第2話 【自分で決めること】
ステールラ連盟に加入するため、天琉は手っ取り早く仲間になりそうな人がいる場所へと向かっていた。
そこは「タスク受付場」と呼ばれる場所。
大体はステールラ連盟と同じだが、違うところは指名制の有無や依頼の難易度。
あと1つは、決定的に違うところは、連盟が移動費などを受け持ってくれるかというところ。
そのような場所なら、気が合い、仲間になってくれる傭兵がいるかもしれない。
そして、天琉にとって仲間意外に重要な物を手に入れるためにもそこへ行く必要がある。
それは金だ。
先日やけ食いをし過ぎたせいで、もう1日分の宿代しか残っていない。
「クッソォ……。 あんなやけ食いしなきゃよかった……」
羞恥心によるやけ食いを悔いているうちに、天琉は着々とタスク受付場に近づきつつあった。
その頃、その受付場では、そこで頼んだ物を飲み食いしながら騒ぐ傭兵たちを見つめる受付員が1人。
彼女はそんな姿を見ながら、内心で一言発する。
「死ねばいいのに」と。
彼女はここの受付嬢を何年もしているベテラン。
仕事量は通常の倍で、最近では腰痛肩こりが蓄積目立つ今日この頃。
昨晩も残業を終えたばかりで、頭痛に悩まされる。
なのにも関わらず騒音を撒き散らす傭兵たちに内心で罵倒をぶつけるしかない。
そんなルーティンをしていると、受付場の出入り口から天琉が入ってくる。
天琉は店内を見渡したあと、まずは片っ端から声をかける。
それを見ていた受付場は、小耳にステールラ連盟の事についての話を聞き、無謀と思いながらも内心応援する。
1時間後、見事に全員に断られた天琉は、隅っこの空いている席に座り、真っ白になっていた。
「燃えた……燃え尽きたよ……。 真っ白にな……」
流石に可哀想、そしてまだ若い人に世話を焼いてしまう性格の受付嬢は天琉に話しかけ、飲み物を置く。
「あの、そんなに気を落とさないでください」
「あ、ありがとうございます。やっぱ、難しいですね」
そう言った後、天琉は差し出された飲み物を一気に飲み干す。
「その刀、それに服装からして、武道国人の方ですか?」
「はい。やっぱ、それも断られる理由ですかね…」
武道国は鎖国が無くなり、十数年経つが、武道国人をよく思わない人がいる。
その理由は、武道国が実力主義な思想を持つものが多いからだ。
もちろん、そんな者ばかりではないが、なかなかそのイメージを剥がすことが出来ていないのが今の現状。
「ここにいる人じゃなくても、いい人はいますよ。こんな酒臭いオッサンたちよりも、同年代の若い人にしたほうがいいですよ!」
「サラッと凄い暴言吐きますね!?」
「あ、つい口が……」
そんな会話をして笑いあうと、なんだが元気がでた天琉は御礼を言い、気分転換にタスクをする事にする。
受付嬢は簡単なおつかいの依頼を手渡した。
「おつかいで歩いてるうちに、いい人は見つかるかもですよ?」
「ありがとうございます! あの、名前をお聞きしても? 俺は天琉」
「はい。私はランと申します。チーム作りとタスク、頑張ってください!」
送り出しと応援の言葉を受け取った天琉は、元気よく受付場を飛び出し、走っていく。
その後、依頼人から頼まれた薬草を採取し、収納空間から出して届け終える。
収納空間というのは、この世界におけるアイテムボックスのようなものだ。
「さぁて、仲間探しといきたいが、どうするかな。さっきは先走りすぎたけど、個性的なやつが良……」
そう言いながら歩いていると、後ろから叫び声が聞こえる。
心なしかそれは近づいているようで、振り向くと水色髪で、ゴーグルをかけた女の子が空を飛んでいた。
それを見て、あるあるな急展開が幕を開けるのかと思ったが、その考えは文字通り打ち砕かれる。
「どいてくれぇぇ!!」
「えっ!? ちょっ、待っ……! ぶほぉ!!」
考えていたフワフワとやってくる感じではなく、靴の裏からのジェット噴射で猛スピードで近づいてくる。
天琉は急すぎる出来事、そして幻想に浸っていたことで対応しきれず、女の子から腹に頭突きをくらう。
そのまま勢いは止まること無く進み続け、天琉の背中が壁に勢いよくぶつかったところでようやく止まる。
そして痛がりながらかけていたゴーグルを目からはずし、頭につける。
「イッテテ……。 ったく、まだ改良の余地ありだな。って、あんた大丈夫か?」
「だ、大丈夫に見えるなら、ゴーグルより眼鏡をかけることをおすすめするぞ……! こういうのに俺が慣れてるからよかったけど……」
腹の痛みは普通の人間にはかなり痛いだろうが、天琉にとっては少し痛いで済み、ゆっくり立ち上がる。
「ちょっと待ってくれ。動くなよ」
そういうと女の子は収納空間から機械を取りだし、腹部をスキャンされ、特に異常無しと判定された。
「いやぁ、怪我がなくて安心した。お詫びに、なにか奢らせてくれ!」
「あ、あぁ、それはいいんだが、その機械と言いその靴と言い、もしかして、お前が作ったのか?」
「おっ? 聞いてくれちゃうか? その通り! この2つは俺が作った発明品だ! そんじょそこらのやつより性能良いぜ?」
「ほぉ、かわいい顔に発明家とは、やっぱ世界は広いねぇ…」
天琉のその言葉を聞いた瞬間、女の子の顔から笑顔は消え、俯き、握り拳を作りそれが震える。
「今…… 何て言った……?」
「ん? いやだからかわい…… ごほぉ!?」
油断はしていた。
かと言って、されると思っていなかった。
女の子は突然鬼のような形相を浮かべながら、天琉の顔面を殴った。
「俺は男だぁぁ!!」
その真実に驚きながら、天琉は後ろへ飛んだ。
◆
その後、全回復した天琉は飛んできた男に謝罪として食べ物を奢らせて欲しいと言われ、レストランで食事をすることにした。
天琉はそのレストランで一番美味いと評判の丼ものを頼み、男はジャンクフードを頼んだ。
「いやぁ、悪かったな。新作のジェットブーツの試運転をしてたんだが、動作不良起こしちまって」
「まぁ、良いってことよ。もうすっかり治ったし、こうゆうの慣れっこだし」
慣れっこという点に疑問を抱くが、とりあえずお互いに自己紹介をすることにする。
彼の名前は「タコ オーシャン」と言い、天琉は海出身なのかと思う。
「さっきはほんと悪かった。女って間違えたヤツには、俺はれっきとした男だってことを身に染み込ませてやるって決めてんだ」
「意外と暴力的だな!」
天琉はそんな個性のあるタコのことが知りたくなり、先ほどの新作のブーツについて聞いてみることにした。
聞いてくれたことが嬉しかったのか、タコは得意気に説明してくれた。
タコは発明家であり、常日頃からいろんな物を発明していて、このブーツも自分で作ったものらしい。
タコは未来国アドバンスという、魔石による科学が発展している国の出身。
中には使えるのかと思えるものや、実用性があるかわからない発明品があり、ツッコミをすることもあったが、それでも少し楽しい気分になっていた。
タコはそれを見ていて、ここまで興味を持ち、笑ってくれたことに驚いていた。
一通り発明を見終わったあと、天琉はタコに発明をする理由を聞いてみると、何故そんなことを聞くのかと首を傾げた。
「だってさ、毎日発明するってことは、何か目的とか目標があるんじゃないかって思ってさ」
タコはそれを聞いて何故か少し驚いた表情を浮かべていたが、すぐに気を取り直してその質問に答える。
「俺は、人を幸せにしたいんだ。俺の恩人がそうしてくれたみたいにな。世の中には困ってるヤツが山程いるだろ? そんな奴らのために、いろんな便利なものを作って、幸せにしてやりたいんだ」
タコはその後に、先ほどのような失敗が多い自分が何を言っているんだと、自分で語った目的を自分で笑う。
だが、その目的を聞いた天琉は、その思いに憧れを感じつつ、心にグッと来るものを感じる。
そして天琉はあることを決めてタコに提案する。
「なぁ、タコ。俺のチームのメンバーになってくれないか?」
「なんだよ、いきなり……」
タコはその提案を聞いた瞬間少し顔が強ばり、今までの柔らかい表情が消える。
「俺はチームを作って仲間とワイワイ楽しく出きる、やりたいことが出きる毎日をおくりたいんだ。そして、困ってる人を手助けが出きるようになりたいんだ」
その答えを聞いたタコはなんとも意外だなという表情を浮かべていたが、同時に天琉の姿にめを光らせるが、まだ表情は固い。
「……俺の発明品目的じゃないのか?」
「違うぞ? 発明品はあくまでお前を際立たせるパーツの1つでしかない。俺が見込んだのは、お前自身だ」
それを聞き、タコはしばらく考え込んだ後に考える時間が欲しいという。
しかし、明日には答えを出すと言い、同じ時間にこのレストランで会おうと約束をした。
◆
その日の夜、タコは自分が住む宿屋のベットの上で今日あったことを思い返していた。
そして、今までの自分に近づいてくる人間たちを思い出していた。
小さい頃にたった1人でこの中央都市に来てから、ずっと発明をして来たが、そんな自分によって来る人間は多かった。
だが、それはタコ自身を評価したものではなく、発明品だけを見てきめたことだった。
自分のことは便利な道具を作り出すだけの機械としか見てもらえなかった。
最近また、とある人数の多いチームから加入の誘いがあったが、そこも自分のことなど見ていなかった。
だが、金銭的な面も見て入ろうと思っていた。
しかし、そんな時に現れた今までとは違う存在。
発明品ではなく、自分のことを見てくれる存在が、タコは嬉しかった。
ちゃんと自分のことを見てくれていたのは、彼の恩人以外にはいなかったからだ。。
そして、恩人に言われたあることを思い出して、それが天琉なのだと思う。
「やっと会えたよ……。あんたが言っていたような人に」
そう言うとタコは自分が持っていた端末から、誘いを受けていたチームに断りの連絡を入れ、スッキリした様子になると、明日のために早めに眠ることにする。
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先日約束をしたレストランで天琉はタコのことを待っていたが、全く来る様子がなく、駄目だったのかと思い悩んでいた。
すると、突然柄の悪い男が3人天琉の席にやってくる。
「天琉、だな?」
「なんだ? あんたら」
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中央都市にある立派な建物のロビーに、タコが椅子に縛られた状態で座っており、その周りを銃を持った数人が囲っている。
2階の廊下にも銃を持った数人がたっており、逃げ道はない。
そんなことを確認していると、あからさまにキザと言う感じのチームのリーダーが、2階から話しかけてくる。
「まったく、僕の誘いを断るからこんなことになるんだぞぉ?」
「本当はあんたらの事は嫌いだったから、断るつもりだったけどな」
この建物はタコを誘った「チームハウス」。
つまりはチームの拠点で、タコは誘いを断ったことで、宿屋から出たところを拉致されてしまったのだ。
いつもならば罠を作動させてあるため、奇襲にも対応できるのだが、昨夜はすぐに寝たため、罠を作動させるのを忘れていた。
「まぁ、君に拒否権とかないからぁ。黙って加入してくれるぅ?」
「悪いが、もう先約ができちまった」
「それは、あの緋色髪の武道国人の事かなぁ?」
その特徴を聞いて何故知っているのかと質問すると、断りの連絡を送られた際に調べたらしい。
天琉の元にはチームのメンバー数人が会いに行き、タコの言っていないような事を吹き込み、断ったという知らせをしに行かせたと言う。
それを聞いたタコはどこまでも自分が嫌いな自分勝手な人間だと怒りを覚えるが、この状況では武器が出せない。
タコは戦闘能力はあるが、こんな状況では蜂の巣になるだろう。
天琉に心の中で謝罪の言葉を言っていると、入り口が開く音が聞こえてくる。
おそらく天琉のところに行かせた数人だと思われる。
しかし、予想は外れた。
メンバーの数人ではなく、たった1人。
しかもボコボコにされた状態で、道案内をするように怯えながら帰ってきたのだ。
そして、案内をしてもらっている人物は、まさに今タコが謝罪をしていた人物だった。
「お取り込み中のところ失礼するぞ」
タコと銃を持ったメンバーたちは来たことに驚いていたが、リーダーだけは違うようで、何故ここに来たのかを聞く。
「そいつから聞かなかったのかなぁ? タコは僕の仲間になるんだよぉ? 君がここに来る理由はないよねぇ? まさか助けるなんてバカなことは言わないよねぇ?」
天琉はその質問に対し、助けに来たのではないとキッパリと返答する。
その事にその場にいる全員が驚いていたが、そう答えた理由を天琉はすぐに答えた。
自分が納得できないからだ。
他人から聞いた内容では本人の意思を確かめることはできない。
だから天琉はタコ本人にどうしたいのかを聞きに来たのだ。
「お前らの仲間になるのかならないのか、それはタコが決めることだ。お前らが、ましてや俺なんかが決めて良い問題じゃねぇ。だから俺はここに確認をしに来たんだ。タコがどうするのかを!」
それを聞いたタコは、天琉は自分の勝手な意見を通すのではなく、ちゃんとした中身を重視する。
ようやく自分を見てくれる人間ということを再認識する。
そして天琉は改めてタコにどうしたいのかを聞き、タコはその質問に元気よく答える。
「俺はお前らなんかの仲間にはならねぇ! 俺は、天琉のチームに入る!」
その事を確認したリーダーは怒っていたが、天琉は逆に満面の笑みを浮かべていた。
「なら、お前を助けないとな。それがチームだからな!」
そう言うと天琉はタコに向かって突撃していき、リーダーはそれを見て天琉を撃ち殺すようにメンバーに呼び掛ける。
銃弾が放たれるが、天琉はそれを躱す、刀で切りるなどして全てを無効にする。
そして、まずはタコの周りにいるメンバーたちに強めの峰打ちをくらわせ全員を倒す。
それを見ていたリーダーは、すぐに全メンバーを集め、2人を倒すよう指示する。
タコを拘束していた縄をほどき、無事かどうかを確認すると、戦えるかも確認する。
「もちろんだ!」
そう言うとタコは収納空間から小さな身体とは反した大きさのメカメカしい両剣を取り出し構える。
もちろんちゃんと切れ味のない打撃モードだ。
それを見た天琉は自分も刀を構える。
「よっしゃっ! 結成前だが、チーム初の戦闘といこうか!」
そこから2人は1階に降りてきたメンバーたち全員を倒し、次に2階にいるメンバーたちに突撃する。
メンバーは天琉の峰打ちとタコの打撃によって悶絶していた。
それを見たリーダーは奥の部屋へと逃げていき、メンバーはそれを見て困惑するが、2人はそんなことお構いなしに戦う。
銃弾などの攻撃も天琉がカバーすることでタコへの被弾を防ぐ。
初めてながらも中々に良いコンビネーションを見せつけ、メンバーは全員怯んで降参する。
それを確認した2人は逃げたリーダーを追い詰める。
「ゆ、許してくださいぃ! もう関わりませんからぁ!」
「どうするよ?」
「まぁ、許してやるけどさ。罰は必要だよな?」
そう言うとタコは次元収納から拳銃を取り出し、眉間に狙いを定める。
それを見たリーダーはみっともなく命乞いを始め、天琉はさすがにそれはと思い止めるように言う。
だが、よく見ると殺意のようなものは感じられなかった。
そして、タコが引き金を引いた瞬間、大きな音が鳴り響き、リーダーは泡を吹いて倒れる。
これは死んだからではなく、あまりに驚きすぎて気絶したのだ。
タコが持っていた銃の銃口からはドッキリと書かれた旗が飛び出していた。
「ただのオモチャだ」
「お前容赦ないな……」
そんな台詞を聞いたタコは、あははと笑うと天琉に真剣な顔をして向き合う。
「では、改めて。俺をお前の仲間にしてくれ!」
その言葉を聞いた天琉はようやくできた仲間に喜びを感じ、元気よく返答する。
「もちろんだ! これからよろしくな!」
その後、2人は待ち合わせの場として約束していたレストランに行き、そこで出会いを祝う食事をするのだった。