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姫子

「前世の記憶ぅ?」


 翔馬君はマイクを持ったまま叫ぶのでその声がカラオケボックス内にこだました。


「そう。あの古遠部さんって子にはそれがあって、僕を前世のフィアンセだと思っているらしいんだ」

「マジかよ!? それはすごいな。ウケる」


 翔馬君はおかしそうにゲラゲラ笑う。でもバカにした様子ではなかった。

 そういうところが翔馬君のいいところだ。


 今日は翔馬君に誘われて二人でカラオケに来ていた。

 ほとんど毎日のように放課後は古遠部さんと帰っていたけど、今日は友達と会うからと断った。

『その友達ってスカート穿いてないよね?』と訊いてきた顔は、あまり冗談を言っている顔ではなかったのを思い出す。


「その古遠部凛音って子、すごい美人なんだろ?」

「うん、まあ……」

「じゃあ拓海も記憶ある振りして付き合っちゃえよ」

「それはちょっと申し訳ないでしょ」

「なんだよ。相変わらず真面目だなぁ。グズグズしているとヤバいぞ。その子に前々世とか前前前世の記憶が甦って、その時のフィアンセの生まれ変わりの男に取られちまうかもよ?」

「さすがにそれはないでしょ」


 笑いながらも少し焦る僕をからかうように、翔馬君は前々前世からの運命を称賛する曲を歌った。


 カラオケのあと、二人で駅前を歩きファストフード店を目指していた。

 そのとき前から古遠部さんが歩いてきた。


「あ、古遠部さん」

「わあ、拓海君、偶然だね! いま帰り?」

「うん。今日は翔馬く──姫野先輩とカラオケに行ってて」


 隣でニヤニヤする素行の悪そうな幼馴染みを紹介する。


「君が凛音ちゃん? はじめまして。俺は姫野翔馬。同じ学校の三年。拓海とは幼馴染みだ」

「一年の古遠部凛音です。私の方こそいつも拓海君に──」


 頭を下げようとした姿勢のまま古遠部さんが固まり、驚いた顔で翔馬君を見詰めていた。


「ひ、ひめ!?」


 突然裏返った声をあげた古遠部さんは僕の腕を掴んで引っ張り寄せてきた。

 姫野翔馬の悪評は古遠部さんにも届いていたみたいで、かなりの焦りようだ。

 しかし次の瞬間、僕たちは耳を疑う。


「姫子がなんで拓海君と一緒にいるわけ!?」


 僕も翔馬君も唖然とした。


「ひ、姫子? 俺が?」


 戸惑う翔馬くんを睨み付け、古遠部さんが当然だと言わんばかりの顔で頷いていた。


 なんだかとてもややこしいことになりそうな予感がした。



 

「えっと、じゃあ話をまとめると……」と言いながら翔馬君が頭を掻く。

 ファストフード店の片隅で僕たち三人は声を潜めて話をしていた。


「俺が前世で姫子って名前で、拓海の前世である哲也に片想いをしていたってこと?」

「片想いだけじゃない。私を敵視して嫌がらせもしてました」


 しらを切るなと言わんばかりに古遠部さんは翔馬君に詰め寄っていた。

 たとえそれが本当だとしても、今の翔馬君には関係ない。完全な濡れ衣だ。


『どういうこと?』という顔で翔馬君は僕に助けを求める視線を向けてくるが、僕もどういうことなのかさっぱりわからないので助けようもない。


「まあ、分かった。じゃあ仮にそうだったとして、それは前世の話だろ? 今生の俺はそんな記憶がないから関係なくね?」

「とぼけないでください。記憶がないならなんでちゃっかり拓海君に近付いてるんですか?」

「だからそれは幼馴染みだからだよ。僕と翔馬君は子供の頃からの親友なんだ」


 もう何回目になるか忘れるほど繰り返した説明を、翔馬君の代わりに僕が答える。


「拓海君は黙ってて。これは私と姫子との問題なんだから」


 相当根深い問題なのか、僕の仲裁も跳ね返される。

 こんなに感情を荒らげてる古遠部さんを見るのははじめてだった。


「つーか俺は男で拓海も男だ。その時点で前世がどうとか言う前にあり得ねーだろ?」

「そんな考えは時代遅れで差別的ですよ。色んな愛のかたちがあるんですから」

「はぁ……勘弁しろよ」

「そうだよ、古遠部さん。翔馬君は色んな女の子と付き合ってて、無類の女好きで有名なんだから」

「……拓海、それあんまフォローになってない」


 そんな僕らのやり取りもいちゃついてると認識したのか、古遠部さんは眉をひそめる。


「そもそもなんで男の俺が姫子とやらに見えるんだよ。絶対なんかの間違いだろ」

「見えるの。あなたの頭の上辺りに前世のオーラが」

「き、気味の悪いこと言うなよ」


 翔馬君は慌てて頭上を手で払った。霊が取り憑いているみたいな勘違いをしているんだろう。


「とにかく拓海君に近寄らないで。私たちの邪魔をしないで」

「それはできないよ、古遠部さん」

「拓海君……」

「前世を否定したり、間違っているとは言わないよ。でも僕と翔馬君は幼い頃からの親友だ。今後会わないとか、関わらないとか、そんなこと出来るわけないよ」


 真剣に伝えると古遠部さんは肩を竦めて「言い過ぎました。ごめんなさい」と翔馬くんに謝る。


「いやまあ、別にいいけど……」


 翔馬君はどう反応していいのか分からないような、曖昧な顔で頷く。


「ちなみに姫子、姫野さんは本当に前世の記憶はないんですか?」

「ないよ。あるわけないだろ」

「じゃあなんで拓海君とそんなに仲がいいんですか? 幼馴染みっていっても年下だし、周りには他の友達もいたわけですよね?」

「そう言われてみれば……」


 翔馬君は突然思案顔になり、首をかしげる。


「なんか拓海といると落ち着くというか、他の奴とは違うなって気はしたかな?」

「あやしい……」

「別にそんなんじゃねぇよ。気が合うだけだろ」

「ふぅん……そうですか」


 いつもは穏やかで優しい古遠部さんなのに翔馬君に対してだけはやけにて厳しい。

 よほど前世で犬猿の仲だったのだろう。


 元々ややこしい状況がさらにややこしくなり、頭が痛くなってきた。


意外なライバル登場です!

もちろん恋の障害にはなりません!

一方的に古遠部さんが敵視するだけです!


お陰さまで日刊現実恋愛ランキングが上がってきました!

皆様の応援、本当にありがとうございます!

これからもよろしくお願い致します!


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