第4話 【チーム結成試験 前編】
遂に必要な人数が揃い、後は試験が行われる日まで待つだけとなった。
それまでにやることは、チームの名前を決めることだ。
名前を決めるのは、どんなチームにも必要な物がチーム名だからである。
そんなこんなで3人は今日やろうと約束していたタスクを終わらせ、いつも通りタスク受付場でおやつのクッキーを食していた。
まだチームにはなっていないが、1週間も経てばある程度仲も良くなり、お互いのこともわかってくる。
例を上げるとするなら、好物が何なのかとか、得意なことは何なのかとか。
もっともわかりやすいのはネルの心境が雰囲気でわかるようになったと言うことだ。
普段無表情のままのネルだが、慣れてくると雰囲気で大まかな心境がわかってくる。
今クッキーを食べているときにフワフワとしたオーラが出ているが、これは美味しいや嬉しいと言った感じだ。
他に空気が重いオーラを出していると落ち込んでいる、赤いチリチリとしたオーラが出ていると怒っているなどなど。
天琉「んで、あれから1週間経つわけなんだが、皆チーム名は考えてきたか?」
タコ「もちろんだ! 色々考えてきたぜ!」
ネルはその質問に対して手をグッドサインにして答える。
天琉はメンバーが揃った日にチーム名を決めようと言うことになり、1週間時間を空け、その間に各々で名前を考える事にした。
そして、気になるそれぞれが考えてきたチーム名はというと。
天琉、自由大戦隊
タコ、フリーダム
ネル、赤青黒
それぞれが考えてきたチーム名を見せ合い、普段からネーミングセンスが壊滅的なタコが1番マシだったが、そのまま過ぎるとも思えてしまう。
天琉は戦隊ものが好きと言うのがあからさまにわかってしまう。
ネルに至っては色の情報しか無いので、落ち込ませないように遠回しに却下する。
そんなわけで結局振り出しに戻ってしまい、どうしたものかと考えていると、受付場の方からラン困った様子の声が聞こえる。
そちらに視線を向けると、ランが金髪の中々に顔立ちの良い男性にナンパをされていた。
それを見ていてランもモテるんだなと思っていると、タコが金髪の男に見覚えがあると言う。
どうやらこの中央都市のほとんどの不良をまとめ上げたと言われている男で、名前は「ライアン・ガンツマン」と言うらしい。
普段から小さいことながら悪行を行い、一部の住民に迷惑をかけている。
3人は自分の世話を少しながらもしてくれたランに嫌がらせをする存在が許せず、注意することにする。
ラン「やめてください…」
ライアン「いいじゃんか~。ちょっとでいいからさ~」
そんな会話をしている間に天琉が口を挟みやめるように注意し、タコもランが困っていると言うことを伝え、ネルはそれに同意して首を縦に降る。
ライアン「はぁ? 別にいいだろうが! 俺は強いから何してもいいんだよ!」
自己中な考え方を聞き、3人はより腹を立てるが、それ以上に内心で怒りを抑えているのはランで、罵倒の数々を心の中で叫んでいた。
そんな中、天琉が女の子を2人を連れていることを指摘し、タコをくれないかと言う失礼な要求をしてくる。
誰も聞いていないのに身長も胸も小さくタイプじゃないと勝手にネルを選ばなかった理由を語る。
その事にネルは腹を立て、怒っているときのオーラが出始める。
そしてそれと同じくらいにタコは怒っており、理由は女扱いしたからだ。
ライアン「なぁなぁ! そこのイタい赤髪野郎とお子様はほっといて、俺と一杯飲もうぜ~?」
その言葉を聞いた瞬間、タコとネルの怒りは頂点に達し、タコはその怒りをライアンの股を蹴ることで発散する。
タコ「俺は男だぁ!!」
そう言い放ったと同時にライアンの股が蹴り上げられ、苦しそうな表情をしながらその場に倒れる。
ネルはそれに追い討ちをかけるようにライアンの腹の上に股がり、顔を少し手加減してボコすかと殴る。
終わったあと、まさに満身創痍になっていたライアンは何故こんな目にあうのかと思っていると、天琉からやり過ぎだったと謝罪される。
だが、優しさで伸ばした手はライアンの手を掴んだ瞬間に折れない程度の力で強く握られ、痛みが走る。
天琉も決してライアンを許しているわけではなく、むしろランに加えてタコとネルへの侮辱の言葉、そして自分の自由の象徴とも言える髪色を侮辱されたことに怒っていた。
天琉「あんまり調子に乗ってると、いつか今以上に痛い目見るぞ?」
天琉は笑顔ではあるが、ライアンの手を握る強さと、言葉の重圧から怒りが伝わってくる。
ライアンはそれに耐えられなくなり、「覚えてろよ!」というありがちな台詞を吐き捨てて店を出て行く。
3人はザマァ見ろという気持ちで見送っていると、ランからまた助けてもらったことに感謝を伝えられる。
するとランから日頃のお礼と言うことで、あることを提案させてもらいたいと言われるのだった。
◆
数日が経ち、遂にステールラ加入チーム結成試験の日がやってくる。
試験が行われるのは中央都市から少し離れた場所にある樹海で、その入り口で集合することになっている。
天琉たち3人が集合時間の少し前に来た頃にはすでに10組ほど集まっていたが、そこには知っている顔がいた。
ライアン「あの時のクソガキ共じゃねぇか! お前らみたいなガキまで受けるのかよ!」
天琉「うるせぇ! 俺らの自由だろうがよ!」
その返事に対してタコは「そーだそーだ!」と言いながら拳を前に付きだし、ネルは無言で同じ動作をする。
そんな風に騒いでいると、何やら激しい音が近づいてくる。
それに気がついた全員がその方向を見てみると、とても派手な車が猛スピードでこちらに近づいて来ていた。
このままではぶつかってしまうのではないかと心配になり、段々と近付くに連れて心配は恐怖心へと変わっていく。
見ていた人のほとんどが危機を感じてその場から離れるが、タコとライアンは恐怖のせいか動けなくなり、仲が悪いにも関わらず、恐怖のあまりハグをしてしまう。
それを見た天琉は助けようと近づこうとするが、それは杞憂に終わり、車は2人がぶつかる寸前で停車する。
2人は緊張感が一気に無くなったせいで腰が抜けてしまい、その場にハグをしながら座り込む。
ホッと息を着いた瞬間に、自分達がハグをしていることに気がつき、すぐに離れて互いに何をするんだと罵倒を投げつけ合う。
そんなタコを宥めようとするが、その前に車のドアをあげる音でその場は静まり返る。
中から出てきたのはサングラスをかせ、とてもお洒落な真っ白のスーツを身に纏った、いかにもキザという感じの男だった。
「諸君! 予定時刻通りに来てくれたことに感謝するよ」
とても見せつけてくるような動きかたをしながら話を進めていくところを見て、受験者全員が鼻につく人だなと思う。
だが、皆その姿を見てなにやらソワソワとした落ち着きの無い雰囲気が漂い始める。
「では、まずは自己紹介をするとしよう。私は今回の試験の監督を勤めることになった『リニア・ペクニア』だ。よろしく頼むよ」
その名前を聞いた途端、天琉とネル以外の全員が少し動揺した雰囲気を出し始める。
タコに理由を聞いたところによると、リニアはステールラ連盟の5人の創設者、言うなれば現在の幹部の1人らしい。
戦闘面での活躍は無いが、ステールラ連盟の経済面などの全体的な管理をしている人らしい。
広告に出ることもあり、天琉もその顔をよく見てみると、ステールラ連盟関連の雑誌に載っていたことを思い出す。
ネルはというと、そう言うのをあまり見ないため、本当にまったくもってその存在を知らなかった。
それを聞いてずっこけてしまうが、2人はネルらしいと割りきる。
リニア「それでは試験内容発表の前に、今回受験するチームとそのメンバーがいるかどうかを確認させてもらう」
点呼で呼ばれるのはチーム名とそのメンバーの名前。
ライアンのチーム名は「バレット」と呼ばれ、組んでいる2人と一緒にドヤ顔を見せつけてくる。
そして、等々天琉たちのチームが呼ばれる。
決まらなかったチーム名はライアンとのいざこざがあった日に決まっていた。
それはランからの提案で出たチーム名である。
それぞれ決めてくると言う話を聞き、自分も恩返しで考えてみようと思い、考えてくれたのだ。
その名前を聞いた瞬間、全員が気に入り、即座にチーム名は決定された。
自由を表す言葉であり、この3人が自由奔放で非日常を謳歌するであろうと言うことを想いつけた名前。
その名はチーム『リベルタス』である。
メンバーの名前はフルネームで登録されており、『青龍寺 天琉』『タコ・オーシャン』『ネル・ブラック』とフルネームで呼ばれる。
ライアンは思ったよりもかっこいいチーム名に少し動揺し、それを見逃さなかったタコはすぐにドヤ顔を見せつける。
天琉は悔しがっているライアンの顔を見て喜んでいるタコを見て、少し性格悪いなと思ってしまう。
そうしてすべてのチーム名とメンバーの点呼が終わり、遂に試験の内容が明らかになる。
試験内容は、ステールラ連盟が試験用に捕獲し、すでに解き放たれている魔獣の討伐。
森に放たれている魔獣は、G級からE級までのものであり、倒した証に魔獣の身体に取り付けられた特殊な魔石を回収する。
魔獣の危険度は大まかに8段階に別れる。
ーーーーーー
・G級 成人男性が対処できる
・F級 小人数のチームが全滅する可能性あり
・E級、村、集落の壊滅
・D級、町の壊滅
・C級、都市の壊滅
・B級、国が滅ぶ
・A級、大陸の滅亡
・S級、世界滅亡の危機
ーーーーーー
A級までならそれぞれの段階で下位、中位、上位とも振り分けられている。
今回は安全性と難易度を考え、E級中位までを配置している。
G級は『緑1ポイント』、F級は『青3ポイント』、E級は『赤5ポイント』という風に色分けされている。
これらのポイントが三時間以内に30を越え、40以内でスタート位置に戻り、提示しなければ失格。
数の上限を決めるのは、依頼の中には一定以上の数を採取、もしくは討伐してはならないというものがあるからだ。
数を決めておくのは、自然への影響が出てしまう恐れがあるためである。
これにより、状況判断力と現状を確認するための能力も見ることができる。
魔獣の数はG級が100体、F級が50体、E級が10体。
提示する魔石の種類も試験に影響する。
魔獣を倒しても、魔石を提示しなければポイントには換算されない。
これは、依頼で頼まれたものを手に入れることができても、依頼人に渡すことができなければ意味がないという意味も込められている。
魔石には特殊な魔力が込められているため、何処かから採取した魔石を提示するなどという不正は出来ない。
しようものなら即失格。
様子はドローンが監視するらしい。
一通りの説明が終わった後、受験者全員が森に入るための準備をする。
そんな中でまたライアンがちょっかいを掛けにきて、タコがそれに対応するという形で口論になる。
そんな様子を宥めつつ、ライアンに対して睨みをきかせていると、ドローンから開始前のリニアの演説が流れ始める。
リニア『それでは諸君、試験開始のまえに、気分を盛り上げるとしよう』
天琉は運動会やクイズ番組が始まる前の会話かとツッコミをする。
リニア『ステールラ連盟加入チームに、なりたいかぁー!?』
その問い掛けに全員が大声で「おぉー!」と返事をしながら拳を天に付き出す。
天琉とタコもそう言う乗りは好きなので声を出し、ネルは無言で楽しそうに拳を天に付き出す。
天琉は勝負事やこういう場面に関してはガチになるタイプであるため、余計にやる気と心が燃え上がっている。
リニア『それでは始めよう! ステールラ連盟所属チーム結成試験、開始!』
そして、試験開始の合図が鳴り響き、それと同時に受験者たちが一斉に森へと入っていくのだった。
◆
森の中では、大きな影が身を潜めるように縮こまり、荒い息を吐いていた。
そして、その近くには何やら刀を腰に差し、右手にスピーカーのような物を持っていた。
髪も瞳も黒く、着ている和服も殆どが黒の男がその近くでその影の正体を見つめていた。
それはまるで何かを確かめているようにも見えた。
「難しいことはよくわからんのでな。とりあえず、やられたらやれ…。とだけ言っておこう。後は好きに暴れろ」
そう言いながらスピーカーから音をならすと、影は頷くような動作をした後、その場でピタリと動かなくなる。
「早く終わらせて、飯が食いたいものだ…」
そう言いながら男は森の奥へと消えていくのだった。