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8.フェイ辺境伯家

「今日だったか、新しいメイドが来るのは」


 フェイ辺境伯家当主、ルーカス・フェイはさして興味もないように執事のローガンへと声を掛けた。

「はい、そうでございます」

「…今度は何ヵ月持つかな」

 ふっ、と投げやりな笑みを浮かべる自分の主にローガンは溜め息を吐く。


「原因の一つは坊ちゃまの美しく優しそうなご尊顔に相反する、その人遣いの荒さに御座いますからね」

「知らん。だいたいメイドとしてきたのであればメイドの本分のみこなしていけばいいものを。どいつもこいつも猫なで声でしなを付けてくるからそんな暇あったら仕事をしろと増やしただけだ。」

 ふん、とルーカスは鼻を鳴らす。

「だいたい親父殿が自分の名前で求人を出すから話がややこしくなってるんだろう。爵位はとっくに引き継いだのに、そういうところが適当なんだよな、親父殿は」

 気のいいルーカスの父親で前当主のオーウェン・フェイは確かに噂通りハゲてデブではあるが、一応まだキモいの領域には達してはいないと思うんだがな…と自分の父親の街での噂を思い出したルーカスは鼻を鳴らす。

 そんな親父殿は妻であるソフィア・フェイと共に悠々自適な老後旅行生活だ。


 そう、実際にはここに来たメイドたちは全員が全員、現当主であるルーカスの一見優しそうな外見に惹かれ、そしてしなを付けてルーカスにどん引きされ、膨大な抱えられないレベルの仕事を与えられ、音を上げて辞めていくのだ。

 辞めた人間が、皆も皆そろってルーカスのことを「人使いの悪い鬼上司だ」と吹聴するに加えて、前当主の適当求人により、「めっちゃ人遣いの荒いはげでデブのきもおっさん辺境伯家のメイド」という、一見誰も行きたがらない求人が出来上がったというわけだ。


「あと、我が家は国境沿いで東の国の人間も何名か働いてますからな」


「…ふん。蛮族だと馬鹿にしたわけか。くだらない」

 フェイ辺境伯家は東の国、トゥーケと隣接する領地だ。今のところ攻められることもなく友好関係を築き上げている。

 そして友好の証として、向こう側の国の人間を何人かフェイ辺境伯家で使用人として受け入れているのだ。


 ルーカスはだが、この東の国の人間たちが大好きだった。褐色の肌に黒い髪。そして黒い瞳はどうしても自分の国の人間からすると蛮族と呼ばれてしまう。

 だが、実際に接してみると手先の器用な民族らしく、仕事は丁寧。そして礼儀も正しく勤勉だった。


 そんな東の人間を受け入れられる広く大らかな目と心の持ち主たちだけがこの屋敷に使用人としてとどまっている。…のだが、そんな人間ばかり都合よく集まるわけもなく、屋敷内はいつも手が足りない状況だった。


「アークライト侯爵家から派遣メイドか。期限付きか?」

 履歴書を見ながらルーカスはローガンへ尋ねる。ローガンは首を横に振った。

「いえ、無期限で雇い入れて欲しいとのことです。ただ、…」

 珍しく言い淀んだローガンにルーカスは首を傾げる仕草だけで続きを促す。


「…給金を全てアークライト家に入れるようにと。…厳密に言えば最近後妻として迎えられたキャロル・アークライト夫人へと送るようにと…」

「…給金を全部だと?」

「ええ、先付で来た手紙の中にはそのように書かれていまして」

「本人も来ていないのにもう金の話をしてきたのか」


 そういってルーカスは首を傾げる。

「アークライト侯爵家はそんなに財政難だったか?」

「いえ、私も不思議になって調べました。少し前一気に支出が増え、税務所の方に修正申告をした履歴はありましたが、そこからはぴたりと支出も止まり、今まで通りの潤沢な予算状況です」

「…なんかキナ臭いな」

「…私もそう思います」


 ルーカスははーっと溜息をついた。

「めんどうな問題を持ち込まれては適わない。…が、調べるにはまだ早い。もしかしたらアークライト夫人の高級な私物かなにかを壊した使用人が、弁償のために働きに出されるのかもしれないしな」

「まあ、順当にいってその可能性が一番高いでしょう」

「…まぁ、もう来る者は仕方がない。実際働き手が欲しいのは事実だからな」


 そういってルーカスはぽい、と履歴書を机の上に置く。

「履歴書を見る限り文字も汚い。単語の綴りも間違っている上に、文章能力もほぼ皆無だ。…あまり使えなさそうなやつではあるが、まぁ掃除や洗濯くらいはできるだろう。来たらここに通してくれ」

 ルーカスの言葉にローガンは深々と頷く。

「かしこまりました」


 そうして、その日の夕方、アンジェラ・アークライトはフェイ辺境伯家に到着した。

 ぼろぼろの身なりで、トランク一つだけを持って、満面の笑みで。

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