第10話 【犬系魔獣の被害】
中央都市にいつものように朝がやってきて、天琉はその朝日の光が窓からあたって目を覚ます。
天琉は朝日の光と外の風を浴びるために窓を開ける。
以前までなら、建物だらけの宿屋から景色であったろうが、今は違い、広がるのは美しい平原だった。
天琉「うーん! 今日も良い朝だ!」
リベルタスの船、リベルシップは中央都市近くの平原に置くことを許可され、普段はそこにチームハウスとして機能することとなった。
内装は見た目以上に広く、これは魔道技術による空間拡張を利用した効果である。
メンバーそれぞれに自室があり、シャワーもあるが、大勢で入れる大浴場もある。
普段はチームハウスの入り口近くにあるロビーで食事をしたり、いつもどおりのいざこざを起こしたりして暮らしている。
天琉「さぁて、ちゃちゃっとやりますか」
そういうと天琉は突然真剣な表情になり、ある服に袖を通すと、何やら台の上から炎を吹き出させ、その上に持ち手のある鉄板を置く。
熱くなる鉄板を見つめる天琉はとてつもない気迫をまとっており、なにかを見極めると、その鉄板の上に卵を2つ落とした。
そう、天琉はいま朝ご飯を作っているのだ。
何事においても本気で取り組む天琉にとって、料理もまた例外ではなく、無意識に真剣勝負並みの気迫を放ってしまうのだ。
ちなみに、今日の朝ご飯は目玉焼きとベーコンを乗せた食パンと、少量の野菜と、身体の芯から暖まる天琉特性スープ。
リベルタスはチームハウスで生活する上で、1日の料理当番と言うものを決めていた。
順番としてはメンバーの加入順とまったく同じ。
しかし、それぞれの当番の間にタスク受付所で食事をする日をもうけている。
なぜかと言うと受付嬢のランが
ラン「皆ざんがごないど、さびじぃですぅ!」
と、号泣して頼み込んできたからだ。
リベルタスのメンバーたちも、ランとの出会う日数が減るのも嫌という思いと、ランの号泣する姿から、食事をする時間という確実に出会う時間を作ったというわけだ。
そんなことを思い出していると、タコとネルがほぼ同時にロビーにやってくる。
タコ「よっ! 良い発明日よりだな!」
ネル「ごはん…」
タコは髪の毛が少しアフロになり、ネルは髪の毛にものすごい寝癖がついていた。
しかし、一週間もこの生活を続けているとなると、流石になれてきたのか、天琉は微動だにしない。
ある意味、この非日常が天琉にとっての日常に変わりつつあるのだ。
天琉「おはよ。とりあえずお前は顔洗ってこい」
そう言って天琉はタコを指差し、タコはふてくされた声をだしつつも顔を洗いに行く。
その後、食べる準備が整ったが、ライアンがまだ来ていなかった。
タコ「どうせまた夜更かしでもしてたんだろ? 昨日ランさんとの食事の日なのに寝坊してたし」
天琉「あー、そういえばそうだったな」
タコがそう言うと、昨日ライアンがスライディング土下座をして、摩擦で額を火傷したことを思い出す。
『すみませんでしたぁ!ってデコ、アッツぅ!!』
いま思い出しても少し呆れるが、笑いも込み上げてくる。
その事をネルにも共有しようと思い見てみると、淡々と朝食を食していた。
ネル「二人とも、早く、食べないと、冷める」
ライアンを待っていようと思っていた2人だが、ここまで待ってもこないなら、先に食べようと思い食べ始める。
すると、噂をすれば何とやらで、ライアンがロビーに慌ててやってくる。
ライアン「わりぃ。遅くなったな」
その声を聞き、天琉とタコは相変わらずのルーティンにひとこと言ってやろうと思いライアンの顔を見るや否や、言葉は中途半端に出て終わった。
ここ一週間で大抵のことには慣れてはいたが、2人は驚いてかたまっていた。
何故なら、ライアンは顔は引っかき傷だらけだったからだ。
ライアン「なんだ? 俺の顔になんかついてるか?」
天琉「あぁ! ついてるとも! 痛々しい傷が!」
天琉がそうツッコミ、タコが事情を聴くと、ライアンは包み隠さず教えてくれた。
先日、ライアンは他の3人が知らないうちに、ランとの約束を破った罰として、とあるタスクを引き受けていた。
それは、ここ最近になって問題視されている犬系魔獣たちの被害について。
最初のうちは野良犬がするような悪さだけだったのだが、最近では人に危害を加えるようになってきたらしい。
しかも、ある日を境に一気にその数も増え、ついにタスク受付所に回ってきたのだが、皆やりたがらないと言うことで、罰としてライアンが引き受けた。
言ってしまえば、罰を利用した面倒なタスクの押し付けである。
ライアン「それで、昨日早速よく被害が出るっていう時間に調べに行ったんだ」
その後、犬の魔獣を見つけたのはいいが、見た目から無害そうだと思い、とりあえず戯れようと思いお手をさせようとするが、手を出した瞬間にライアンは手を噛まれた。
あまりの痛さに叫び声を挙げたあと、顔をガリガリひっかかれ続け、何か遠吠えのような声が聞こえた瞬間、どこかへと行ってしまったらしい。
すぐに追いかけようとしたが、仲間と思われる大量の犬に踏み続けられ、数分気絶してしまったという。
起きた後、1人ではどうにもならないことを察したライアンは、リベルタス全員でやろうと決め、ふらつきながら帰ってきたらしい。
あいかわらずの生命力に驚くが、3人は喜んでそれを承諾し、全員でその犬系魔獣の被害の原因を調べることとなった。
◆
夜になり、まずはライアンが遭遇したと言う場所にやって来て探すが、そこには一匹もいなかった。
その後、どこかに巣を作っているのかも知れないと考え、ライアンの記憶を頼りに、犬の大群が走っていった先に向かう。
たどり着いたのは中央都市のほぼ真隣にある森で、そこにはたしかに犬系魔獣たちが複数いた痕跡があった。
しかし、あったのは痕跡だけで、魔獣たちそのものはいなかった。
天琉「なにかおかしい…」
天琉がそういうと、辺りの匂いを嗅ぎ始め、ネルも同じことを考えたのか、匂いを嗅ぎ始める。
タコ「2人ともなにやってんだ?」
ライアン「おまえら、自然の空気を味わってる時間じゃねぇぞ?」
タコ「いや、お前ならやりそうだが、2人はそんなことしないから」
ライアン「それもそうか。って、どういう意味!?」
ライアンがタコの発言に言及していると、天琉はネルと同じ考えなのか確かめる。
天琉「気づいたか?」
ネル「うん、匂いが、弱い…」
野性的な話になるが、2人は自分の経験上で匂いの濃さから、獣の巣かどうかがわかるのだが、この場所は巣と言うには匂いが薄すぎた。
それに、多くの魔獣たちが長居していたと言うには、どうにも荒れ具合が少ない。
つまりこのことから、2人はここは巣ではないと言うことがわかる。
わかったことを2人に教えに行こうとすると、茂みから音がして、黒い影が飛び出してくる。
天琉とネルは瞬時に警戒していたので余裕で回避できたが、タコとライアンはかなりギリギリだった。
その影の正体は、数匹の犬系魔獣たちで、数は9匹。
全員が唸り声を発しており、そのことから完全にリベルタスを敵対視していることがわかった。
タコ「いやぁ、危なかった… 大丈夫か? ライ…」
タコがライアンの安否を確認しようと顔を見た瞬間、驚きつつ新たに犬系魔獣を一匹見つけた。
ライアン「ふぅ、助かったぁ。って、なんだ? 俺の顔なんかついてるか?」
タコ「あぁ、ついてると言うよりは、くっついてると言うか… 手短に言う。お前頭に噛みつかれてるぞ!」
タコにそう言われた瞬間、始めてその事実を実感し、流血したあと痛みが走り、痛がりながら辺りをぐるぐる走り回る。
ネル「ライアン、獣に、好かれやすい?」
天琉「いや、どっちかって言うと、壊滅的に嫌われてるんじゃ…」
ネルに対する質問のあと、天琉が他の9匹を指差すと、取り分けライアンに向けられている敵意が多かったことがわかった。
その後、なるべく傷つけずに気絶させ、届けるべき場所に届けたあと、タコとライアンにあそこは巣ではないということを伝える。
そして、今日は捜査を切り上げ、チームハウスに戻り、今日わかったことについて話し合う。
天琉「もしかしたら、昨日ライアンがあの場所の近くに来たことで、集まる場所を変えたのかもな…」
天琉の考えを聞いたあと、タコはその事から考えられる新たな可能性を出す。
タコ「それか、一定の場所を住処にするんじゃなく、定期的に転々と移動しているかだな…」
タコは天琉の考えと自分の考えを合わせ、もしかすると、今日捕まえた魔獣たちは、次の居場所を探させないため、意図的に送りつけて来たのではないかという考えが出てくる。
ライアン「でもよ、そんな組織的な行動するもんか? 仮にそんなことできるとしても、あの犬っころたちをまとめて、指示できるリーダーみたいなのがいなきゃ無理じゃねぇか?」
ライアンのその考えは間違ってはいないとネルが指摘してくる。
ネル「犬系の魔獣、ボスに忠実なとこ、ある。動きかた、見てると、すごく、組織的。だからわかる。強いボス、いる」
それを聞き、少し緊張が走るが、深く考えても仕方ないということで、夜も遅く、明日はランとの食事の約束があるということもあり、今日は休むことにするのだった。
◆
ある森の暗闇の中、多くの犬系魔獣は集まり、ひときわ大きな何かの影の回りに集まっていた。
その影は、いくつも重なったような唸り声を鳴らし、空高く遠吠えを響かせ、それに続き、他の魔獣たちも遠吠えを響かせるのだった。




