死に味を理解しようとゆっくりと咀嚼(そしゃく)しているのだが、まったくわからない。


それに加え、余計に緊張する理由があった。


それは功敦からの視線である。


功敦は食事が始まってからというもの、茶碗と箸を手に持ちながらずっと天琉を凝視したまま動かないのだ。


その視線になんの意味があるのかわからず、天琉は味がわからないということと、父親の視線の意味がわからないことに混乱しているせいもあり、それがより天琉の緊張を増幅させていたのだ。


しかし、手合わせをしたお陰か、最初の応接間で待っていた時に白目を向くほどの緊張感はなかった。


天琉は食べるという行為が出来ている分、進歩はしていると考えると、段々と冷静になり、勇気をもって自分から会話を持ち出すことにする。


まずは無難かつ王道な、好きな食べ物を聞くことから始めようとする。


しかし、天琉が口を開き「親父…」とだけ言うのと同時に、功敦は「天琉…」と言ってしまう。


そのせいで冷静だった心は一気に乱れ、どうしたものかと考える。


そして、まずは相手から言ってもらおうと思い「先にどうぞ」と言おうとするが、また言うタイミングと内容が被る。


その様子を隣で見ていた玲来と焔は見るに堪えず、その状況にツッコミを入れることで気まずい空気から抜け出させる。


そして、玲来は何故こうなったのかと聞き、天琉は状況と心境を説明。


すると、焔が呆れた表情で功敦の顔を見ると、この際言ってしまおうと言う。


焔「こいつはな、もう病気かってくらい頭の固い不器用なヤツなんだよ」


それを聞いて最初、天琉と玲来はあまり意味がわからず、頭の上にハテナを浮かべながら首を傾ける。


例え話として、昔天琉に暴力を振るった一番最初の教育係のことが上げられるらしい。


彼は辞めていったのではなく、功敦の手によって辞めさせたというのが真実だった。


天琉に暴力を行ったその日、使用人たちの会話でそれを耳した功敦は教育係を呼び出したあと半殺しにし、ある程度の処置を施した後に家どころか竜胆の街からも追放したらしい。


その後の辞めていった教育係も、天琉への陰口などを言ったところを見つけてはクビにしていたらしい。


それで天琉をの心を安心させようとしていたらしいが、天琉にとっては逆に不安になっていたことに気づかなかったのだとか。


それを科戸風から手紙で知らされた焔は、いても立ってもいられず、天琉の元へやってきたのだそうだ。


そんなことを聞いてもにわかには信じられなかったが、焔がその証拠として、今天琉を凝視していた理由を焔が功敦に聞いてみると「それは…」と言って少し口ごもるが、ちゃんと理由を話し始める。


功敦「食事のときにする親子らしい会話はなんだろうと考えていたんだ」


それを聞いた瞬間、幼馴染み2人は一瞬放心状態になるが、すぐに正気に戻って驚きの表情と声を出して続きを聞く。


凝視していたのは、先ほど言ったとおりに、食事のときにする親子らしい会話はなんだろうと考えていたのだ。


しかし、何を話せば良いかわからず、天琉を見ていれば何か話題が見つかるかもしれない。


あわよくば天琉から話題を出してくるかもしれないという理由で凝視し続けるあまり食事の手が進まなかったらしい


天琉「いやだからって凝視する必要はないだろ!?」


功敦「私にとってこれは言わば、私が息子であるお前とどう話せば良いかを見つけるための戦いだ。戦いに置いては、目を離せば死が待っているものだ」


天琉「こっちは凝視される緊張で死にそうだったは!」


その会話のお陰か少し気が楽になり、先ほど何を聞こうとしていたのか、結局功敦に先に言ってもらうことにして聞いてみると、天琉と同じく好きな食べ物が何かについてだった。


それを伝えると、先ほどから思考や行動が同じことに面白さを感じてしまい、お互い少し恥ずかしそうな、嬉しそうな笑みを浮かべる。


その後、まだぎこちないところはあるものの、少し緊張が解けたのか、親子らしい会話をすることが出来ていた。


それをサポートした玲来と焔はお互いにグッドサインを送り合う。


そして、その場にいる全員で食事を楽しむのだった。



食事を終えてから少し経った後、天琉は功敦と2人っきりで歩きながら、どこかへと向かっていた。


功敦が言うには、会って共に伝えたいことがあるらしい。


他の皆はというと、玲来以外の皆は竜胆の街で一番美味しいと評判の甘味処へと向かった。


焔と烏丸はその案内を兼ねて自分達も食べるために同行。


玲来は1人で行きたいところがあるらしく、単独行動。


そんなこんなで、功敦の案内でたどり着いたのは、竜胆の街の象徴の1つである湖の側だった。


天琉は改めて見てみて綺麗だと絶賛し、その場に吹く心地い風とそれに乗ってやってくる美味しい空気を吸う。


すると、湖の沖を辿っていくと、とある1本の木が見えてくる。


沖が湖の中心に道を作るように地面が出来ており、その一番端っこに木が植えられている形になっていた。


今まで街のある反対側の湖の沖には行ったことがなく、天琉はこの場所があることを始めて知った。


そして、段々と近づいていって気づいたことがあった。


それは、木の前に誰かの墓があったことだ。


墓に刻まれているであろう名前の場所を見てみると、そこには「青龍寺 (あおい)」とあった。


青龍寺というからには、自分の家系と何かしらの関わりがあるのかと思っていると、功敦はこの墓が誰の物なのか教えてくれた。


それを聞いた瞬間、天琉は驚かずにはいられなかった。


何故なら、功敦が言うにはこの墓は、今は亡き自分の母親のものだったからだ。


功敦がここに連れてきたのは、先ほども言った通り、ちゃんと向き合うことが出来たことを、天琉と共に伝えに来たかったらしい。


何故こんなところに母の墓があるかわからず、聞いてみたところ、功敦と母の中で最も思い出深く、最も好きであった場所がここだったらしい。


故に、ここで眠らせることが最適だと判断したのだ。


それを聞き、天琉はまた功敦という父親の人間性の一部を知った。


それ故に1つ、余計にわからないことがあった。


そんな優しく思いやる心があるのに、何故自分にあのように厳しく、冷たく接したのか。


母の前ということもあり、天琉は思いきってその理由を聞いてみる。


すると、功敦は自分の妻である葵のことについて語り始める。


その返答に少し混乱するが、最後までしっかり聞こうと思い、まっすぐ功敦の顔を見る。


『青龍寺 葵』という人間は、とても明るく自由な人間だったらしい。


その行動は予測不能で、何をするかわからない節はあったが、その行動と笑顔は、常に人を救ってきた。


しかし、その自由さ故に命を落としてしまった。


その事から、天琉を妻と同じく自由に生きるようにしてしまえば、また失ってしまうことになるのではと考え、それが怖かったのだ。


それ故、功敦は自分の手が届く範囲に天琉を縛り、外への憧れを無くすことで、天琉を守ろうとしたのだそうだ。


そして、母を守れなかった自分には息子と話す資格など無いと思い、関わりを避けていたのだそうだ。


それを聞いていた天琉は、どこまでも不器用で遠回りな愛情を持っている事に気づき、自分のことを思ってくれていたことに喜びを感じる。


しかし、天琉が家出をしたあの日、焔からそれは間違いであることに気づかされた。


1人で中央大陸へと向かったと焔から知らされたときは、あまりの感情の爆発により、焔に殺意を向けてしまった。


しかしそのとき、現実を焔から伝えられた。


自分が今まで天琉を守ってきた行為は、全てが裏目に出て、逆に苦しめていたのだと。


その事に絶望した功敦は、どうすればいいのかと悩んだ。


それを教えてくれたのは焔だった。


彼女自身も葵のことを尊敬し、憧れの的としていた。


そんな焔が何故天琉に危ない道を辿らせるのかと思っていたが、焔のある言葉を聞いて、自分の過ちを思い知らされた。



焔『葵さんがいなくなった後悔を、天琉に押し付けるな!』



それを聞いたとき、自分はどれだけ取り返しのつかないことをしたのだろうと後悔した。


少し考えればわかったはずなのに。


葵は、どんな時であろうとも自分の自由と同じかそれ以上に、他の人に自由に生きていてほしいと願う人間だった。


それは、生まれてくる前の天琉に対しても、そうあってほしいと願っていた。


そんな葵が、天琉の自由を縛ってまで守るようなことを望むはずがないと、知っていたのに。


どうすればと思っていたとき、焔から天琉はいつか帰ってくると聞いたとき、あることを誓った。


次に会ったときは、せめて少し会話をしようと。


そして、その交流を機に、一族としてだけでなく親子としての縁を切ろうと。


自分がやってきたことはもう取り返しがつくものではない。


なら縁を切り、自分のことなど他人として忘れてもらうことで、自由になってもらおうと考えた。


手合わせをしていたとき、天琉に一瞬葵の姿が重なったことから、その気持ちはより固まった。


故にあの時の手合わせで、縁を切ったつもりでその場を去ろうとしたのだ。


だが、天琉がそれを止めた。


縁を切る気は無いと聞いたとき、功敦は思わず泣いてしまいそうになった。


それを語っていた今でも、功敦は涙が出そうなのを必死に堪えていた。


功敦「改めて聞くが、本当に… お前の父でいて良いのか?」


天琉はその質問に対し「あたりまえだろ」と、父親同様に涙を堪えながら見つめ合う。


途中で湿っぽくなったことに少し嫌になった天琉は母の墓の前で泣くのも悪いと言い、泣くことを止めようと提案する。


その提案に賛同した功敦は天琉とまったく同じタイミングで涙を拭き取り、また行動があった事に笑みをこぼす。


そして、再び母の墓を見ていると、功敦が突然歌を歌い出し、天琉は驚く。


それは、突然歌い出したことに対するものではなく、天琉が知っている大好きな歌だったからだった。


その曲がなんなのかと聞いたところによると、これは葵が考えた歌であり、歌詞を全て覚えているのは自分以外に、焔と科戸風だけらしい。


天琉は自分もその歌を知っていることを伝えると、共に歌おうと提案され、それに賛同する。


後になってわかったことだが、天琉がこの歌を心地よく思うのは、まだ葵のお腹の中にいたころ、毎日聞かせていたことが理由なのだと知る。


そして、18年の時を経て親子の誤解は解け、今までの時間を埋めるように共に母が作った歌を湖に響かせるのだった。

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