第68話 【向き合うために】
天琉の意識が戻ってからしばらく経つと、準備が整ったと伝えに来た科戸風案内のもと、全員である場所に来ていた。
そこは外であったが、後に和風なデザインの建物と観客席で囲われたコロシアムのような闘技場にたどり着く。
そこには心地良い風が吹いていた。
そんな闘技場の中央には闘技台があり、リベルタスのメンバー達がいる場所の反対側の場所で、腰に刀を差した功敦が闘技台の上に一人で立っていた。
この場所はなんだろうと辺りを見回していると、烏丸がそれを説明してくれた。
ここは、一族として続く天下五剣が後を継ぐ者の実力を見極め、試すための闘技場らしい。
それを聞き、ある意味では手合わせする場にふさわしい場所でもあるだろうと全員が納得する。
天琉は父の前に行く途中で立ち止まり、顔だけを後方へと向け、仲間達に「行ってくる」と言って闘技場へ向かう。
それを笑顔で見送ると、科戸風に観客席へと案内され、そこに座る。
天琉はまたもや功敦と二人っきりで向き合う状態となっていたが、最初の時よりは緊張していなかった。
それは、天琉の胸に送られた仲間たちの拳により、一人じゃないことを示してくれたから。
そして、天琉の元からの性格である勝負事には全力で向き合うという気持ちと、父親と正面から向き合い、認めさせるという目的が重なり、己を鼓舞したことで緊張が消えていたからだ。
功敦「開始の合図は科戸風が行う。霊力は無しだ。そして、鞘からは抜かずの手合わせとする。正真正銘の剣術と体術のみでの手合わせとする。構わないな?」
天琉「問題ない。ぶっちゃけ、霊力ありだと俺に勝ち目ない。でも、あろうとなかろうとやることは変わらない」
お互いに準備が整ったことを確認し、同時に腰から刀身を鞘に収めた状態で構える。
お互いが刀を構え、開始の合図を待つなかで天琉は相棒である炎牙と対話していた。
炎牙(相棒! この手合わせで功敦にわからせてやろうぜ!)
天琉(あぁ! この勝負、負けられねぇ!)
これはあくまでも手合わせであり、勝ち負けという概念は存在しない。
だが、天琉にとってこのような場面は勝負事と考えたほうがよりモチベーションが上がる。
それゆえに、天琉は勝ち負けのないこの手合わせは、認めさせるためだけでなく、全力で勝ちに行くことにした。
その意気込みを終えたと同時に、今まで吹いていた風は一時的に止み、少しの間の静寂を産み出す。
次の瞬間、科戸風によって開始の合図をされたと同時にまた風が吹き、親子同士の手合わせが始まった。
合図と同時に天琉は自分から一気に間合いを詰め、功敦に攻撃を始める。
まずは刀での攻撃を中心に行うが、功敦はそれらを最小限の動きで全て簡単に避けてしまう。
拳や蹴りを使った打撃技も繰り出してみたり、足払いをして体制を崩そうともしたが、全て避けられる。
何度も何度も、己の出せる全てをぶつけるが、それはことごとく避けられてしまう。
天琉はそれに対し少しの焦りが出ていたが、それ以上に父の強さを実感し、より負けられないとその戦いに熱意が湧いてきていた。
故に天琉は、諦めることなく攻撃を続ける。
その様子を見ている仲間たちは、天琉の攻撃が全て無となっている現状から、天下五剣という存在の持つ力の強さを再確認させられた。
天琉が攻撃を始めてから5分から10分経過した頃、突然功敦からの攻撃が始まった。
唐突の行動の変化に驚かされたが、天琉はかなりスレスレでその攻撃を避ける。
しかし、避けられていたのは最初だけで、徐々にその攻撃を受けてしまいそうになる頻度が上がる。
まるで、少しづつ功敦の強さのギアが上がっていくかのように。
そんな状態が5分ほど経った頃、天琉はついに父からの刀での攻撃を腹部にもろに食らってしまう。
そこから功敦からの攻撃は刀だけでなく、天琉と同じく打撃も何度も食らってしまうようになり、天琉は着実にダメージを蓄積してしまう。
それからまた約5分後、天琉は一度距離をとって呼吸整えていたが、それと同時に父の強さに圧倒されていることへの焦りが大きくなっていたこともあり、呼吸が荒くなっていた。
天琉(クッソ…! こっちの攻撃が全く当たらない。しかも今までの攻撃、鞘無しだったら確実に10回は死んでる…!)
そう思っても、天琉がやることは変わらないと自分に言い聞かせていると、功敦は突然口を開く。
功敦「その程度の実力で強者の世界にいれば、いつか命を落とすぞ」
息を整えるために距離をとった天琉は、その言葉を聞いてから俯いており、そのまま功敦は言葉を続ける。
功敦「これでわかっただろう? 世にはお前を越える者などごまんといる。そんな世に出て命を落とすくらいなら、ここに…」
最後まで言葉を言いきろうとした瞬間、天琉はそれを「そんなこと…」と言って遮る。
天琉「そんなことわかってんだよ。俺より強くて凄いやつがいることなんて。実際、家を出てから出会い続けてる」
そして天琉は俯いていた顔を上げ、決意を固めたような表情で真っ直ぐ功敦の目を見る。
功敦はその表情を見て何かと重ねたのか、驚いたように少し瞼がより開く。
息を整え終え、俯くことをやめた天琉は自分が今まで出会ってきた人たちを語り始める。
天琉「何度失敗しても、誰かのために発明が出来て、仲間のために自分を犠牲にできるやつ。
無表情だけど感情豊かで、ものすごく強いやつ。
いっつもふざけてる癖に、いざってときには頼りになるバカ。
毎日全力で人生楽しんでるのに、誰よりも回りを見てて、皆を笑顔にしてくれるやつ。
まだまだ固いとこあるけど、何だかんだのりがよくて、仲間のために色々と調べてくれる優しいやつ
まだ子供なのに、国ひとつを背負って、自分の責任と向き合えるやつ。
それと、まだまだ得体の知れなくて、悔しいが勝ってなかったやつにも、最近会ったばっかだ」
それを聞いていたリベルタスのメンバーは、自分達の事を言ってくれていることに気がつくと、無意識に笑顔になってしまう。
功敦「それは良い例だろう? 悪しき者も必ず現れる。お前を阻む者が…」
天琉はその質問に対し「それも知ってる。実際、ムカつく嫌なやつにも会っている」と答える。
そして、天琉は功敦の言うとおりだと肯定する。
天琉「たしかに、どんなやつに会うか、どんな目に会うかを考えると、不安だし、怖いときだってある。
でも、だからこそワクワクするんだよ!
なんにもわからない世界を、仲間たちと一緒にわからないまま我武者羅に進む!
それが楽しくて仕方ない!
決められてる、わかってる楽な道なんて興味ない!
俺は知らない道を、自分が選んだ道を進みたいんだ!
わからないから良いんだよ! それこそが冒険! 俺が求める人生! それが俺が望む、日常だ!」
その言葉とその笑顔を見ていて、向き合っている功敦と、観客席にいる焔と烏丸、そして科戸風はある人物を思い出し、驚いていた。
そして、それを聞いていた仲間たちは心が熱くなり、より天琉への信頼と尊敬、憧れの心が強くなる。
言葉を言い終え、より心が鼓舞された天琉は再び功敦へと走り出すが、その途中で今までの攻撃が通じないことを痛感しているため、どうしたものかと考えていた。
すると、炎牙が「やったことない動きをすれば良いんじゃねぇか?」と提案してきて、最初はよくわからなかったが、途中で良いことを思い付く。
そのヒントをくれ相棒に感謝を伝えると、天琉は功敦へと近づいたかと思えば、さっきと変わらない攻撃を続ける。
功敦はなにも変わらないと思い、最初と同じように避けていると、天琉が突然今までしてこなかった突き技を繰りだし、油断し隙をつかれた功敦はギリギリのところでそれを防ぐ。
突然の動きの変化に功敦も仲間たちも驚いていた。
天琉「いやぁ、ぶっつけ本番だからそう上手くはいかないか」
この天琉の突然の動きの変化は、功敦の油断から生まれた隙を狙っての攻撃だったが、これは仲間の戦闘スタイルを真似したものだ。
まず、相手を注意深く見極め、隙を狙うという玲来の慎重深い戦闘方。
そして隙に対して放った突き技は、ネルの片手での槍の突き技を参考にしたものだ。
天琉は炎牙の提案から、自分の戦い方に、自分が知る人物の戦い方を取り入れ、把握されていた攻撃手段には無いものを繰り出すことで、功敦に攻撃を当てる作戦を思い付いたのだ。
これにより、把握していた攻撃とは違う攻撃方が来るという状況になり、相手に慎重さが生まれ、手数を減らし、こちらから攻撃できる瞬間を増やすことが出来る。
再び天琉は功敦へと向かっていき、再び注意深く相手を見ながら攻撃を続ける。
そんな天琉に功敦は刀の横降り攻撃を腹に入れようとするが、天琉は何度も食らっているお陰かその速度に慣れ、高く飛び跳ねることでそれを避ける。
すると、空中で思い切り回転し始め、その遠心力を利用した強烈な一撃を食らわせようとするが、それも防がれる。
それを見ていたライアンとネルは驚いていた。
何故なら、それは魔大陸でヒュドラの首を切断した魔族、ラブリュスの技だったからだ。
天琉はあれを見た時から、一度やってみたかったと思っており、こっそり練習していて、実戦で使うのは今回が始めてだ。
防がれることはわかっていたが、せめて怯むか腕をしびれさせることは出来るかと思ったが、無理だったらしい。
次に誰の技を参考にしようかと考え、タコとライアンのキメ顔がちらつくが、ライアンが使うような飛び道具無く、武器を投げる攻撃は練習せずに使うのは少々危険なため、今回は保留とした。
天琉はそれを本人の目の前で言うと「オイ!」といわれることを頭の中で想像する。
功敦はその様子を見て、何かを決心したかのような寂しそうな笑みを浮かべる。
しかし、すぐに真剣な表情になり、今まで見てきた中で最も気迫のある構えをとる。
それを見た全員が天琉に対して止めを指す一撃を放つことを予感する。
功敦「これで最後だ。私はお前を評し、剣士の礼儀として全力の一撃を放つ」
それに対して天琉はそれ程の一撃を出すこと怯えるどころか、むしろ自分を認めてくれたと思い嬉しくなり、自分も構え直す。
そして、一瞬の静寂が場を包み込み、その場にいる全員が次の瞬間にこの手合わせが終わることを予感させる。
次の瞬間、天琉と功敦は全く同時に距離を詰め、自分の出しきれる全力の一撃を放つ。
観客席にいる仲間たちはその光景を見て、焔と烏丸を除いて絶句していた。
何故なら、天琉の攻撃はあとわずかのところで届かず、功敦の攻撃を食らってしまっていたからだ。
天琉は今まで蓄積されたダメージと今受けた一撃によって立っていられなくなり、気絶はしなかったものの倒れてしまう。
それを見た仲間たちは急いで観客席から飛び降り、天琉の元へと走ろうとするが、焔にそれを止められる。
焔曰く、まだ肝心なことが終わらない限りは、行かせてやるわけにはいかないらしい。
その頃、天琉はうつ伏せで倒れた状態で自分の未熟さと父の強さを再確認させられていると、功敦から言葉が告げられる。
天琉は何を言われるのか少し怖かったが、覚悟の上だと腹を括りその言葉を聞くが、それは想像していたものとは違った。
功敦「認めよう。お前がこれから自由に生きることを」
その結果は嬉しかったが、予想外の言葉に驚いたせいで喜びの感情がフリーズしてしまっていた。
天琉「いや、俺負けたけど…」
功敦「そもそもこれは勝負ではなく、お前の実力を測るための手合わせだ。勝ち負けは関係ない。最後の一撃はさっきも言った通り、お前に対する礼儀だ」
天琉「じゃあ…!」
功敦「あぁ。先も言った通り、一族とは関係なく、自由に生きろ」
その結果を知った瞬間、天琉は喜びの声を上げようとしたが、それより前に仲間たちがその声を上げる。
すると、先ほどの心配して観客席からの飛び下りは、その結果に歓喜して天琉の近くで共に喜ぶための飛び下りに変わる。
ライアンが先にかっこよく着地するが、後からきたタコが上から落ちてきて倒れてしまう。
それに対しマキナとネルが格好がつかないと呆れる。
玲来はそれはさておき、天琉の元へと駆け寄り、天琉を無理やり起こして肩を掴み、身体を前後に揺らしながら満面の笑みで喜びの言葉を送る。
それはどこか心配げでな様子でもあったが、とても優しい笑顔だった。
玲来「良かったじゃん! めっちゃハラハラしたんだから!」
天琉「ちょっ…! その言葉はありがたいけど痛い! あちこち打撲してるから地味に痛い!」
そこに他の皆もやってきて、祝いの言葉をかける。
そんな様子を眺めている功敦の元に、焔と烏丸、そして科戸風がやってくる。
焔「見たろ? あいつは実力的にはまだまだだが、それ以外に凄い力を持ってる」
それを聞いた功敦は「そうだな」と言うと、寂しそうな表情を浮かべ、その場を去ろうとする。
三人がそれを引き留め、息子となにか話さないのかと聞く。
功敦「あの子は一族と関係ない道を生きる。その道に私がいてはおかしいだろう」
そんな事を言う功敦に対して呆れた表情を向け、溜め息をついていると、天琉がそれを呼び止める。
何も言わずに何処へ行く気かと聞くと、功敦は焔たちに言った言葉を天琉に伝える。
天琉はもちろんそのことには嬉しいと思うが、その考え方には納得していなかった。
天琉「俺がここに来たのは、親父とちゃんと向き合うためだ。親父から直々に一族と関係なく生きるかどうか聞くのはあくまでもついでだ。だから、親子の縁を切る気なんてない」
それを聞いた功敦は少し身体が震え、何事かと思っていると「そうか…」と、震えたまま言葉を発する。
功敦「なら、この後… 食事でもしよう」
それを聞いた天琉はとても嬉しくなり、仲間たちからも再び良かったなと言葉を掛けてもらう。
そして、功敦は科戸風に料理を用意するように伝え、それを小さな笑顔で了承する。
功敦は一度その場から去っていくが、その様子を見ていた焔と烏丸は呆れながらもその姿を笑顔で見送っていたのだった。




