試験勉強
連休が終わると高校最初の学力試験、中間テストが目前だった。
釣りばかりで全く勉強をしていなかったことが今になって悔やまれる。
「どうしたの、拓海くん」
放課後の帰り道、凛音さんが心配そうに訊ねてきた。
「試験、もうすぐだろ? 全然家で勉強してなくて」
「なぁんだ。姫子になにかエッチなことされたのかと心配しちゃったよ」
「……どういう心配してるんだよ」
凛音さんはいい人なんだけど、翔馬くんに対してだけは本当に残念なライバル心を燃やしている。
「中間テストなんだし、そんなに深刻に受け止めなくてもいいんじゃない?」
「でも赤点取ったら補習あるし、休みの日に宿題かなり出されるって言ってたし。釣り出来ないよ」
「心配しなくても授業で出た範囲だけだから大丈夫」
「それが難しいから困ってるんだろ」
「え?」
本気で驚いた顔をされる。
「難しい、かな?」
「凛音さんは簡単なの?」
「割と……」
どうやら彼女はかなり高い学力があったのにも拘わらず僕と同じ高校に入学したらしい。だからうちの学校で教わることは既に中学の時に勉強していたらしい。
「よし、分かった! じゃあわたしが教えてあげるから!」
「いいの?」
「もちろん! それも妻の勤めだから!」
婚姻関係になった記憶はないが、つっこまずにおく。今は勉強を教えてもらう方が重要だ。凛音さんの機嫌を損ねてはいけない。
凛音さんは頭がいいだけでなく、教え方も上手だった。
僕が分からない問題があると何に悩んでいるのかを上手に察知し、そこをうまく解説してくれる。
その点はとても感謝している。
が、しかし──
「今度はこの問題? ここはねぇ」
前屈みになると胸元が開き、その奥の膨らみがチラチラと見えて気が散って仕方なかった。
「ちょっと聞いてるの、拓海くん」
「え、あ、うん」
慌てて視線をさっとそらしたが、その仕草でむしろ胸を見てしまったことに気付かれてしまった。
「ちょっ!? いまおっぱい見てたでしょ?」
「み、見てないよ!」
「もう、エッチなんだから!」
ぱちんっと肩を叩かれる。
ぐいぐい来るわりに凛音さんは照れ屋だ。
「まあ拓海くんも高校生だからそういうのに興味あるのは分かるけど」
「誤解だって!」
「興味ないの?」
「いや、そう面と向かって訊かれても……」
返答に困る質問この上ない。
「あっ!? もしかして女性に興味ないとか!?」
凛音さんの表情がサーッと青ざめる。
「ということはやはり姫子が……」
「違うから! 全然違う! 女の子に興味津々だから!」
「それはそれで引きますけど」
少し引き気味の姿勢で冷たい目で睨まれる。なんて答えてもハズレの選択肢しかないクソゲーだ。
「そんなに見たいなら……見せてあげよっか?」
「えっ!?」
「ちょっと待っててね」
「ちょっと凛音さん!?」
そういうと彼女は部屋を出ていってしまった。
見せてくれるって……どう言うことだろう?
てかそういうこと、なのだろうか?
緊張して正座をして待っているとコンコンっとドアをノックする音が聞こえた。
「は、はいぃい!」
「入るよ?」
ドアを少しだけ開き、顔だけ出してくる。緊張のあまりその顔は真っ赤だった。
「う、うん……」
かちゃっとドアが開くと水着姿の凛音さんが現れた。
細い身体なのに強調されるべきところは強調されている。
水着かよっという気持ちと、水着でよかったという気持ちが入り乱れた。
「裸で来ると思ってたでしょ?」
「思ってないし!」
「へへー。残念でした。それはまた、結婚してからね」
舌を出して笑う姿は天使のようだ。
結婚以前に僕たちは付き合っているのかという質問がしたかったが、このタイミングで言うとなんか下心があるみたいで言えなかった。
「この水着、今年の夏に拓海くんと泳ぐときに着ようと思って買ったんだ」
「よく似合ってるよ」
「ありがとう。楽しみだね」
「でも海に行くなら泳ぐより釣りがいいな」
「もう! すぐそれなんだから!」
海には毎週行っているが、泳ぐのは何年ぶりだろう?
そんなことを考えていた。




