第1話 【これは何億分の1の確率】
森の中を1台の荷車が馬に牽かれて進んでいる。
そんな荷車の荷台では、楽し気な1人の男がいた。
1本の刀を持ち、緋色の髪がとても印象的だった。
男はこの世界で記憶がはっきりする前に鎖国
制度が無くなった「武道国オウカ」の出身。
それ故、他の国の情報は少なく、どういった種族がいるかはわかるが、決まりごとなどの詳しいことには無知に等しい。
今向かっているのは「中央都市」と呼ばれる大陸の中で最も大きな都市であり、様々な国の交流地点でもある。
故に、魔族いるのはもちろん、技術的に必要な物品なども普通に手に入る。
男がそこへ行く目的は、その中央都市にて加入することが出きると言われている、「ステールラ連盟」に入る事。
簡単に言えば「何でも屋」「冒険者」などと同じで、依頼を受けて金を稼ぐ連盟だ。
最初は風の噂で聞いた事だったが、おじいさんに確認をとったところ、本当にあるらしい。
どちらにせよ、何より世界を見るきっかけには丁度良かった。
自由に生き、人の役に立つことが出きる仕事。
これほどうってつけのいい物はないと思い、中央都市へ向かっている。
言ってしまうと、男は転生者である。
男は死ぬ直前までは普通の高校2年生だった。
家族関係も友人関係もうまく行ってはいたが、その日々はある朝の通学路で幕を閉じた。
いつも通り通学路を歩いていたはずなのに、突然鈍い音がした途端に意識を失い、気づけば白い空間に立っていた。
「え、何処!? 誰かいませんかぁー!」
その状況を飲み込みきれずに困惑しつつも、どうにかその状況を理解しようと考え込む。
途中で夢かと思って頬をつねったりしたが、痛かったので現実だと思い知らされる。
すると、いきなり上の方から光が差し、その眩しさに目を閉じる。
「なになに!? 何なんだよ!!」
「やぁ、初めまして。少年よ」
「あの! 何にも見えないんですけど!?」
目の前に何者かが現れたのだが、差している光がまだ収まっていないのか、眩しくて目が開けられない。
現れた人が男が眩しそうにしているのに気付き、差していた光を消すと、ようやく目を開けても大丈夫なほどになる。
「さぁ、これで見えるだろう」
男はその姿を見て驚いていた。
その人が宙に浮いていたと言うのもあるが、別に理由があった。
それは、その人がおそらく裸の状態で神々しい光を放っていたからだ。
光のおかげでなんとか裸を見ずに済んでいるが、目を細めていないと見ていられなかった。
「さて、君の今後についてなんだが……」
「いや、光抑えてくれません? そして服着てくれません? 眩しいのと全裸ってことで会話に集中できないんで」
「この姿こそが私を最も輝かせるのだ。私の偉大なる筋肉をな! どうだ? 美しいだろう?」
そんなことを言って輝く人は色々なポージングを男に見せつける。
しかもポーズをとる度に光が増していく。
「俺は筋肉フェチじゃないからわかんないです! わかろうとしようにも眩しくて見えないです!」
少しよくわからないことになったが、なんとか落ち着いてもらい、それと同時に光も抑えてもらった。
しかし、目を細めないと見ていられないのは変わらなかったので、サングラスをもらった。
聞いた話によるとこの人は男が住んでいた世界とは別の世界の創造神らしい。
漫画やアニメなどでよく言われるパラレルワールドなど、世界がたくさんあるという話は、実際のところ正しい。
その世界1つにつき創造神がついていて、その創造神がその世界を作った本人だそうだ。
「まず確認するが、君が死んだと言うことは自覚しているか?」
「いや、まったく…… でも、なんかそんな気はしてました……」
男は神の前にいるという事から、考えたくはないが死んだのだと予想はしていたが、死因がわからず困惑していた。
男はこれから天国か地獄に行くのかを想像していると、神様から少しの慰めの言葉を掛けられ、プロテインを渡される。
慰めの言葉は嬉しかったが、プロテインは断った。
神様はそのプロテインをイッキ飲みした後に少し輝きを増して男に提案をする。
「転生させてやっても良いぞ?」
その言葉を聞いた瞬間、絶望の表情から希望に溢れた子供のような純粋な瞳をもつ笑顔に変わる。
そう、これは誰もが1度は憧れるであろう異世界転生の機会を与えられたからだ。
「いいの!?」
「あぁ、あまりに可哀想だったからな」
それを聞いた瞬間、思考停止したのち何故自分がどういう風に死んだのかと言う質問する。
すると創造神は見てみろと言って大胸筋を見せつけるポージングをすると、大胸筋から画面が出てくる。
その事にツッコミをしたが、とりあえず見ることにした。
そこには通学路を歩いているさっきまでの自分が映っていた。
すると、突然空から野球ボール並みの大きさの隕石が落ちてきたのだ。
それが、不運にも1人の男の頭に直撃してしまい、ポックリ死んでしまった。
状況を理解した男は、自分の運の無さに少し落ち込むが、それと同時に慈悲深い筋肉ナルシストの創造神に感謝の言葉を告げる。
そして、転生するかどうかの最終チェックを終わらせ、いよいよ転生することになった。
「それでは、幸運を祈るぞ! 少年よ!」
そう言うと創造神は、いきなりパワーを溜め始め、最後に思いっきりポージングの名前を叫ぶ。
「サイドチェストオォォォ!!」
ポーズをしたと同時に白い空間を光が包み込み、ポーズをした時に生じた衝撃波のようなものに男は吹き飛ばされた。
そして、見事転生に成功し、今に至る。
それから18年、最初こそ縛られ続けた人生であったものの、自分のやりたいことを見つけ、男は今ここにいる。
「しっかし、ここまで来て今さらだがよ、あんたもこんな荷車によく乗ろうと思ったな」
男が乗っている荷車を牽く馬を手綱で操るおじいさんが男に話しかける。
「今じゃ、魔石で動く車があるのに、なんでわざわざうちの護衛引き受けてくれたんだい?」
この世界には車があるのはもちろん、現代社会に普通にあるような代物が魔石による技術で作られている。
聞くところによると、魔石技術の発展した近未来な国があり、そこにはロボットがいることが普通なのだとか。
「車には乗りたいけどさ、初めての場所なんだ。こういうので景色みながらゆっくり行くってのも、悪くないだろ?」
「ははっ! 言えてらぁ! わしもそう言う口だ。それに、あぁいうもんはどうにも勝手がわからんからなぁ」
そんな他愛もない話をしている内に、荷車は森を抜け、木々の影が無くなり、差し込む光が強くなる。
それとほぼ同時に目的地が見え、男は中央都市の姿を目に焼き付ける。
都市の回りには、危険な魔獣を入れないために気づかれた、まさに近未来という印象を受ける壁が聳え立っている。
無事に検問を終わらせた後、おじいさんと別れの時が来る。
「またどこかで会おうな、あんちゃん。そういや、名前聞いてなかったな」
「ん? あぁ、俺は天琉だ。またどっかで会おうな。じいさん」
そう言って天琉は歩き始め、後ろにいるおじいさんに手を振る。
天琉はステールラ連盟に入るため、この都市に来たわけだが、それより先に果たすべきことがある。
それは、ジャンクフードを食べること。
転生してからというもの、美味しいものは食べてきたが、前世の食べ物が恋しくないというと嘘になる。
異世界でそんなのがあるのかと不安だったが、先程の荷車のおじいさんにあると言われ、天琉はそれが楽しみで仕方ない。
だからと言って、真の目的を忘れたわけでは断じてない。
その店にいる人にステールラ連盟について情報を聞くと言うことも考えている。
決して天琉がそれをついでの理由にして食べ物を食べたいと言うわけでは断じてない。
「それじゃあさっそく! 俺の求めるものを手にいれるため、いざ出発!」
そう言いながら天琉は大量によだれを垂らしながら飲食店を探しに向かう。
数十分後、天琉はファミレスのような店を見つけ、ここなら確実に色んな物が食べられそうだな、多分情報が得られるだろうなと思い、店に入る。
窓際の席に座り、宿代を残せる分だけ食事を頼み、それと同時に店員にステールラについて聞く。
「あ、それなら丁度今あそこに流れてますよ」
窓の外を見てみると、建物の壁にデカデカと映像が流れており、そこにステールラ連盟の告知が流れる。
内容は、1月後にステールラ連盟に加入する試験を行うというものだった。
偶然その情報を得られ、幸運を感じるが、新たに問題が発生した。
加入するためには、3人1組のチームをつくらなければならなかった。
天琉は今1人、見知らぬ地で知り合いなどいるはずもない。
しかし、天琉の顔に悩む表情は浮かばず、むしろ楽しそうだ。
「上等だ。仲間集めはしたかったところだし、1人じゃ楽しさ半減どころか、1パーセントだしな」
片手で握り拳を作り、もう片方で作った掌に打ち付け、満面の笑みを浮かべる。
「さぁて、俺の自由奔放な異世界ライフ、開幕と行こうか!」
そんなことを告知の画面に向けてカッコつけて言ったが、周りからの視線を感じとる。
しかも、注文したものを店員が丁度運んできたタイミングでもあり、すこし恥ずかしくなる。
「ご、ご注文はこちらでよかったですか……?」
「あ、はい……。お騒がせしました……」
クスクスと笑い声が聞こえるなか、注文したものを食べる。
恥ずかしさでやけ食いしているうちに外は暗くなっていた。
恥ずかしさが消えていない、旅の疲れ、そして時間を考え、天琉は宿屋へと足を運ぶ。
借りた部屋に来た途端、天琉はベットにダイブし、顔を埋めながら眠りにつくのだった。