第五話
獣の爪によって進化してしまった四つ足デクノボーを『ベロス』と名付けることにした。地獄の番犬ケルベロスにあやかり、俺たちを守ってくれる強く頼もしいワンコに成長することを願ってこの名を付けた。我ながら会心の出来だと思う。
新たな仲間ベロスくんだが、調べてみると中々面白いことが分かった。身体能力の飛躍的な上昇や、火、水属性のブレス攻撃の獲得など戦闘力が大きく上がったことに加えて、なんと思考能力や感情のようなものを獲得していたのである。
通常のデクノボーは、命令されなかればその場でボーっと立ち尽くすだけで、まさに木偶の坊といった有様である。ひとえにそれはデクノボーには自ら思考するという機能がそもそも備わっていないためであるが、ベロスの場合は何も言われずともその辺をウロウロ動き回り、小動物を狩り、他のデクノボーを八つ裂きにしたりして自由気ままに振る舞っている。行動は野生の獣そのものだが、例え獣程度であっても自ら考え、判断し、行動することが出来るようになったのは非常に大きい。
……正直、Cランクなどというハズレもいい所な素材でここまで強力なモンスターが生まれるなんて想像だにしていなかった。Cでこれなのだから、SRやUR相当のレアリティの素材を使ったら一体どんな怪物が爆誕するのか非常に楽しみだ。楽しそうに騒いでいるリリアンの為にも、早く次のガチャを引きてぇなぁ。
◇◇◇
追加で囮型デクノボーを20体ほど生産したり、機材の準備をしたり、隙あらば徹夜しようとするリリアンを寝室まで強制連行したり。そんなこんなで一週間ほどの時間が経過した。
遂に『おっかない家主を無理やり留守にしている間にこっそり有り金を出来るだけいっぱいかっぱらって来ちゃおう大作戦』の決行日がやって来た。ひっでぇ作戦名だなオイ。
参加メンバーは俺、リリアン、メーダ、ベロス、囮型デクノボー総勢50体。要するに総力戦である。リリアンには、俺が作戦に参加することを最後まで渋られた。が、大の大人が危険な仕事を女の子一人に任せて、安全地帯でぬくぬく過ごしているわけにはいかないだろう。
「別にわらわはそんなことを気にしたりせん。それよりも今キサマに死なれる方がよっぽど困るのじゃ」
「大丈夫だって。この日のためにちょっと筋トレ頑張ったし、頼れる仲間もいるんだ。何とかなるだろ」
「グッ!」
「ガルルルル……」
「ほら!メーダもベロスも任せろって言ってるぜ。多分」
「キサマはベロちゃんには嫌われとらんかったか?」
そんな事実はない。ないったらない。
「さて!改めて作戦の段取りを確認しようか!」
「話を逸らしたな」
「ンゴー」
はいそこ!私語は慎むように!俺は今大事な話をしてるんだ!
「目的地に到着したら、まずは採掘ポイントを中心に半径40mの円環状に囮たちを配置。次にベロスが地下にいる蚯蚓どもを叩き起こして回る。蚯蚓が全て地上に出てきたら囮たちは魔法で気を引付けつつ出来るだけ遠くへ離れる。蚯蚓が皆囮に着いて出て行ったら、いよいよ俺たちの出番。メーダが周囲を警戒しつつ、えーっとなんだっけ、地脈反応型簡易魔力抽出杭だっけ?そいつを打ち込んで回って、容器が満タンになったら皆でベロスに乗って急いで帰る!以上!」
残った囮たちはどうするんだって?彼らには二階級特進が約束されているよ。
「……これを考えたわらわが言うのもなんじゃが、大分運と勢いに任せた作戦じゃな」
「要するにクッソガバガバな穴だらけの作戦だって言いたいんだろ?」
「うむ……」
囮の性能を過信しすぎてはいないか、そもそも囮程度の弱い魔法に蚯蚓たちが引っ掛かるのか、仮に引っ掛かったとしても予想よりも早く帰ってきてしまったらどうするのか、メーダでは手に負えない脅威が潜んでいるのではないか……作戦の穴を指摘し出したらキリが無い。
「それでも、やるしかない」
「分かっておる。何もせなんだら物資も何もかも擦り減っていくだけだしの……よし!わらわは腹をくくったぞ!人間、死ぬなよ?」
「ははは、俺を誰だと思ってる。今まで運だけで生き延びてきた、ただのガチャ愛好家様だぞ」
「ぷっ、なんじゃそれは。キサマらも、活躍を期待しておるぞ?」
「グゲゲッ!」
「グルルァッ!」
皆で拳をぶつけ合う。こんなコソ泥作戦に俺たちの今後が掛かっていると言っても過言ではないのは何とも情けない話だが、どこかでリスクを取らなければ緩やかな停滞に殺されるのみである。何より子供の笑顔と俺の平穏なガチャ生活が懸かっているのだ。この程度の困難など屁でもない。例え死んでも生き延びてやるぜ。
……守るべきものがあるというのは、こんなにも力を与えてくれるのか。昔の俺に教えてやりたいよ。やっと、逃げずに前へ進めそうだ。
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