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砂漠の底の洞穴

 砂漠の底だというのに地上に見える岩山の中を貫いているからか、狭い通路の両壁と床はしっかりとしており、更に石段を降りるにしたがって身に纏い付く空気もどこかひんやりとしたものになっていった。


 洞穴は、祭壇前の入り口から続く人一人が通れるほどの幅の石段がしばらく続く。奥へ進むにしたがって徐々に穴の幅は広がり、やがて両手を大きく横へ伸ばしても届かないくらいの広さになって、階段は途切れ、ここからなだらかな地面が続く。

 階段は明らかに人の手によって作られたものだが、ここから先はあまり人も入る事も無いのか、この場所が自然の状態の洞穴を利用して作られたものだと云う事を証明する様に、足元には無数の凹凸があり、ぼんやりと歩いているとすぐに躓いてしまいそうだった。

 松明をかざしながら慎重に歩いていたはずのパミが前へつんのめる。手をつこうにも今片手は松明でふさがっている。片手だけをつくのも危険だ。じゃあどうすれば……考える間も無く地面が迫る。咄嗟に目をぎゅっと瞑るパミ。


「……っと!」


 顔から前のめりに倒れかけたパミの襟首を背後から掴んだシェラハ。


「こんなゴツゴツした所に顔から倒れちゃあぶないでしょ!」


「あ、りがとう」


 そのまま襟首を引っ張り上げて、真っ直ぐにパミを立たせてやる。


「なぁ。シェラハ、パミ。正直なトコこんな固い岩盤、ホントに俺たちで崩せると思うか?」


 先頭をずっと歩いていたイリジスが、固い岩肌の壁をペシペシ叩きながら振り返る。


「やってみなきゃ分かんないでしょ」


 即答するシェラハ。


「3秒だけ考えてから答えて」


 がっくりと頭をもたげる素振りをしながら、イリジスが言う。イリジスは自分に向かってよくこんな事を言ったりもする。考えてない訳じゃないけれど、やる前から出来ないと決めるのはおかしいと思うシェラハは、少し唇を尖らせる。


「1・2・3。……とにかく、やってみたい。手の届くうちはやることにしてるの。あたしは」


「手の届くうち、ね」


 繰り返して、それがシェラハの会う事の叶わなくなった母の事を指しているのだと、ふと気付いて、イリジスは苦笑する。出来なくなった事があるからこそ、今出来る事の可能性をやるまえから放棄したくないのだろう。勝気なシェラハらしい割り切り方だ。

 ちなみにシェラハの母との間には、この世とあの世の隔たりがある訳でもないから、会う事は困難なだけで、全く会えない訳でもないのだが。……それを言ってシェラハがキャラバンから出て行くのも嫌なので黙っておくことにする。


「どうしてシェラハさんと、イリジスさんは僕達を助けてくれる事にしたんですか?」


 パミがおずおずと口を開いた。


「俺はシェラハに付いて来ただけ」


「あんたこそ3秒考えてモノを言ったら?」


 大の男がよく臆面も無くそんな事を言う。呆れたシェラハは「ねぇ」とばかりにパミへ目を移すと、意外なほど真剣な表情のパミに行き当たった。


「シェラハさんだって、女の人なのに。危ないかもしれないのにどうして?」


「あたしはあんたより強いし……やめた」


 じっと見詰めてくるパミの顔をもう一度見て、軽く息をつく。


「出来る事は出来るだけやりたいの。後悔したくないし、あたしがどれだけやれるか試したいの。何にも負けたくないの。だから、助けて欲しいなんて言われたら……たすけるしかないじゃない?」


「自分のため?」


「あたりまえ。人の為になんて、そこまで手が回んない」


 ここまでのお節介をしていながらあっさりと言う。パミはその答えで納得したのか、そっか……と小さくつぶやくと、今度は先頭をきって歩き出した。

 自ら進んで先頭を歩いてゆくパミの背中が、ほんの少し大きく見える様な気がする。


「あいつなかなか見所あるじゃない」


 その姿を見送りながら、シェラハが傍らのイリジスに言う。イリジスは黙ってパミを見ている。


「ま、どこまで出来るのか見せてもらいましょ」


 誰にとも無く言うと、さっさと歩き出してしまったイリジス。シェラハの足元は真っ暗になる。


「待ちなさいよ!見えないじゃないのよっ」


 慌てて追い駆けたシェラハの声に気付きながらも、イリジスは歩調を緩めない。


「たまには追い駆けられてもみたいからね」


 ひっそりと、鼻歌でも歌い出しそうな口調で呟いたのだった。

お読みくださり、ありがとうございます。

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