第64話 【海と空の戦い】
その日、まだ太陽が出始めて少ししか経っておらず、まだ少し明るとしか言えない程の時刻にリベルタス一行はハウスの操縦室に集まっていた。
そこでは、タコが真ん中の席に座り、マキナと共に何かの準備をしていた。
聞いただけでは解らないような言葉ばかりが飛び交っていたが、他のメンバーはそれに混乱するのではなく、何かを楽しみにするような期待の眼差しを向けていた。
そして、等々その作業が終わり、マキナと最終確認が終わったと言うことを確認し合うと、天琉にその事を伝える。
タコ「さぁ、リーダー。出発の合図頼む」
その頼みに天琉は責任重大だと思い緊張していたが、同時に待ってましたと言わんばかりの笑顔を浮かべながら頷く。
そして、メンバー全員に心の準備は良いかと聞くと、全員が問題無しと元気良く応え、各々の楽しみと言う思いを口に出す。
それを聞き終え、天琉は一度大きく深呼吸すると、キリッとした顔になり、まるで船長のように掌を開けて右腕を突き出す。
天琉「リベルシップ! 目的地【武道国オウカ】に向けて、いざ発進!!」
その言葉を聞き、メンバー全員が「おぉ!」と返事をすると、マキナが何かを操作する。
するとハウスが揺れ始めたかと思えば、船の形をしたリベルタスのチームハウス、リベルシップはいつも出入りしている場所が塞がり、宙に浮き始める。
メンバーはその状況に興奮していたが、そんな中でもタコとマキナは動かしている間も問題ないか確認を続ける。
初めて飛ばすと言うのもあるため、確認を怠るわけにはいかない。
問題なくリベルシップは予定の高さまで浮くことに成功し、目的地に向けて前進する。
人に迷惑をかけないために高く飛んでおり、今現在の高度は600m程で、日本で言うところの東京スカイツリーの天辺に近い高さにある。
タコとマキナは、念のために海の上にいくまでは確認を続ける。
進行方向の途中で中央都市を横切った際、早朝にランニングをしていた人々は驚いていた。
わざわざリベルシップで行くのは、メンバー全員で武道国に行くからと言う理由もあるが、メンバーの「せっかく飛べるんだから飛んでいこう」「未来国の時の再チャレンジ」と言う意見が出たからである。
出発をこれだけ朝早くにしたのは、武道国は通常の船で行っても10日かかるほどの距離であるためと言う理由もあるが、出来るだけ人目につかないようにと言う理由もある。
進んでいる間、タコとマキナ以外は船で言うところの甲板に出ており、そこで空の上から見るいつも通っているであろう道を眺める。
中央都市の近くにある森林や、今向かっている天琉が軍事国に行く時、そしてマロンと出会った港町に行くための列車やその線路などは、上から見るとまた違った物に見える。
途中でその光景に興奮しすぎたせいか、体重を前にかけすぎたせいでライアンが落ちかけ、天琉と玲来で足を着かんで引っ張りあげるなどの、いつも通りのハプニングが起こるが、何とか港町に辿り着き、海の上の移動を始める。
空の上から見る海の景色に皆が興奮していると、タコとマキナがようやく甲板にやって来る。
操縦席から離れても大丈夫なのかと思ったが、マキナが思考分割で操縦を続けているため、問題はないらしい。
マキナ「最大10個までのマルチタスクなら容易です」
そう言うとマキナは自慢げに胸を張り、自分の能力の凄さをアピールする。
その後、しばらくの間は甲板で過ごすことになり、ビーチや民間のプールに置いてあるような椅子で昼寝したり、景色を楽しんだりとした。
◆
それからリベルシップは問題なく進み続け、四日目を向かえた。
その日は、念のための点検を予て無人の小島に船を止め、点検が終わったらビーチで遊ぼうと言うことになった。
ずっと飛んでいて、ハウスの中にいるだけだと退屈なので、体を動かして気分転換するという意味も兼ねている。
各々が水着に着替えた後に砂浜に行くと、何やらカッコつけたポーズをとって横並びになる。
マキナ「何をしているのですか?」
天琉「いやさ、アニメとかではこういう時、披露シーンみたいなのあるじゃん」
玲来「我々はそれを再現してみたのだよ」
マキナにはよくわからなかったが、これはこれで思い出になるだろうと思い、写真を撮っておく。
それが終わると、各々のやり方でビーチを楽しみ始める。
タコとライアンは泳いで目標の岩にどちらが早く辿り着けるか勝負し、マキナはドローンを飛ばして勝敗を判定する。
タコ「名前も産まれもほぼ海の者の力を見せてやる!」
ライアン「こちとらガキの頃は水泳大会でベスト8じゃコラァ!」
ネルはケルベロスの姿に戻したマインと一緒に島を一周してくると言って走っていく。
天琉が皆自由だなと満面の笑みで見ていると、いきなり顔面に海水がかけられる。
海水がやって来た方向を見てみると、玲来が悪い笑顔をしながら水鉄砲を構えていた。
玲来「油断大敵!」
天琉「やったなこのやろう!」
そう言うと天琉は近くに置いておいた水鉄砲を手に持ち、玲来との水鉄砲の撃ち合い対決を始める。
それから数時間、メンバーは時間も忘れて海での遊びを楽しんでいた。
天琉と玲来が対決を終え、休憩しつつ対決のできる棒倒しを砂浜でしていると、玲来が突然あることを口にする。
玲来「そういえば、姐さんには会いに行くの?」
玲来が言う姐さんと言うのは、天琉に修業をつけてくれた師匠と同一人物であり、玲来も稽古をつけてもらったことがある。
天琉「会うつもりだが… あの人自分から来そうじゃね?」
玲来「確かに… でも、会ったらやることは1つじゃない?」
天琉は玲来の悪い笑顔での問いかけに「だな」と満面の笑みを浮かべ、玲来は再び悪い笑顔を見せる。
すると、玲来は悪い笑顔をキープしたまま、なぜ棒は立っていられるのかと思うほど砂を削り取る。
天琉はあまりの削られ具合に驚き、全方向から見てみて、どうしたものかと混乱し、玲来は「どうすることもできまい!」とわざとらしい高笑いをしながら勝ち誇る。
負けず嫌いで勝負事には全力の天琉にとって、どんな状況に置いても諦めるわけにはいかず、慎重に砂を削ろうとする。
だが、そこに突然ビーチボールが飛んできて、砂を削るどころか棒が何処かへと飛んでいってしまう。
天琉はそれを見て一瞬フリーズするが、直ぐに青ざめた後、絵画の「ムンクの叫び」のような表情になってしまう。
ネル「あ、ごめん」
そのビーチボールは、タコ&マキナ対ネル&ライアンのビーチバレー対決の際、ネルがアタックを打つ方向をミスってしまい、飛んできたものだった。
その後、天琉は勝負を邪魔されたことに、玲来は勝ち確と言っても過言ではないが、勝敗を有耶無耶にされたことに怒り、3組同時ビーチドッジボールをすることになる。
激しい戦いの末、マキナとネルと玲来以外がボロボロになって砂浜に倒れ、女性陣のみが残された。
ことの経緯を簡単に話すと、タコはネルのすさまじいアタックを避けきれず1発でKO。
ライアンは天琉と玲来によるコンビネーションアタックの猛攻に翻弄されつつも対応していたが、ネルに盾にされてKO。
天琉は途中までは良かったのだが、うっかり足を滑らせて転び、そこを容赦なくネルが思いっきり投げつけKO。
要約すると、殆どがネルの被害でこうなったと言うわけだ。
マキナは自慢の頭脳で解析してボールを避け、玲来は自分の勘と反射神経を駆使して避ける。
しかし、途中でマキナは動きに対応しきれずにダウンしてしまう。
そして、ネルと玲来の一騎討ちとなり、気が抜けない勝負を繰り広げた結果、敗者たちと両者のお腹の音が鳴ったことにより、空腹が勝利を収め、結果的に勝敗はつかなかった。
◆
出発から10日目の昼、メンバーはロビーへと集まっており、マキナからもうすぐ到着と言うことを知らされる。
窓から顔を出して前方を見ると、武道国の港町がうっすらと見えてきていて、天琉はもうすぐで本来の目的である父との対面が迫っていることを確認させられる。
メンバーたちもその緊張感を持ちつつ、玲来以外は武道国と言う初めての環境にワクワクする。
そんないつも通りの様子を見て、天琉は少し心が軽くなるが、それを壊すかのように警告音が鳴り響く。
タコ「どうした!? 何があった!?」
マキナ「進行方向に巨大な鳥類生物を確認! 真っ直ぐこちらに向かってきています!」
その報告をした後、マキナはその鳥類生物の姿を確認してもらうため、モニターに映像を映し出す。
そこには、ワイバーンと同じほどの大きさの黒い鳥が映し出されており、見た感じカラスのように見える。
勾玉のようなものを3つぶら下げている首飾りをしていて、足は2本ではなく3本で、少々赤黒い色をした羽毛を生やしていて、特徴的な模様もある。
メンバーの殆どがこのような生物を見たことがなく、鳥類型の魔物にも見覚えがない。
そのために、武道国出身の天琉と玲来にあのカラスが何なのかと聞こうとライアンが顔を見てみると、2人は何やら困惑した表情を見せていた。
玲来「ねぇ… あれって…」
天琉「あぁ… 間違いない…」
その会話に疑問を持ちつつ、あのカラスについてなにか知っているのだと確信し、何なのかと聞こうとすると、もうカラスがリベルシップの上を通過したことがマキナから知らされる。
一体なんだったんだろうと思いつつ、何事もなくて良かったとひと安心し、ライアンは改めて天琉と玲来に先程の会話の意味を聞こうと思い振り返ると、そこに2人の姿はなかった。
ネル曰く、2人で走って甲板に向かったとのこと。
その事に疑問を抱いていると、リベルシップ全体が大きく揺れる。
まるでなにかが落ちてきたかのような揺れで、マキナに状況を調べてもらうと、甲板に何かが凄い勢いで落ちてきたことが明らかになる。
恐らく、あのカラスが落としていったのだろう。
その何かを確認するため、マキナが甲板の映像をモニターに映し出すと、落下地点には人影があった。
最初の印象は、和服を着ていて、メロンと思える立派な実を胸にぶら下げた、赤みがかった長い黒髪の女性だった。
武道国人らしく、腰に刀を1本差している。
◆
「さて… どこにいる?」
甲板に降り立った女性は、どこか男勝りな雰囲気をだしていて、何かを探すように辺りを見渡していると、甲板の入り口が大きな音を立てて開かれる。
そこから出てきたのは、先程ロビーから姿を消した天琉と玲来だった。
お互いの姿を確認した瞬間、女性は満面の笑みを浮かべ、天琉と玲来は険しい顔になり、双方とも拳を構えて突進する。
天琉と玲来は女性に対して同時攻撃するが、それを意図も簡単に受け流し、2人に1発ずつダメージを与える。
2人は全く違う方向に吹き飛ばされるが、受け身をとって体勢を立て直し、今度は2人でのお馴染みのコンビネーションで攻撃するが、これも意味はなく、逆に1発食らわされる。
途中から他のメンバーもそこに来ていて、2人に加勢しようとするが、どこからともなく現れた、喋るカラス行く手を阻まれる。
そのカラスは、先程こちらに向かってきていた巨大なカラスと同じ首飾りをしていて、同じ羽毛の色をしており、足の本数までもが一致していた
カラス「おまえさんらが出る場面やない。黙って見とれ」
その言葉の悪さに怒りを覚えたが、一緒にいるだけでもわかる強者のオーラに圧を感じ、一瞬怯む。
しかし、仲間のピンチに助けられないことほど怖いものは無いと言い聞かせ、カラスに道を開けるように言うが、タメ息を返される。
カラス「安心せい。別におまえさんらをとって食おうってわけやない。ただ、あの2人の挑戦を邪魔したんなってだけや」
その言葉の意味はわからなかったが、悪意は感じられなかったので、メンバーは見守ることを選ぶ。
その後、2人は何度も攻撃してみるが、同じことの繰り返しになり、結局動けなくなるまで叩きのめされた。
天琉は途中から、炎牙の霊力を供給してもらい、身体強化をした状態だったのだが、相手を少し驚かせただけで、戦況の変化はあまり見られなかった。
天琉「クソッ… これでもダメなのかよ…」
玲来「ほんと、姐さん相変わらず化物じみてるなぁ…」
その言葉を聞いていた女性は高笑いし、2人の実力が高まっていると褒めるが、まだまだ自分には勝てないと宣言される。
「にしても、天琉が来るのはわかるとして、玲来まで来るとは思わなかったぞ?」
そんな会話の中、2人のことを知っている素振りの話し方にメンバーは疑問を覚え、マキナが代表して、何故2人を知っているのかと質問する。
すると、近くにいたカラスが「なんや、聞いてないんかい」と言い、その質問に答える。
カラス「姉さんはな、天琉と玲来の姉貴分であり、天琉に稽古をつけた方。つまり、天琉の師匠や」
それを聞き、天琉と玲来以外のメンバー全員が驚きの声を上げる。
天琉の師匠と言えば、天琉が今の性格と実力になるまでを導いた者であり、イメージからして男だと思っていたため、衝撃はより大きかった。
それを遠くから聞いていた天琉の師匠である女性は天琉に、自分のことをちゃんと話していなかったのかと聞く。
天琉「話したのは話したんだけど… 男のイメージが強くなったみたいだな… あはは……」
それを聞いた師匠は指をポキポキと鳴らし、天琉にお仕置きと言って腕で首を絞め始める。
その際、胸に実っているメロンが当たっていたが、そんなことを気にしている場合ではなかった。
玲来はそれを見て、実が当たっていることと、天琉が泡を吹いていることに危機感を覚え、直ぐにそれをやめさせようとする。
師匠「私は正真正銘の女だろうがぁ!」
玲来「ちょっと姐さん! 天琉泡吹いてるから、とっととその無駄に育ったメロンを離して!」
カラス「ったく… やっぱこうなるんか…」
その様子から見て、メンバー全員が嘘ではないのだと確認しながら、その光景を見守るのだった。




