2 なにしてるの? そんなところでさ。
なにしてるの? そんなところでさ。
「本当にこんな場所に燕はいるのか?」
空を覆うどんよりとした灰色の雲を見て幹はいった。
「さあ、知らないよ。でも、たぶん、お兄ちゃんはいるんじゃないかな?」
幹の横を歩いている燕の妹、小竹鳩がそういった。
「お前、さっきからそればっかりだな。たぶん、たぶんってさ、嘘でもいいから絶対にいるって言えないのかよ? 燕の手紙にはそうだって書いてあるし、それに燕の気配はこっちからしてるんだろ?」
鳩の目を見て、幹は言う。
「絶対になんて言えないよ。お兄ちゃんの気持ちは、……ううん。きっとほかの誰かの気持ちは他人には、あるいは本人にだって、たぶん、よくわかっていないんだからね。それにお兄ちゃんの気配も、昨日の雨で随分と流されちゃっているし、たぶんでも、こっちのほうだって方向がわかるだけ、幹さんには私に感謝してほしいけどね」
ちょっとだけ怒ったような、あるいは少し呆れたような口調で鳩は幹にそういった。
「悪かったよ。もちろん感謝はしてる。こうして少しでも燕の近くに向かうことができているんだなって、お前と一緒で、実はそう僕もなんとなく感じるんだ。この先に燕の気配を感じる」うんうんと頷きながら幹は言う。
「それはただの気のせいだよ」鳩は言う。
そんな鳩の言葉を聞いて、幹は笑う。
「そうかもしれない。でも別にそれでも構わないんだよ。僕がそう感じるのは、本当のことだから」
昨日からずっと続いている灰色の空模様を見ながら、名前も知らない早朝の薄暗い山の中を歩いている幹は笑顔で、自分と同じ境遇にいる鳩にそういった。