第3話 【口の中に広がるカオス】
中央都市の路地裏の夜道を数名が歩き、リーダーのような者が酔っ払った誰かに対して愚痴を言う。
彼らは天琉とタコによって全員がボコられたチームのメンバーとそのリーダーであった。
やられた鬱憤と屈辱を酒で忘れようという意図で、行き付けの酒場を何件もはしごし、こんな裏通りをうろつく始末。
リーダーは油断さえしなければ、万全な状態であれば負けなかったなどという言葉を吐き、メンバーもそれに同意する。
そして、酔った勢いで「僕らのチームこそ最強!」という大見得を切った台詞すら吐き捨てる。
すると、後ろの暗闇の中から少女の声が聞こえてくる。
「それ、本当?」
チーム一同はその声の主を確認するために振り替えるが、夜の路地裏であるためか姿を確認できない。
「なら、試す」
次の瞬間、巨大な槍を見たのを最後に全員の意識は途絶えた。
◆
場所は中央都市の数ある噴水のうちの1つで、そこにはタコを待つ天琉の姿があった。
しばらくしてタコと合流し、2人は仲間探しのためにもう一度タスク受付場に向かう。
先日の出来事や新しく作った発明品についての話をしながら歩いていたら、あっという間に目的地に到着する。
店内に入った途端に2人を歓迎してくれたのはランだった。
「天琉さんにタコさんじゃないですか! どうか好きなのを持ってっちゃってください!」
「それはありがたいんですけど…… 偉くテンションたかいですね」
「いつもザ・クールビューティって感じなのにな」
訳を聞いてもいないのに「聞いちゃいますか?」と言ってくるところを見て、自分が上機嫌な理由を言いたくてウズウズしていると言うことが見受けられる。
天琉は落ち込んでいたところを慰めてもらったことから、感謝の意を込めて聞くことにする。
どうやら2人が先日ボコボコにしたチームのリーダーは、しつこく絡んでくる迷惑客だったらしい。
メンバーも普段からの行動が問題視されている。
だがステールラであったり、立場上自分達より高いなどあったりして、手が出せないという。
ステールラに入っている者は余程のことがない限りこの場に出入りはしないが、一目惚れだのなんだのと意味のわからない理由をつけてはアタックしてきたのだとか。
そんなヤツを2人がボコしたことに間接的ながらもスカッとすることが出来て、2人には感謝している。
しかし、理由はそれだけでは無いらしい。
「御二人とも、【闇夜の槍】をご存じですか?」
天琉はその名前のことを知らなかったが、中央都市に住んでいるタコはその存在を知っていた。
【闇夜の槍】とは、1ヶ月前から始まった通り魔事件の犯人の呼び名らしい。
真夜中の人気の少ない路地裏などに姿を表し、見境無く人を襲うらしい。
通り魔、辻斬りのような内容ではあるが、命に別状はなく、どちらかと言えば喧嘩で出来た打撲のような物ばかり。
被害者は全員、暗闇のせいで姿を捉えることが出来なかったが、少女の声と槍を見たと全員が語っており、その事から【闇夜の槍】と名付けられた。
それが何故喜ぶ理由になるのかと言うと、昨晩そのチームのリーダーが【闇夜の槍】の被害にあったらしく、今までやってきた悪事の報いを受けたのだと、更なる快感により、喜びが増しているのだという。
その事を聞いた2人は、今度愚痴を聞き、ストレス解消させるために先日のレストランでご馳走しようと決める。
「そこで! 御二人におすすめしたいタスクがあるんです!」
そう言って2人の前に1枚のタスク表をつき出す。
そのタスクの内容は【闇夜の槍】の身柄の確保と言うものだった。
警備隊が1ヶ月も解決できない事件であるため、遂にタスク受付にも手助けが求められたというわけだ。
2人にこのタスクを受けてもらいたいのは、その実力を見込んでその犯人を連れてきてほしいとのこと。
「本音を言うと、会って直接お礼を言いたいんです」
意図を察した2人は快くそのタスクを受けることにする。
◆
すっかり夜になり、2人は今までの被害にあうケースから予想して路地裏を歩き回ることにする。
その間、犯人はいったいどんな見た目なのか、何が目的で同じことを繰り返すのかなどを予想しあう。
見た目に関しては、目撃情報にある大きな槍からして、とてつもない巨体のゴリマッチョな人物なのではないかという案がタコから出る。
しかし、少女の声を聞いたということからそれは有り得ないと思うが、少しその姿を想像できてしまい、2人は小さく吹き出す。
天琉の場合はアニメにそう言うキャラが1人いたため、余計に想像できてしまう。
「まっ、どんなヤツだろうと今回の俺の発明があればすぐに捕まえられるから、安心しろよ!」
自信満々に言ったことから、相当な発明なのだと思い、どんなものかと聞いてみる。
その発明の名は「エレキャッチ」と言う名で、銃のような見た目で、引き金を引くと銃弾ではなく捕獲用の網が射出される。
しかもただの網ではなく、捕獲したあとにもう一度引き金を引くと、E級魔獣すらも気絶する電撃を流すという物だった。
「殺傷力高すぎだろ! 今回は捕まえるだけってことわかってるか!?」
「大丈夫だって! 人間は死なないくらいの威力だから! ……多分。」
あくまでも魔獣を捕獲するために作ったものなので、今まで人間に試したことが無いのだ。
天琉はボソッと言った多分という言葉にツッコミを入れると、近くから男の悲鳴が聞こえてくる。
それを聞いた2人はもしやと思い、急いでそこに急行する。
天琉は一刻も早く到着するために、タコに先に行くと言い全力で走り出す。
置いていかれたタコは改めてその身体能力に驚かされ、まるで魔族や獣人のようだと思ってしまう。
先に現場についた天琉は、喧嘩のあとのように転がっている複数の男性を発見する。
近寄って安否を確認したところ、どうやら気絶しているだけで、打撲しかないことから、【闇夜の槍】の仕業と予想する。
後ろからタコの声が聞こえ、追い付いたのかと思い振り返りタコの姿を確認すると、次の瞬間タコの背後に人影が見える。
「タコ! 後ろだ!」
「え……?」
天琉の言葉の意図を察する暇もなくタコは槍で殴られ、壁に叩きつけられてしまう。
「どんな攻撃も予測できるような装置を作れるようにならないと」
そう言ってすぐにタコは気絶する。
天琉「んなこと言って……」
「言っている場合か!」というツッコミを言いきる前に危険を感じた天琉は後方にジャンプする。
先程まで自分が居た場所に大きな槍が横振りされていた。
「っぶねぇ!」
「初めて、避けられた」
なんとか避けられたと思っていた天琉は、少女の声を聞き、先程の槍を見るに【闇夜の槍】だと予想する。
次に様々な槍での攻撃をされるが、天琉は持ち前の反射神経でかわす。
「あなた、強いね」
そう言うと【闇夜の槍】は暗闇から出てきて、自分の姿を露にする。
身長は160より少し大きいくらいでの少女?で、服はゴスロリ、額からは鬼のような角を2本生やしている。
その角を見るに魔族であると判断できる。
魔族とは、魔大陸にある魔族国デーモンと呼ばれる国に住まう種族。
そこは遥か昔より他の国よりも魔獣の強さや環境が厳しい。
そのためそれに適応するべく進化した住人たちは段違いに強い。
頭に角を生やしているのが特徴。
着ている服、瞳、髪、持っている武器さえも黒いため、今まで姿がはっきりしなかったのかと予想できる。
しかもずっと無表情であるため、なにを考えているのか全く読み取ることが出来ない。
「お前がここ最近の辻斬りの紛いの犯人か?」
「そう。でも、もうしない」
その言葉を聞いて、頭にハテナが浮かんだ天琉だったが、次の言葉でそのハテナはより増える。
「私を、仲間にして」
「どうゆうことだってばよ?」
本当に意味がわからず混乱している中、女性の後方にいる被害者の男性が1人起き上がり、落ちていたバールを両手で握る。
「クソが…! こんなガキに……!」
苛立ちを露にしながら女性に近づいていくが、それと同じタイミングでタコも目が覚める。
タコはうっすらとした意識の中でエレキャッチの銃口をを少女に向ける。
「せめて… 捕獲だけでも……」
そんなことを言いながらタコは男がバールを振りかぶって走り始めた瞬間に引き金を引き、網を射出する。
天琉と少女?は網の存在に気付き、すぐに避けるが、その網はバールを持った男を捕獲してしまう。
タコは捕まえたと思い、暴れさせないためにもう一度引き金を引いて電撃を流す。
男は電撃を受けてアニメのように骨が点滅して見えたのち、焦げて倒れる。
タコは【闇夜の槍】を捕まえたのだと思い、やりきったという顔をして気絶する。
天琉がヤバいと思っていると、女性は男に近づいて確認する。
「大丈夫、生きてる」
「ある意味実験成功……?」
そう言ってグッドサインをこちらに向けてくる。
タコの人は死なないという考えが正しかった。
◆
天琉はタコをおぶって、女性こと【闇夜の槍】が寝泊まりしている宿屋にやって来ていた。
女性はお茶をいれてくると言って一度退室する。
タコを安静にするために布団に寝転ばせると、女性はお茶を持ってくる。
椅子に座り、置かれたお茶を飲もうとカップを持ち上げ、ふと中身を覗くと、そこには紫色の液体が入っていた。
(ん? お茶か? こんなヘドロみたいで少し泡立ってプクプクしてるお茶なんてあるか?)
多くの疑問を持つ天琉だったが、とりあえず飲んではいけないという事だけはわかるので、机の上にそっと置く。
「とりあえず、仲間にしてほしいって話の前に、名前を聞いても良いか?」
「私は、ネル・ブラック。魔大陸出身の、魔族」
元々はひとり旅をしていた旅人だったが、ネルは1ヶ月前に魔大陸から、突然の思い付きで仲間にしたい人を探しに中央大陸にやって来たらしい。
わざわざ中央都市に来た理由は、中央都市ならばステールラ関係もあっていい人が見つかるだろうと思い来たらしい。
しかし、ただ仲間を探すのではダメだと思い、せめて自分と同等、もしくはそれ以上の人物を見つけるために今日まで事件を起こし続けていたというわけだ。
天琉は、それならば自分のチームの一員になってくれないか? と提案する。
ネルは「うん、わかった」という簡単な返事をする。
「結構簡単に決めるけど、本当に良いのか?」
「大丈夫。あなたたちが、何かしてきても、ボコるだけ」
天琉は一連の出来事から考えて、油断していれば簡単にボコられるのだろうと分かっていたので、なんとなく納得できてしまう。
「でも、あなたたちからは、そんな、嫌な感じは、しない。いい人。そんな気が、する」
その言葉に対して少し喜びがわいてきて少しにやけてしまうが、すぐに顔を引きしめ、改めてネルと握手をかわす。
そのタイミングでタコは目が覚め、タコはネルについて困惑するが、説明したら快く受け入れた。
「さっきは、悪いことした。御詫びに、お茶、どうぞ」
「お! ありがとう! いただきまーす!」
天琉がやめた方がいいと言おうとする頃には時既に遅し。
タコは中身も確認せずにそのお茶をイッキ飲みし、飲み干したところで徐々に顔が紫色になって再び気絶するのだった。
◆
翌日、3人はタスク受付場に行き、ランに【闇夜の槍】本人であるネルを紹介。
ランはしつこく絡んできていたチームリーダーをボコった例を言い始める。
その後、昼休みになってからランの気分転換とチーム結成に必要なメンバーが揃った歓迎会を兼ねた祝いを、タコと共に行ったレストランで行った。
ネルは辛いラーメンを頼み、その上に辛い調味料をこれでもかと言うレベルでぶちこんで行く。
3人は見ているだけで胸焼けしてしまいそうになった。
短い時間ながらも、それは楽しい時間だった。
しかし、ネルは何故かランの昼休憩が終わった後、反省文を書かされていた。
理由は、ネルが【闇夜の槍】として行った被害に対しての反省文を書かなくてはならないからだ。
本来であれば、より重い罰が下されるのだが、ランがどうにか説得してくれたらしく、反省文100枚で済んだ。
ラン「恩人にこんなことをさせるのは心が痛むのですが、これも仕事ですので……」
ネルは無表情ではあるが、明らかに落ち込んでいるという雰囲気を出しており、2人はそれをランと共に見守るのだった。