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閉じ込められた?



 ドラゴンを討伐したと思ったら、さらに巨大なドラゴンが出てきてブレス1発で昇天。


 それはないよね。


 本当にひどい。


 洞窟のすぐ外に作った拠点ですぐに全員が蘇生したけど、大きな作戦を無事に成功させたメンバーには見えなかった。


「ありえない!」


 代表してチュプちゃんが全力で叫んだ。


 聖女見習いというのが設定ではなく、本当にそのものという感じで、怒ったところなど一度も見せたことないミハエラ姉さんでさえ、口元が厳しく、強く歯を噛み締めているのがわかる。


 すぐに頭を冷やして冷静になったのはマヤちゃんだった。


「私たちが倒したのはドラゴンの子供だった。子供を殺されて、親が顔を真っ赤にしてカンカンに怒ってる」


 で、それをどうやって討伐する? と言い出す。


 それを聞いたちゃちゃ先輩が大笑い。


「そうだよな、強いモンスターを見つけたんだぢぇ。それなら次にやるのは倒す方法を考えることだぢぇ」


 レベル上げ、スキル取得、装備の更新、やることはいっぱいあると、いままで暗い表情だったちゃちゃ先輩が復活した。


 ちゃちゃ先輩が復活すればミハエラ姉さんも復活するし、チュプちゃんだって落ち込んではいられない。


 さすがに今日は配信時間も長くなったし、みんな疲れているから、明日から親ドラゴン討伐作戦の準備をしようと約束した。


「今晩も長い時間つきあってくれてありがとねー。また見てよー。さようなら」


 ビューアーのみなさんに挨拶して配信を終わらせようとしたんだけど、そのときコメント欄がなくなっているのに気づいた。


 視界の右端にコメントが表示されるようにしたのは僕が使いやすいように設定しただけで、なんなら視界の中心に設定することもできる――前が見にくくなって実用的ではないけど。


 ひょっとしてドラゴンとのバトルで夢中になって、少しでも視界を確保するため無意識のうちにコメント非表示にしてしまったのか?


 ホロキーボードを出して設定を開き、コメント欄を操作しようとして、ちゃんと右端に表示される設定になっていることに気づいた。


 いつもの通りだ。


 それなのにコメント欄がないということは?


「あれ? いつの間にか配信を終えてたのかなー? それとも通信障害? 落ちたのかなー?」


「私のところもおかしい。配信を終われないみたい。あるいは勝手に終わったのか」


 マヤちゃんのほうも不調みたいだ。


 ゲームのバグか、ネットの障害か――コメント欄がおかしいのだからゲームが問題ではなく、ネットの障害かも。


 あるいはメモワールから支給されている配信用のソフトにバグでもあったのか?


「ログアウトもできないぢぇ」


「わたくしもできないです。ネットにもつながりません」


「ネットにも?」


「なにかニュースになってないかと思って検索しようとしたら、まったく反応しません」


「あっ、本当だぢぇ」


 ちゃちゃ先輩もミハエラ姉さんはいろいろ試しているらしい。


 僕より1年前にメモワールの1期生としてVストリーマーデビューした先輩だからね。


 ここにいる中では、この2人が配信関係について一番詳しい。


「コメント欄を閉じたわけじゃないのコメが流れないということはネットから切り離されてるってことだぢぇ。なのにゲームからログアウトできないのは謎すぎるぢぇ」


「いえ、メモワールのサーバーでやっているのですから、もし回線切断したら、それと同時にゲームから追い出されると思います。だけど、いまログインしたままで、むしろログアウトできない状態なんだから回線は通じているはずでは?」


「コメント欄が動いてないのは?」


「ウイルスでも紛れ込んでいるのか、ハッカーに荒らされているのか、メモワールのサーバーに異常があると思いますけど」


「そういうことなら、こっちからやれることはなにもないぢぇ。しばらく寝てればなおるだろ」


 結局、僕たちはゲーム内の自宅に戻ることにした。


 洞窟の側に作った拠点はあくまでリスポーン用のものだから、全員がくつろいで休むだけのスペースはない。


 そして、そのまま各自が自宅で一晩休んだけど、翌朝になっても僕たちの状況は変わらず、チャット欄は死んだまま、ログアウトもできず、ネットにもつながらないから情報を集めることもできない。


 一晩休んだおかげで肉体的な疲労は抜けたんだけどね。


 ログアウトできない理由とか、どれくらいでメモワールのサーバーが復旧する予定なのか、そういうのがわかればいいんだけど、完全に情報が遮断されているのだから精神的にキツかった。


 やっぱり先輩には頼ってしまう気持ちがあるんだろうね、ちゃちゃ先輩の家を訪ねると、ミハエラ姉さんもチュプちゃんもマヤちゃんも顔を揃えている。


「みんなは昨夜とかわらないぢぇ。音乃はどうだ?」


「ボクもかわらないよー。ログアウトできないし、ネットにもつながらないし、チャット欄も表示されてないねー」


「で、今日はどうするつもりなのだ?」


「どうって……ちゃちゃ先輩はどうするのー?」


「ちゃちゃは予定通り親ドラゴン討伐戦の準備だぢぇ」


「こんなときに?」


「なにかをしたら状況が好転するなら、それをやるのが優先順位の一番になるけど、なにも思いつかないんだな。それなら、いつも通りだぢぇ」


 みんなはどうするんだ? と逆に僕たちに問う。


 まあ、確かに異常な事態だけど、いますぐやらないといけないことは1つも思いつかない。


 泣いたり、騒いで事態が好転するわけないしね。


 だからといって、普通にゲームを攻略していくのも変な気がしないこともないけど。


 しかし、ちゃちゃ先輩が方針を示し、他にやることも、やりたいこともないから、なんとなく親ドラゴン討伐戦の準備をする流れとなった。


 というか、ちゃちゃ先輩とミハエラ姉さんがレベルアップと新しい攻撃スキルを増やすために狩りに出かけ、とまどっているチュプちゃんも連れていったのだ。


 そうなると残されたマヤちゃんと僕は生産でもしようか、という話にしかならないんだよね。


「私の家にきて」


 マヤちゃんに続いて研究室に入る。


 さて、なにを作ろうかと部屋にある材料を眺めていたけど、マヤの気持ちは違ったようだ。


「お茶でも飲もう」


 ちなみにお茶というのは採取してきたコーヒー豆を適当に炒ってすり鉢でゴリゴリと粉にしたものを湯で抽出した、見た目は泥水そっくりで、味も泥水そっくりという、舌がバカじゃない限り自分から飲みたいものではないはずなのに、なぜかマヤちゃんだけには好評なもののこと。


 僕の知る限り一番頭がいいと思っていたけど、どうやら上部の脳はいいけど、下部にある器官はそうでもないらしい。


 自分の家に逃げ帰りたいところだけど、付き合いというものもあるからね。


 だいたい、これは喉が渇いたという意味ではなく、なにか話したいことがあるという合図なのだから。


 コーヒーという名の泥水を前に、テーブルに向き合って座った。


「どう思う?」


 どうやってマグカップの中の泥水をこっそり床に捨てようかと考えていたら、ふんわりした質問が飛んできた。


「なにが、どうなのー?」


「この状況、ちゃちゃ先輩、あるいはミハエラさん」


「この状況についてはわけがわからないねー。そのあとの2つの質問もわけがわからないねー」


「ちゃちゃ先輩はこの状況についてなにか知っていると思う。ひょっとしたらミハエラさんも」


「そうなのー?」


「あの落ち着きようは他に説明できない。だって、ログアウトできないなんて絶対にありえないから。没入型VRが開発される過程で安全面は一番しっかりやったところなのに」


 まあ、言いたいことはわかる。


 VR世界にいったきりになってしまったら信頼性は地に落ちるし、社会的な信用は失われるし、訴訟を起こされるし損害賠償や慰謝料は青天井。


 だから、そういうことがないように何重もの安全対策がとられているはず。


「でも、こうなってしまったのだから、パニックになって、無駄に騒ぐよりよくないー? 先輩という立場もあるしねー。もし内心はメチャクチヤ焦っていても後輩の前でそれを出すわけにはいかないしー」


「もし裏事情を知っているのなら、パニックにもならないし、無駄に騒がないし、後輩の前で焦る必要もない。さっきのちゃちゃ先輩の様子を見たでしょう? 楽しいドラゴン狩りで頭がいっぱいという雰囲気で。いま私たちはログアウトできなくてゲーム世界に閉じ込められたのに」


「ちゃちゃ先輩がボクたちをログアウトできないようにしているというのー?」


「ライバル会社に頼まれて営業妨害をしているとか」


「ごめん、ボクはマヤちゃんのこと、もっと頭いいと思ってたよー」


「移籍とか、ちらつかせたら効果的なエサはいくらでも考えつくけど?」


 こう言ってマヤちゃんはVストリーマーの運営会社の社名をいくつかあげた。


 業界でトップを争う有名な会社ばかり。


 メモワール所属の符炉貴ちゃちゃが同社の営業を妨害したら解雇もありうるけど、そのあとに別のキャラクターでデビューすればいい。


 俗に転生などと呼ばれている。


 それもメモワールより有名な運営会社なら損な話ではないんだよ。


 業界トップの運営会社だと箱推しのファンも多いし、かける広告費も段違いだし、デビューの瞬間にチャンネル登録者数が殺到することもあるんだ。


 ちなみに僕はデビュー3ヶ月目で、現在のチャンネル登録者数はだいたい15000。


 メモワールとしては悪くない。


 しかし、トップクラスの運営会社に所属する企業系Vストリーマーにはまったくかなわない数字だ――文字通り桁が違うレベルで。


 それこそデビューしますと宣伝して、チャンネルを作成しただけで、まだ一度も配信したことないのにチャンネル登録者が10000を超えたりするから。


「だけど、そういう疑いだったら誰だって対象なんじゃないのー? いまより確実にチャンネル登録者数は増えるんだし、企業案件とか、とにかく稼げる金額が違うんだからー。そんなことより、ボクが疑問なのはゲーム内にいてサーバーをハッキングできるのー? むしろログインしないで外にいたほうがやりやすいと思うけどー?」


「それは……」


「もしマヤちゃんが外にいるよりゲーム内にいたほうがハッキングに有利だという合理的な理由でも思いついたらボクも賛成にまわるよー」


「そういえば音乃も言ってたけど、行方不明になったVストリーマーがいるって。たとえば、こういう状況になっているとしたら?」


「警察が動くし、マスコミが騒ぐと思うよー」


 ちなみにVストリーマーのスキャンダルを集めて、掘り下げたものを配信しているVストリーマーまでいるからね。


 ネットの匿名掲示板にもVストリーマーの専用板があるし。


 まとめサイトとか、情報を載せているホームページもたくさんある。


 その行方不明のVストリーマーにしても永遠に消えたわけじゃないだろうし、他にも関係者とか、家族とか、友人とか、誰かがどこかに情報を出すだろう。


 複数の人が関わっている秘密は、もうそれだけで秘密ではない。


 早いか遅いかだけで、いつかは漏れ出すものだ。


「わかった。調べるし、考える」


 だけど、マヤちゃんはちゃちゃ先輩犯人説を諦めてないらしい。







 ブクマありがとうございました! なによりの励みです。

 




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