第32話 【必死の捜索 奴らの企み】
魔大陸にある首都魔族国はいつもと同じ日常を謳歌していた。
しかし、ここ数日になって魔族が行方不明になる事件が多発しており、怯える人もいれば返り討ちにしてやるなどと話す人もいる。
行方不明となった人の共通点は魔族ということ以外は何もなく、あとは子供ではなく大人ばかりということだけしかわからない。
男女関係なく行方不明となっており、その数は日に日に増えている。
「昨日また魔族が消えたらしいぞ」
「えっ! マジか!」
「あぁ、昨日だけで5人は消えたらしい」
「いなくなった同種は心配だが、俺は勘弁してほしいな」
道行く魔族2人が歩きながら話していると、なにやら騒々しい音と荒々しい声が聞こえてくる。
耳を澄まして聞いてみるとそれは後方から聞こえるものだとわかり、なんだろうと振り返る。
見てみると遠くで宙に土煙が舞うのが見え、その発生源と思われるものがこちらに近づいてきて、その正体が見え始める。
「 「 ネーーールーーー!!! 」 」
その正体は緋色髪の人間と金髪の人間2人が全力疾走することで発生したものだった。
それもただ走るのではなく、顔はまさに鬼のようであり、声にも怒りが滲んでおり、誰かの名前を声を叫びながらだった。
道を歩いていた2人組はそれに驚いて急いで道を開ける。
「「な、なんだ…? 今の……」」
走っているのは魔族国の調査としてやってきたリベルタスの男でお馴染みの天琉とライアン。
彼らはネルが誘拐されたのだと思い、いても立ってもいられずに首都を走って探し回っているのだ。
ただ走り回っているのではなく、ちゃんとネルの写真を見せて目撃情報も集めている。
天琉「すみませぇーん! ウチの子見ませんでしたかぁーー!!?」
ライアン「黒髪ボブの無表情胸無しっ子でぇーす!!」
2人は別れて探すことにして、一度わかれる。
マインも見つからないので同時に探すために、路地裏やゴミ箱の中も漁ってみるが見つからない
ライアンが道の真ん中を走っていると、進行方向の少し遠いところに柄が悪く、身体も角もゴツい魔族が現れる。
そしてその隣には取り巻きのような魔族も数人いた。
「大将! あの金髪ですよ! 朝から俺らの縄張り走り回ってる人間!」
縄張りとは言っているが、実際そんなものはなく、ただ自分達が勝手にそう言っているだけのチンピラである。
「ほぉ、どんな奴らかと思えば弱そうだなぁ。 あんなの一捻りだ」
そんな会話をしているうちにライアンはゴツい魔族の近くまで走って近づく。
「おい人間! 俺の縄張りで調子こいてると痛い目に……」
台詞を最後まで言いきる前にライアンは鬼のような形相でゴツい魔族の顔面を靴の底で思い切り蹴る。
ただ靴の底が顔面にいくのではない、ライアンが走っていたスピードもそのまま攻撃に変換され、さらに現状の焦りと邪魔をして来る障害への苛立ちが重なり、より威力は倍になった。
ライアン「うっせぇ! 邪魔だ!!」
顔面に攻撃をもろにくらったゴツい魔族はその場で倒れ、顔を押さえてもがく。
ライアンは早く探しに行こうと再び走り始めようとするが、取り巻きのチンピラ2人に呼び止められる。
「お前! こんなことしてただで済むと思うなよ!」
「そうだ! お前と一緒にいた緋色髪のやつ! 顔と身長比べた感じお前あいつのボスだろ! あいつがどうなっても良いのか!?」
ライアンはその言葉を聞いて呆れた顔を向けていると、噂をすればなんとやらでその緋色髪の人間がやってくる。
「大将! あいつはこいつの子分です! 存分に痛め付けちゃってください!」
その言葉に答えるように復活したゴツい魔族は全力疾走してくる緋色髪の男の前に立ちはだかる。
「お前! こいつの子分だってなぁ!? 痛い目見る覚悟はでき……」
苛立ちを隠せずに台詞にも怒りを出しながら脅しの台詞を言おうとするが、またもや最後まで言わせてはもらえなかった。
さらに、先程ライアンが食らわせた一撃よりも重い靴底の蹴りが再び顔面を練り込む。
天琉「知るかボケェ!!」
ゴツい魔族は今度は倒れるだけではなく宙を舞って壁に叩きつけられ気絶する。
2人はゴツい魔族を心配する2人の取り巻きに近づいていき、取り巻きは恐怖で震える。
天琉が懐から何かを出そうとするところを見てビビり、出した瞬間に目を閉じる。
「「この子、見ませんでしたか?」」
されたのは叱りでも脅しでもない、質問だった。
「え、あの、見てません」
「自分もです」
その答えを聞いた2人はしばらくしてピシッと姿勢を正してお辞儀をして情報提供をしてくれたことの礼をし、再び走り始める。
チンピラたちはこの件を皮切りに心を改めて、別人と思えるほど真人間ならぬ真魔族になったんだとか。
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その後、昼過ぎまで首都を探し回ったが見つからず、目撃情報はあったものの、ネルが何を考えていたのかはわからないが、凄い早さで何かを追いかけていったらしい。
追いかけていたのは屋台ということがわかったが、その屋台もなんの店だったのかわからない。
完全に手詰まりになり、一度落ち着くために2人は公園のようなところにあるベンチに座っていた。
公園は普通なら植物が植えられていて綺麗で和む場所だが、ここに植えられている植物はどれも禍々しく、食中植物のようなものもあった。
それはどれも狂暴なのにも関わらず、子供たちがそれに餌やりをしていたりしていて、さすが魔族と言ったところであろうか。
しかし、今の2人はそんなものを気にしている余裕はない。
天琉「ネルもマインも、どこ行ったんだろうな…」
ライアン「わかんねぇ…」
2人がどうしたものかと悩んでいると、2人のもとに大人びた女性の声が聞こえてくる。
その方向を見るとなにやらメイドの服装をした女性のようだったが、大量の買い物袋を持っているせいで顔を確認できなかった。
だが、顔の部分にある買い物袋を1本の角が貫いていたので魔族ということだけはわかった。
「貴方たち、人を探してるそうですね」
天琉「そうだけど、あんたは? ってか、一回荷物を下ろした方が良いんじゃ……」
女性は「それもそうですね」と言い、荷物を下ろしその顔を露にする。
顔は美女と言っても過言ではない顔つきで、目の色も髪の色も綺麗な黒色をしており、しかも常に落ち着きのある表情をしている。
「本題ですが、貴方たちが探しているのは、2本角で、私と同じで黒髪黒目で、そして常に無表情の魔族じゃありませんか?」
ネルの特徴と合致することを聞いて2人は驚いてベンチから立ち上がる。
何故その事を知っているのかを聞いてみる。
「では、まず私の名前はキル。魔王様直属のメイド。そして貴方たちが言うところのネルの知り合いです」
それを聞いた2人はしばらく沈黙したのち「ほへ?」とマヌケな声を出し、再び沈黙したのち、驚きの声を響かせるのだった。
女性に対して質問責めをすると、いきなり一発ずつ拳骨を食らわされ、たんこぶができる。
キル「うるさい。耳障りです」
2人はこのボコるときの理由がネルと似ているなと思う。
キルの話によると、自分達が大声でネルの名前を呼びながら走り回っているのを見つけたらしい。
それで知り合いであるネルの身に何かあったのかと予想し、声をかけたとのこと。
2人はそれを聞いて協力してくれるのかと思い、協力を仰ぐが返ってきた答えは予想外の物だった。
キル「すみません。 今私は買い物から帰る途中なので、 一度魔王城に荷物を置きに行かないといけません。探すのは置きに行ってから、私個人で行います」
買い物を優先し、ネルのことを後回しにしたことに驚き、ネルを後回しにする理由を聞く。
キル「あの子なら、何となくでどうにかできます」
2人は一瞬その事に戸惑って意見したくなるが、改めて考えると納得できてしまい、何も言い返せなくなる。
その後、結局キルは一度魔王城へと荷物を置きに行ってしまう。
2人は気にしていても仕方ない、ネルを探してくれる人が増えたと考えれば良いと現状を受け入れ、今一度二手に分かれてネルを捜索することにする。
今度はもっと落ち着いて。
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その頃、とある研究所ではメガネをかけた研究者のような白衣を着た男が何かの作業を行っていた。
「もうすぐだ……。あと少しで……!」
そんなことを1人で呟く男に、後ろから2人が近づく。
ダンジ「よぉ! ジニア。調子はどうだ?」
ジニア「ダンジ君じゃないか。良い感じだよ。君たちが連れてきてくれた彼女のお陰で色々と進んだよ。あの子は凄いねぇ。人形みたいに無表情で抵抗しないんだから」
ルア「まぁ、それはそれで不気味ですがね」
その目線の先には牢屋があり、その中には1人の少女が座っていた。
ジニア「あとは、実戦に移すだけ…。 そうすれば……!」
ダンジ「あぁ、俺とあんたの復讐がより良いものになる」
そう言いながら2人は目を輝かせると、ルアはそれを見てクスクスと笑いながら不気味な笑顔をする。
ルア「はぁ、復讐心というのも、実に良いですねぇ」
牢獄の中の2本角の魔族の少女はその光景を感情を表に出さずに、ただただ見つめているだけだった。
続く




