生配信やってます!
大きな森の中にある、小さな集落の外れの丸太小屋に僕はいる。
見た目は……ちょっと小さい、いや幼い……いまの僕は茄風音乃、小学5年生。
黒髪を三つ編みにした、いかにも日本の女子小学生が大自然の中でなにをしているかというと、不細工な鉄パイプの一方に小石を無理に押し込んで塞ぎ、もう一方から黒い粉を注いでいた。
さらに鉄パイプより一回り小さい丸い小石を葉っぱで包んで黒い粉のあとに押し込む。
その鉄パイプの根元近くに開けた小さな穴に火縄を近づけていった。
「こういうときだけ急に神様を信じたくなって、お願いしたくなるのはなんでかなー? 神様いたら、なんとかしてくれるかなー?」
いる派といない派がチャット欄でプロレスをはじめるけど結論は出ないよね。
まあ、いたとしても僕個人の願いをわざわざ聞き届けるほど暇でもないだろうし。
自分でやれ、というコメントが正論かもしれない。
「だいじょうぶなのー、今度は成功するのー」
自分のやっていることは信じている――方向性は間違ってないはず。
「通算39回目の失敗って、数えなくてもいいのー!」
コメントに突っ込みつつ、穴に火縄を押しつけた。
バンと破裂音がして、手が痺れ、耳がキーンと鳴った。
同時に視界の下に『火縄銃のレシピを取得しました』という表示が浮かぶ。
「やったかなー? やったよねー? ねぇ、おにいちゃん?」
視界の右隅にあるチャット欄でコメントがものすごい勢いで流れはじめた。
茄風音乃にはお兄ちゃんが15000人くらいいる――お姉ちゃんもいるけど、そんなに多くはない、と思う、たぶん。
『
なすお 音乃はいったいどこを目指しているんだ?
茄可愛い 銃のレシピおめでとう
sdo ガンスリンガーJS爆誕!
マイク 使ってみて
騾馬r ファンタジーで銃は草
「いいんだよー、銃使ってもねー」
だけど、コメントにはファンタジー世界に銃を持ち出すのを否定的にとらえていそうなものもある。
「ファンタジーの世界で銃はロマンだよー」
すると運動神経が鈍いみたいな反応が返ってきた。
まともに武器を使えない、と後方で腕組みしながら批評しているようなコメントも。
実際に後方で腕組みしているおじさんがいるのかもしれないけど。
「ボクだって剣くらい使えるよー。お兄ちゃん、ひどいよー。弓も、槍も、ちゃんと練習したら達人になれるからー。無理無理って、そんなこと言わないでー」
言い返すけど、誰も信じてくれない。
まあ、最初のころ剣を振りまわそうとして、剣に振りまわされたからね。
お兄ちゃんたちは、まだ覚えているんだ。
家の中に戻り、工作室の作業台の前に立って、さっそくレシピを見てみると、なんと3種類の火縄銃と、それぞれの弾丸と、火縄が作れるとわかった。
「士筒というのは昔の合戦で使っていた軍用銃なのかなー? 次が狩猟用の小筒だけど、なにが違うのかなー? 士筒よりは威力が低いが、重量が軽いんだねー。最後が短筒。火縄銃タイプのピストルかなー」
どれも作業台がないと作れない――板に足を4つつければ机のレシピが手に入り、その机を板などを追加して強化すると作業台のレシピとなり、頑丈で大抵のものが製作できる万能アイテムとして必須のものだった。
火縄銃だと作業台ではなく、鍛冶場が必要な気がするけどね。それもゲームの中ということで。
インベントリから鉄と木と真鍮を出して作業台に乗せてレシピの中から士筒を選択すると、カンカンカンと効果音が響き、すぐに完成品の火縄銃が現れた。
いままでの苦労はなんだろう? と感じる手軽さだけど、このへんのゲームだ。
レシピが手に入れば、あとはオートでやってくれる。
「見て? 見て? お兄ちゃん、火縄銃できたよー? 士筒だよー。ボク、文明を1つ進めちゃいました?」
コメント欄が拍手で埋まる。
すごく嬉しい。
この『ドラゴンワールド・フロンティア』は没入型VRゲームで、まあ、要するにファンタジー的な異世界に転移するというものだ。
そういうゲームだと剣と魔法の世界を想像するし、実際そういう要素は強いんだけど、このゲームのスタート地点は無人島。
ゴブリンからドラゴンまでいる異世界の島になにも持たずに移転してきて、食料を集め、魚点を作り、武器や防具を用意するサバイバル生活からはじめなければならないのだ。
基本的にはオープンワールドだからプレイヤーは自分のしたように行動すればいいのだけれど、無事に無人島を脱出できるまで文明レベルを上げ、大陸に移動できるようになると王国があったり、冒険者ギルドがあったりするらしいし、さらに大陸の奥地には人跡未踏の魔境があって、さらに厳しいサバイバル生活ができるらしい――いま僕たちのいる無人島、メモワール島と名付けられているけど、まだまだ海を渡るレベルには達してないが。
現在はがんばってサバイバルをしつつ、文明レベルを上げている最中だけど、もちろんゲームだから本当の無人島に漂着したときのようなサバイバルとは違う。
モンスターを倒せば戦闘系のスキルか、そのモンスターを素材とする生産系のレシピか、どちらかがランダムで入手できる。
例をあげるとドラゴンを剣で討伐したら新しい剣技か、魔法で討伐すれば新しい魔法が手に入るか、あるいはドラゴンの皮を素材とした革鎧とか、骨を素材とした魔法の杖とか、そんなものが作れるようになるのだ。
剣技や魔法をスキルと総称し、生産系のものはレシピと呼ぶんだけどね。
まあ、ドラゴンは無人島における生態系の頂点、いわばボスなので、最初のうちはゴブリンなどの弱いモンスターをちまちま狩っていって、スキルやレシピを集めていって、より上位のモンスターと対峙することになるわけ。
これが王道だけど、もちろんゲームだから他にもスキルやレシピの入手方法はある。
一番早くて確実なのは課金ガチャ。
ガチャをまわせばせまわすほど強いスキルや便利なレシピが入手しやすい――しやすいだけれで、絶対ではないけど、モンスターをプチプチ倒していったり、自分で試行錯誤しながら生産をやるよりはずっと手軽だ。
やっぱり、集金システムは大切だよね。
プレイヤーのほうでも気に入ったコンテンツが長続きするように、お布施をしたがる人も多いし。
ゲームの運営会社に貢げば貢ぐほど強いスキルやレシピがいただけるのは資本主義社会の常識でもある。
あとは没入型VRゲームだからプレイヤーの能力を反映させることもできた。
いわゆるプレイヤースキルというやつ。
魔法はともかく、剣技はプレイヤーに心得があればスキルがなくても難技を使えるらしい――剣では戦えないと銃を開発している僕には関係ない話だけど。
生産系だと、木の枝と、長細い石と、ツタなど紐として使えそうな植物を拾い、その木の枝に石を括りつけ、実際に石斧らしきものを作るのだ。
それで丸太に叩きつければ石斧のレシピを取得できる。
なんとなくでかまわないから形にして、それを『使う』とレシピを手に入れることができ、簡単なものならそのまま、難しいものだと作業台の上に材料を並べるとカンカンカンと効果音が鳴って――レシピで石斧が簡単にできて、しかも石の真ん中には四角い穴があいていて、木の枝ではなくちゃんとした柄がついた、本物の石斧だ。
自作のものとぜんぜん違うじゃん! と突っ込みを入れたくなるけど、まあ、そのあたりはゲームということで。
あまりリアルに寄せてしまうと難易度が異常になるからね。
モンスターを倒してドロップするレシピは基本的に、そのモンスター関連に限られるけど、自作ならファンタジーの枠におさまらないものでも製作可能――ゲーム会社が設定しているアイテムに限るけどね、もちろん。
銃も設定されていて製作可能だけど、現状では銃のレシピをドロップするモンスターは確認されてなかった。
自分で攻略したいのでネットの情報はあまり見ないようにしているんだけど、パドルがあまりに苦手すぎて、しかたなく調べたんだよ。
まあ、ひょっとしたら将来どこかで銃を使うモンスターが出現する予定なのかもしれないけど。
つまり僕は粗雑というか原始的というか、とにかく鉄の筒と火薬で弾を発射させることに成功して、アイテムとして設定されているがモンスタードロップはしない火縄銃のレシピを上手く手に入れることができたのだ。
ついでに火薬も弾丸も火縄も余分に作っておいた。
「どうする? どうする? 試し撃ちもいいけど、せっかくだからモンスターを倒しにいきたいかなー?」
「いこう!」
ビューアーである、お兄ちゃんたちに向けた質問だったのに、いきなり幼女声が聞こえてきた。
チュプ・ラララはハーフリングなので身長は1メートルもない。
ふわふわの金髪と輝くような碧眼が特徴の、天使みたいな外見をしている。
ところが、見た目はロリ大喜びなのに、しゃべるとエロネタ、下品ネタなど、とっても残念な女の子だ。
「さあ、チュプと一緒に冒険に出かけよう! はい、これ装備」
「これ……作ったのかなー?」
「そうそう、音乃のための最強装備」
「どう考えても最強には見えないんだけどねー?」
「ううん、これ、最強」
圧をかけるような強い視線を向けられる。
チュプちゃんは戦闘系だと魔法スキルを集めていて、生産系では革細工や縫製を中心にやっていた。
で、そんな彼女が僕のために作ってくれた最強装備というのは?
なにかのモンスターの革を赤く染めて製作されたランドセル。
ファンタジー世界で銃を作っている僕が言うことではないかもしれないけど、ドラゴンのいる無人島で赤いランドセルって?
おかしいよね、絶対おかしいよね。
しかも一緒にくれたのが、どこかで集めてきた糸を織って黄色く染めた布で作られた通学帽。
小学5年生らしい装備ではあるけど、ファンタジー世界でモンスター討伐に適しているとはいえないだろう。
通学帽が黄色なのは視認性がよく、交通事故などを防ぐためだと思うんだけど、こんなモンスターだらけの場所で目立ったら狙われるだけ。
チュプちゃん、もしかして僕を殺しにきた?
どうせゲームだから何度でも復活できるし、このゲームはデスペナが軽めだけど、それでもモンスターに食べられたくはないんだよ。
だけど、僕の意見は多数決により否決される。
「黄色の通学帽と、赤いランドセルはJSにとって至高の付属品。ビューアーのみなさんも大喜びする最強最高装備だよね?」
チュプちゃんの言葉を裏書きするように、チャット蘭のコメントが沸き立つ。
はっほぺ 最強最高装備
太陽印 最強最高装備
ガチ勢さとう 最強最高装備
vvv 最強最高装備
hase 最強最高装備
「残念なのはソプラノリコーダーがまだなんだよ。赤いランドセルから突き出したソプラノリコーダーは必須装備」
わざとらしく溜息をつくチュプちゃん。
ばば神― 必須装備
enjyo 必須装備
鑼え門 必須装備
円子 リコーダー待ってます
新のすけ ランドセルにはリコーダー、これはガチで必要
チュプちゃんもビュアーも全員が解釈一致かよ!
まったく気持ち悪いお兄ちゃんが多くて困るよ。
もっとも、もっと気持ち悪いお兄ちゃんもいて、裸でランドセルとか、欲望を丸出しにしたコメントもいくつか流れるが、全部無視。
リアルの世界で女子小学生にそんなこと言ったら逮捕されかねないライン越えの発言も、なぜか僕たちだったら問題ないと勘違いしているお兄ちゃんがいるんだよね。
べつに清楚担当というわけじゃないけど、いまの僕は女子小学生ぞ?
下ネタ担当はチュプちゃんだし。
しかも、自分から勝手に汚れにいったエロ担当なんだから。
エロ系を喜ぶ人もいるけど、喜ばない人だっている。
どこまでのラインなら許されるとかではなく、そもそも下ネタそのものを嫌う人も多いのだ――そういうものを求めるならR18のサイトにいけばいいし。
年齢制限のない枠でギリギリのエロをやってみせたところで、年齢制限のあるものには勝てないのだから、ここは触らないようにするほうがいいと思っている。
だから、そういうコメントは見なかったことにして、ランドセルを受け取った。
「わかったよー、ありがとう」
「お礼はいらないから。チュプの趣味だし」
いきなりチュプちゃんがギユッと抱きついてきた。
コメントが早すぎて目が追い切れない。
変態のお兄ちゃんも多くて困るよ。
「ボクもあげるものがあるよー」
チュプちゃんから離れて作業台のところにいき、さっきと同じように士筒を製作する。
「はい、これねー」
銃と、弾丸と、火薬を差し出した。
予想通り――いや、もっと驚いてくれた。
「これって鉄砲?」
電流でも浴びたかのように背筋が伸びて、髪が逆立っている。
「どれくらい使えるかわからないけどねー」
「ねえ、これでワイバーンを狩れない?」
「あんな大きなモンスターに撃っても、そんなダメージにならないと思うけどねー」
「前に調べたんだけど、距離があると敵だと思わないみたい。魔法や弓の最大射程だとギリギリ認識範囲内なんだよね。これだと、もう少し遠いところから撃てるんじゃない? ワイバーンの認識外から鉄砲でチクチクHP削っていけないかな?」
「ボクは試射したいだけだから、やってみてもいいけどねー」
「それなら決定ね、早くいこう」
チュプちゃんが僕の手を握って、家の外に連れ出す。
そのまま手をつないで森を歩いていき、いまわかっているワイバーンの巣を目指した。
結論からいうと2人でワイバーンを狩ることができた――チュプちゃんの情報は正しく、離れたところから撃てばワイバーンは反撃してこなかったし、ダメージ量はそれほど多くなかったけど、一方的に攻撃できて反撃はゼロだからね。
時間がかかるし、火薬や弾丸の消費も多いけど、いままで勝負にならなかったワイバーンを狩れたのは大きい。
空中に逃げられるとダメージをあたえること自体が難しくなるし、強い魔法を集めたり、レベルを上げていくしかないと思っていた。
同時に弓みたいな遠距離武器の改良もね。
だけど、これで時間と資材があれば簡単に狩れるようになったのだ。
火縄銃を使ったから、討伐でもらえたのは対空射撃として攻撃スキルだった。
チュプちゃんのほうはワイバーンの革を素材とする胸当ての生産レシピ。
うん……今後は銃をメインウエポンにするなら対空射撃は悪くないスキルだけど、革細工のレシピも増やしたいんだよね。
火薬と弾丸を大量に製造して、もう何頭かワイバーンを狩るしかないな。
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