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2.美しいお義兄さま

 厨房にて、卵粥を作る。後ろでカリンがはらはらとした表情で私を見守ってくれているのに苦笑する。

「カリンったら。なあに?あなたもお腹が空いたの?仕方がないわねえ」

「違いますよ!!!お嬢様の手が火傷でもしたら大変だから…!ああ、やっぱり私がします。こんなこと毎朝続けていたら、お嬢様の美しいお手が荒れて…」

「あら、もう荒れていてよ?」

「なんですってぇぇぇぇl!?」

 カリンが発狂したように叫んで私の手をグイっと掴んでそのまま凝視する。


「ひ…ひび割れ…このカリン…一生の不覚です…」

 今にも泣きそうな顔なんだけど、それほどひどくもないと思うのだけれど…


「もう許せません…あの性悪女キャロル…」

「あらあら、またそんな言葉を使ってあなたったら。お義母さまは素晴らしい方よ。私が嫁いだ先で料理もできない娘だと思われたくなくて、きっとこうやって料理を作るように陰ながら助力してくださっているのよ」

「貴族令嬢は料理なんかしません!!!それにあなたはこの国の三大侯爵家の一つ。アークライト侯爵家の一人娘!!!同等の然るべき方に嫁がれるんです!嫁ぎ先で料理なんてするわけないじゃないですかぁ!!!」


「あら、わからなくってよ?ふふ、今は貴族男性でも奥さんの手料理を食べたいとか可愛い我儘を仰る方がいるみたいよ。そんな方のおうちに嫁いだ時に役に立つじゃない?…っとそろそろ良いわね。じゃあカリン、私お義母さまに持って行ってくるわ」

「お嬢様ぁ…」

 泣きそうな顔をするカリンにどうしてそんな顔をするのかしらと首を傾げながらも、まだ誰も起きていない静かな廊下をお義母さまの部屋に向かって歩く。


 コン、コンとお義母さまの部屋の扉をノックする。

「お義母さま、アンジェラですわ。入ってもよろしいですか?」

「入りなさい」

 失礼します、と言いながら入る。ベッドの上で気怠そうにしていたお義母さまは私を一瞥すると、顎だけでくいっとテーブルにお粥を置くように指示された。

「何それ」

 テーブルに置いた卵粥を見てお義母様は眉を顰めた。

「卵粥ですわ。朝なので消化に良いものをお持ち致しましたの」

 私がにっこりと笑って言った次の瞬間。


 お義母さまはおもむろにベッドから立ち上がりつかつかとテーブルまで歩いてきて。


 ――――びちゃびちゃびちゃっと音をさせて。それらをゴミ箱の中に放り込んだ。


「あら」

 私はびっくりしてしまう。そんな私を見て、お義母様はニタァと笑った。

「こんな猫の餌みたいなの食べられるわけないじゃない。はー本当に使えない子ね。顔だけ綺麗でも意味がないのよ。もういいわ。朝はシェフが作ったものに限るわ。さっさと部屋の掃除をなさい」

「…はいっ!!!」

「…なんで目をキラキラさせてるのよ…ちっ!ああ!もういいわ!あんたといるとイライラする!!!!さっさと部屋に戻りなさい!!!」


「え、部屋に…ですか?お掃除はしなくてよろしいの?」

「もういいわよ!!!早く出て行って!!!ああもう!」

「あ、お義母さま、イライラするときはですね、お魚を食べられるといいかもしれません。ふふ、お義母様もお若く見えてもやはり更年期などは来るのですね。ふふ、とてもかわいらしいですわ。私厨房のシェフに言づけてまいりますね」


 そう言ってお部屋を出ると、扉を閉めた途端、中からものすごい音が聞こえた気がしたのだけれど…まぁ、防音のしっかりした扉なので聞き間違いかもしれないわね。


 それにしてもお義母さまったら。

 私はふふっと笑ってしまう。

「あんなまどろっこしいことされなくても、仰って下されば用意したのに。もう、素直じゃないんだから。そんなとこも素敵だわ」


 そう言って先ほどお義母さまが卵粥をゴミ箱に捨てられたことを思い出す。

 我が家で集められたごみは、一旦我が家の敷地内の隅っこにあるゴミ置き場へと持っていかれる。

 そこに最近、子猫が五匹ほど住み着いているのだ。

 さきほどお義母さまははっきりとおっしゃった。「猫の餌」と。きっと表立っては野良猫を飼えないからああやってわざと捨てて猫の口に入るように配慮されているんだわ。


「ああもう、本当に素敵なんだから」

 直接的な物言いをしない貴族社会のマナーを完璧に理解していらっしゃるわ。本当に素晴らしい。見習わないと。


 と、るんるんと廊下を歩いていると。

「よお」

 と後ろから声を掛けられる。

 この声。私は嬉しくなって満面の笑みで振り返る。

「おはようございます!レイブンお義兄さま!」


 飛び切り美しい顔の青年が、面白くなさそうな顔をして私を見ていた。

「お義兄さまから声を掛けてくださるなんて、最高な日ですわ。なにか御用でして?」

「お前が持ってる金目のもん、なんか寄越せ」

「カネメノモン?なんでしょうかそれは。なにかの食べ物でしょうか…ええと、心当たりがないのですが」


 私の言葉にお義兄さまの目が見開かれる。なにいってんだこいつ、という顔をされてますが、ごめんなさいお義兄さま。お義兄さまこそ何を仰っているんでしょう。


「…ちっ、本当にお前は箱入りのアホ娘だな」

「あら…やだわ。箱入りだなんて。照れますわ」

「褒めてねえ!!!」

 苛立ったお義兄さまが大声を出されます。


「どうされましたか!?」

 お義兄さまの後ろから執事のスティーブンが走ってくる。ああ、もう若くないのだからそんなに走ったら転んでしまうわ。


「ちっ、、うるせえのが来やがった。おい、お前、あとから部屋に行くから、金目のもん用意しとけ」

「あ…ですから、お義兄さま、カネメノモンとは…」

 私の言葉も聞かず、お義兄さまはスティーブンから逃げるように自室へと入って行かれた。


「お嬢様!!すみません、駆けつけるのが遅くなって…あの者、お嬢様に何か言ってませんでしたか?」

 スティーブンが息を切らせて私の元に駆け寄ってくれる。

「おはようスティーブン、良い朝ね。お義兄さま?朝の挨拶をさせてくださったわ。ふふ、本当にお美しい方。朝からあの顔を見ると一日幸せになれるわね」


「お嬢様ぁ…」

 スティーブンまでカリンみたいにがくりと肩を落とす。ほんとう、どうしたのかしら?

「ああ、あとスティーブン、ちょっと聞きたいのだけれど…もう私ったら本当に無知で恥ずかしいのだけれど…カネメノモンとはなにかしら…お義兄さまが欲しいらしいのだけれど、困ったことに私カネモノモンとやらがなにかがわからないのよね…私に持っているモノだったら差し上げたかったのだけれど…」


「あの男!!そんなことをお嬢様に言ったのですか!!???」


 スティーブンの肩がわなわなと震えだした。

「あの…性悪親子…っ!!旦那様の不在をいいことに好き放題しおって!!!!」

「あの…スティーブン?聞きたいことがあるのだけれど…もしかして…」

 私は声を顰めてスティーブンに聞く。あまり周りには聞かせたくない内容だもの。


 私の言葉にスティーブンはガバリと顔を上げた。

「やっと…!やっとお気づきになりましたか!!!!そうです、あの親子は…!!」



「スティーブンも…カネメノモン知らないの?」


 スティーブン自慢の金眼鏡がずり落ちた。

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