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ドラゴン討伐戦(その偵察戦)



 結局、マヤちゃんははっきりした返事をしなかったけど、断られてもいいと思っている。


 歌に限らず、なんだって練習すれば上達するからマヤちゃんがやる気になってくれればVストリーマーとして幅が広がるとは思う。


 一方で同期という関係だとしても、僕が踏み込んでいい範囲というものもあるだろう。


 マネージャーでもないんだし。


 それより、いまは銃を発達させよう。


 なにしろ邪魔だし気を使う火縄がなくなってくれれば運用はもっと楽になる。


 剣を持って凶暴なモンスターに突撃する気にはなれない、運動神経や反射速度に自信のない僕としては使い勝手のいい武器があれば、と以前から思っていたんだ。


 生産も充実しているとはいえ『ドラゴンワールド・フロンティア』は基本的にファンタジー系RPGなのだからモンスターを倒せるか倒せないかでは攻略の効率がまったく違ってくるからね。


 まず僕は火縄銃の改造をはじめた。


 いま持っている3つの火縄銃のレシピは士筒が口径18ミリ、小筒が口径9ミリ、短筒が口径12ミリとなっているけど、無煙火薬を使うライフル銃としてみると口径18ミリはもちろん12ミリでも大きすぎる。


「これはダメだねー、撃ったとたんに肩が壊れそうだよー。飛んでく?そこまで軽くないよー」


 そうなると改造のベースは9ミリの小筒しかない。


「こっちでいけるかなー? いけるって、ちゃんと見ててよー」


 コメントに返事をしつつ、小筒を調べる。


 要するに、どういう形であれ1発でいいから撃てればレシピが手に入るはずなんだから、不格好でも、いくら性能が低くてもいいのだから、割と簡単になんとかなった――と思う。実際に弾丸を詰めて撃ってみたら爆発して死亡という未来も普通にあるんだけどね。


 ゲームなんだから何度死んでもどうせ復活できるし。


 苦労したのは銃身に線条を刻むところだけど、これも形だけでいいはずだから、内径より少し小さい鉄棒にトゲをつけて全体重をかけて引っぱりながら回してみた。


 溝というより、ひっかき傷みたいなものが銃身内に刻まれただけだけど、たぶん問題ない。


 あとは、これに合うカートリッジがあれば試射できる。


「そっちも手伝おうよー」


「お願い」


 マヤちゃんのところにいったら、秒で承諾の返事が返ってきて驚いた。


 自分1人だけで作ればレシピを独占できるのに、僕が手伝ったら僕もレシピを獲得できるのだ。


「かわりに歌の上達方法を教えなさい」


「わかったよー」


 作業台の上から視線を動かすことなく、囁くような声で言ったので、僕もそっと答えた。






even     てぇてぇ


てるてる      てぇてぇ


セイジ       マヤノノてぇてぇ


HIzoc     ツンデレ助かる


噴水        てぇてぇ






 だけど、生配信しているのだから僕たちの言葉は全部ビューアーに聞こえている。


 僕と同じ視線のビューアーもいるし、マヤちゃんと五感共有のビューアーもいて、すぐ近くで聞いているビューアーもいるんだ。


 最初はそういうのが気持ち悪かったけど、もうなれた――こっちは見えないし、なにも感じないからね。


 いないものを意識し続けるのは難しいよ。


 このときも、すぐに意識を無煙火薬の製作に集中させた。


 マヤちゃんはどうやって素材を集めて、それを加工しているのか想像もつかないけど、試験管とかビーカーみたいなものも僕の工作室に持ち込んでいた。


「そういえばVストリーマーが何人も行方不明の噂は知ってるかなー?」


「聞いたことはある」


「ボクはコメントで言ってるビューアーがいたんだけど、よくわからないから反応できなかったんだよー」


 つねに視界の右隅に流しているビューアーからのコメントだけど、ただゲームをしているだけでなく、チャット欄からおもしろそうなコメントを拾って話をしながらやったほうが面白いし、人気にもつながる。


「私だってよく知らないけど。現実に起きていることなら警察の仕事でしょ」


「都市伝説みたいなものならどうするのー?」


「適当な仮説でも並べておけばいいんじゃない?」


「例えば?」


「つまらない答えだけで、一番ありそうなのは引退。デビューするVストリーマーは多いけど、結果を出せないことも多いから、辞めてしまう率もそれなりにあるみたい」


「ああ……それはよく聞くねー。ボクたちみたいに企業のサポートがついているストリーマーばかりじゃなくて、個人勢もいっぱいるしねー」


「企業がついていても安心していいわけじゃない。信憑性が疑問だけど、うちの会社の運転資金が危ないとネットの一部で噂になってる」


「メモワールが? それは困ったねー」


 視界の端のチャット欄を見ると、実際そんな噂を知っているというコメントがいくつも流れていた。


 就職口がなくて困っていた僕としてはメモワールがなくなってしまうのは致命的だ。


 新卒でさえ無理だったのに、いまさら雇ってくれる会社があるとは思えないし、Vストリーマーとしても新人だから個人勢としてやっていく自信はまったくない。


 いまのところ、その程度のチャンネル登録者しかいないのだ。


 アルバイトになってしまうかもね。


 たしか近所のコンビニで深夜のアルバイトを募集していたはずだ。


 あと自転車で10分くらいいったところにある牛丼屋でもアルバイト募集のポスターが壁に貼ってあった気がする。


「さっきも言ったように、あくまでネット上の噂話。信憑性がどれほどあるのか」


「それならいいけどねー」


「それより集中して。あとでみんなくるから、明日かあさってにはドラゴン討伐の偵察戦をやる。できそうなら土曜はボス戦なのよ」


「そんなの聞いてないよー」


「いま言った。音乃もいま聞いたよね?」


「聞いたよー」


「チュプさんが銃で簡単にワイバーンを狩ったと自慢しまくったから」


「あいつかー!」


 コメント欄が加速する。






kiyup       ちょっ、土曜は仕事だよ


みどりの猿       楽しみすぎる


只乃人         がんばれー


タイヤR        見るよ


豚丼          見るよ






 みんなドラゴン討伐戦に興奮しているみたい。


 いまは木曜の夜。


 これから準備を進めていけば週末にドラゴン討伐戦は可能だろう。


 土曜の夜にでも生配信をやれば見たがるビューアーは多い。


 なにしろ、この島の生態系のトップ。


 僕も一度だけ見たことがあるけど、とんでもない迫力で身が縮んだ。


 あんなものと戦う?


 でも、上手くいけばチャンネル登録者が一気に増えるかも。


「銃は何挺いるのかなー?」


「いつものメンバー。だけど、ちゃちゃ先輩は剣しか使わない。ミハエラさんは拳銃かなにかコンパクトなものがいいと思う」


 ライフルがメイン武器となるのはマヤと僕だけだろう。


 チュプは魔法使いだけど、別に魔法にこだわりがあるわけではなく使えるものは使うし、ワイバーン戦で利便性はわかっているから1挺用意しておいたほうがいい。


 符炉貴ぷろきちゃちゃ先輩はメモワールが設立した直後から活動開始した1期生となるが、黄色と黒のしましまがかわいいアライグマの獣人で剣士だ。


 見た目の愛らしさに反するように、気性は荒く、デカい両手剣をブンブン振りまわして戦うスタイル。


 アライグマでもクマはクマなのだろう、ドラゴン戦であろうと剣を振りまわしながら突撃していくに違いない。


 性格的にも姉御肌で、メモワール所属のVストリーマーを引っぱっていく存在だ。


 ミハエラ・エインヘリ姉さんもちゃちゃ先輩と同期の1期生で、将来は立派な聖女となるため異世界で修行中の聖女見習いという設定のVストリーマーとなる。


 もちろん、このゲームでも回復魔法を得意としていた。


 つまりはヒーラーというわけで、最前線で戦うことはないが、自衛用の武器はあったほうがいいだろうね。


「最低3挺のライフルと、最低1挺のピストルがいるねー。ピストルはボクたちも予備の武器として装備したいから、できれば人数分できるといいなー」


「弾薬は人数×100が最低ライン。できれば300は欲しい」


「大変だー」


 それからすぐに試作弾薬ができた。


 火縄銃ベースの改造銃に試作弾薬を装填する。


「離れてたほうがいいよー」


「私が作ったものでもあるんだから自爆で死亡になったとしても、ちゃんとつきあう」


 そんなことをマヤちゃんが言うから僕のチャット欄は「てぇてぇ」の文字で埋まってしまう。


 で、撃ってみると――だいたい成功といえた。


 つまり一部は失敗だったけど、ライフル銃と金属薬莢の弾薬についてはレシピを獲得できたから目標は達成している。


 5連発のライフル銃と、6連発のリボルバー、それぞれの弾薬のレシピだから大きな成果だ。


 発射と同時に銃の尻栓が爆発して僕の右手が部分欠損したけど、レシピが手に入ったのだから、かろうじて弾丸が銃身から飛び出したのだろう。


 危ないところだった。


 もし弾丸発射に成功しなければ、試作銃と試作弾薬と僕の右手を失うだけの結果になっていたところだ。


 まあ、怪我をしようが、死のうが、ゲームなんだから簡単に復活するけどね。


 この『ドラゴンワールド・フロンティア』の場合、ベッドで寝ると完全回復する――手や足を失っても1晩たったら新しいのが生えてくるのは変だけど、そのあたりはゲームということで。


 部分欠損のままで不自由だったけど、レシピでライフルを作って試射したり、改良してレシピを進化させたりして、そのままベッドで寝た。


 翌日、なんとか僕が3挺のライフル銃と、5挺のリボルバーを作り、マヤちゃんが弾薬1000発の大量生産したところにチュプちゃんがログインしてきた。


 わずかに遅れてミハエラ姉さんが、さらに10分くらいしてちゃちゃ先輩も顔を揃える。


 当然、1期生でリーダーシップに富むちゃちゃ先輩が指揮をとった。


「本日はドラゴンの巣に偵察にいくぢぇ! 殺れるようなら殺ってしまえ、と言いたいところだけど、配信を考えると土曜の夜がいいよね? 明日は確実に仕留められるように、少し弱らせる程度で今日は勘弁してやるぢぇ」


「銃があれば簡単よ」


 チュプちゃんが気軽に答えるが、僕は心配してる。


 なにしろ相手はドラゴンだよ?


 銃ではなく、僕たちが本当に用意しなければいけなかったのは大砲とかミサイルじゃなかったのか?



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