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テーマパークへ

 凛音さんのお陰で無事中間テストも乗り切ることが出来た。

 ちなみに彼女は学年で断トツの一番の成績だった。


「凛音さんのおかげで補習も免れて助かったよ」

「どういたしまして」


 凛音さんはにっこりと笑ってアイスティーをチューッと吸った。

 今日はまっすぐに帰らず、家の近くの喫茶店に寄っていた。

 僕が子供の頃からよく来ていた店で、一度凛音さんを連れてきたら気に入ってくれたからたまにこうして二人で来ている。


「今日は勉強を教えてもらったお礼だからもっと高いもの頼んでもよかったのに」

「ちゃんと自分で払うよ。そんなことにせっかくの拓海くんのお礼を使うのはもったいないもん」


 にまっと笑う顔が可愛いけれど恐ろしい。


「え、なに…なんかお願いとかあるの?」

「えへへ。わかっちゃった? 以心伝心ってやつかな?」

「違うと思うけど……」


 話の流れから考えたら誰にでも分かりそうなものだ。


「今度の休みに遊園地に行きたいなぁって……ダメ?」


 凛音さんは断られないか不安そうな顔で訊ねてくる。

 こんな顔をされて断れるほど冷徹な人間ではない。

 しかし気になることはあった。


「その遊園地ってもしかして前世の記憶が関係してるの?」

「うん。さすが拓海くん。なんでもお見通しだね」


 凛音さんは照れくさそうに笑った。


「別にそこでもいいけどさ。なにも過去の思い出の場所ばかり行かなくてもいいんじゃない? 新しい思い出を作るのは嫌?」


 さりげなく言うつもりだったけど、緊張で声が震えてしまった。

 驚いた顔をした凛音さんは見る見る顔が赤くなっていく。

 そういう僕もやけに顔が熱かった。


「い、いや、別にいいんだよ。昔の思い出のところでも。勉強を教えてもらったお礼なんだから凛音さんの好きな──」

「新しいとこがいい」


 凛音さんはテーブルの下で僕の指先をきゅっと握り、俯き加減で呟いた。


「拓海くんが選んで。そこに行くから」

「う、うん。わかった」

「あ、でも水族館とかダメだよ。魚のいない、ちゃんとした遊園地だからね」

「分かってるよ」


 嬉しさと気恥ずかしさで目をそらす。僕ははじめて過去の自分に勝った気がした。



 僕が選んだのは臨海地区にある大規模なテーマパークだった。なんの捻りもないがデートといえば定番といえるスポットだし、なにより僕の前世の頃は間違いなくなかったということもよかった。


「うわぁテンション上がるなぁ」


 入場ゲートを抜けてすぐにあるアーケードのショップエリアで既に凛音さんのテンションは最高潮に達していた。


「わー、見て! あのぬいぐるみ、可愛い!」

「いきなり買い物?」

「まずはパーク内を歩くためのグッズを買わないと!」


 通りすぎようとする僕の手を握り、店内へと引っ張られる。

 気軽に手を繋いでくるが、そのたびに僕の心臓は早鐘を打っていた。


 パーク内にあるポップコーンを買うときに入れてもらう容器と帽子を購入した。

 僕はサメのデザイン、凛音さんはお姫様ティアラのカチューシャだ。

 このテーマパーク内以外では百パーセント使うことがないだろう。


 ここは世界各地をテーマとした遊園地で、ヨーロッパ、アメリカ、アジア、アフリカ、南国リゾート、アラビアンなどのエリアに分かれている。


「混む前に人気のアトラクション乗っておこうか」

「えー? 普通最初はメリーゴーランドでしょ!」

「え、そうなの?」

「そうだよ。知らなかったの?」


 当然とばかりに凛音さんはメリーゴーランドのあるヨーロッパエリアへと向かう。

 煉瓦造りの街並みに石畳の道は本当にヨーロッパに来たのかと錯覚するほど本格的だ。もっとも僕はヨーロッパに行ったことはないのだけれど。


 噴水のある広場にメリーゴーランドはあった。

 クリスマスが近くなるとやって来る移動式の遊園地みたいな陽気さがある。

 さほど混んでいないのですぐに僕たちの番になる。


「馬車に乗る?」


 シンデレラのために誂えたようなお洒落で可愛らしくきらびやかなものだ。


「それもいいけどやっぱり私はこれかな」


 立派な白馬の首筋をぺちぺちと叩く。


「え? 馬なの? でも」


 凛音さんはスカートだ。それほど短くはないが、それでも木馬に跨がるのはちょっと危険な気がした。


「拓海くんはそっちの馬ね!」と凛音さんはひょいっと馬に跨がる。

 フワッとスカートが翻り、タイツに包まれた脚が露になる。


「わわっ!?」


 隠すように前に立ったが、僕はその奥のパステルカラーの布地が見えてしまう……ギンガムチェックだった。


「ぱ、ぱんつ、見えちゃうよ」

「え? 嘘!? 見えた?」


 ブンブンと首を振る。凛音さんの顔は真っ赤だ。


「今日は黒だからチラッと見えたくらいじゃ分からないはず」


 これは罠だ。チェックだと指摘したら「やっぱり見てた」と叱られるやつだ。

 さすがにその手はもう食わない。

 知らん顔して僕は隣の黒馬に跨がった。


 古いアメリカ映画の挿入歌みたいな曲が流れ、ゆっくりとメリーゴーランドは動き出す。


「競走だからね、拓海くん」

「競走って……そういう乗り物じゃないだろ?」


 ポールに掴まってにっこり笑う姿は反則的に可愛い。

 こんな美少女と遊園地に来るなんて、つい数か月前までは考えたこともなかった。



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