表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

1/16

ひさしぶり! はじめまして

 広い体育館も狭く感じるほどパイプ椅子が並べられた入学式。

 多少の緊張と新しい生活の期待を胸に座っていた。


(希望の高校に入学できたけど、うまく馴染めるかな?)


 そんな不安に感じていると、斜め前に座っていた女子が振り返って僕を見た。


(うわぁ……きれいな女の子だな……)


 パッチリと大きく柔和な瞳、明るい性格を感じさせる広角の上がった口許、艶めく長い黒髪。

 あまりの美少女ぶりに視線が釘付けになってしまった。

 と、そのとき──

 彼女はニコッと微笑んで意味ありげな視線を送ってきた。

 隣や後ろではなく、確実に僕のことを見ている。


(えっ!? 誰!? 知り合いにこんな可愛い子いたっけ!?)


 記憶を探るが当然こんな美しい知り合いはいなかった。

 声を出さずに口をパクパクさせて僕になにか伝えてきているがさっぱり分からない。

 あやふやに笑って頷くと満足した様子で頷き返された。


(えっ? な、なに? )


 戸惑っているうちに彼女はまたくるりと前を向いてしまう。

 長い髪がさらりと揺れ、光を艶やかに反射させていた。




 入学式を終えて教室に入るとザワザワと盛り上がっている。

 四月特有の、周りの反応を確認しながらの辿々しい盛り上がり方だ。

 こういうとき無理していきがると五月には黒歴史になるのを僕は知っている。


 席について高校生活の心得という堅苦しいパンフレットを読む振りをして教室内を観察する。

 何事も最初が肝心だ。

 悪目立ちしないように心掛け、無害そうで気の合いそうな男子と友達になる。そう決めていた。


「あっ……」


 教室内には先ほど入学式で見掛けた美少女がいた。

 まるで僕が気付くのを待っていたかのように、じっとこちらを見詰めていた。

 目が合うと彼女は立ち上がり、僕に近づいてくる。


「久し振り。はじめまして」

「えっ……」


 日本語として完全に破綻している挨拶をされ、呆気にとられる。

 周りのクラスメイトたちも何事かと僕らに視線を向けていた。


「あ、あの……どこかで──」

「またあとでね」


 いたずらをする女の子のような含みのある笑顔を浮かべ、手を振りながら女子グループに戻っていく。


(誰だっけか、あの子……)


 もしかして僕は記憶喪失になってしまったのだろうか?



 自己紹介を兼ねたホームルームで彼女の名前が『古遠部(ことおべ)凛音(りんね)』だということが分かった。

 変わった名前だし、やはり記憶にない。


『またあとでね』と言った割にはホームルームが終わるとすぐに彼女は教室を出ていった。

 恐らく人違いに気付いて気まずくなったのだろう。


 僕にもそういう経験はある。

 友達だと勘違いして声をかけたら全く知らない人が振り返って焦ったとか、逆に手を振られたから振り返したら自分の背後にいる人に手を振っていただとか。

 あの手の勘違いというのは相当恥ずかしい。

 何事もなかったようにスルーしてあげるのが優しさというものだ。



 靴を履き替え下校する。

 校門を出てすぐに駆け寄ってくる人影があった。


「一緒に帰ろう!」

「こ、古遠部さん」


 気まずくて帰ったのではなく、待ち伏せしていたようだった。

 断りたかったが、それより前に腕に抱きついてくる。押し付けられた胸の柔らかさに思わず硬直してしまった。

 周りの生徒たちが何事かとこちらを見てくるので慌てて駅とは反対側の方へと歩きだした。


 近くの公園にいき、ベンチに並んで座る。

 なんだかピトッとくっつくように隣に座られて緊張してしまう。


「同じ高校でビックリした?」


 いたずら成功みたいな顔で問い掛けてくる。


「同じ高校でビックリしたって言うか……」


 見ず知らずの人が旧知の知り合いみたいに接してくることに驚いているですけど……


「哲也さんが、あ、今は磯辺(いそべ)拓海(たくみ)さんがこの高校を目指してるって聞いて私も受験したの」

「は、はあ……」


 いま僕の名前を呼ぶ前に完全に他人の名前を挙げた。やはり勘違いしているんだろうか?


「ねえねえ、拓海さんはこの十五年間、どんなことが──」

「あのっ」


 このまま勘違いコントみたいなことを続けるわけにはいかない。


「悪いんだけど、たぶん人違いだと思うんだけど……僕と君は初対面だよ」

「えっ!?」


 刺激しないように恐る恐る指摘したが、古遠部さんは目を見開いて驚いた。

 ようやく勘違いに気付いてくれた。

 そう思ったが、違った。


「私のことが分からない? ……もしかして、まったく記憶が残ってないの?」

「い、いや、記憶がないと言うか……むしろ古遠部さんの記憶が怪しいというか……」

「そんな……」と顔を青ざめさせてから彼女はポンと手を叩いた。「あ、そうだ!」


 古遠部さんは髪を一纏めにして僕を見た。

 そうすると少し大人っぽく見えてドキッとする。


「ほら、これなら分かるでしょ?」

「そう言われても……」

「嘘でしょ……」

「そんなに落ち込まないで。間違いは誰にでもあるんだから」

「間違いなんかじゃありません! 私はあなたの前世の恋人の琴子です! 結婚まで約束したのに覚えてないんですか!? 」

「……は?」


 ケッコン? ゼンセ? ナニヲ言ッテルノ、コノ残念美少女……怖インデスケド……?


『前世の恋人です』と言われ、『ああそういえばそんな気がする』なんて返せるほどノリはよくなかった。

 だけど彼女が嘘をついているようにも見えなかった。


「ごめん…………よく、分かんない」

「こんなことってあるの……ひどいよ」


 古遠部さんはポロポロと涙をこぼし、肩を震わせた。


「ご、ごめん! 泣かないで!」


 慌てて肩を抱くと、古遠部さんは顔を僕の胸に押し当てた。

 その瞬間、確かに感じた。

 胸の奥が熱くなり、なにか古い記憶に触れるような感覚だ。

 僕の心が、腕が、顔を押し当てられた胸が、なにかを覚えていた。


(僕はこの人を知ってる!? 遠い昔にこうして抱き締めたことがある……)


 でもその記憶は一瞬で消えてしまった。


 すぐに体を離すのも悪い気がして、泣き止むまでその姿勢でいた。


「ごめんなさい。取り乱しまして」


 古遠部さんは恥じるように呟き、目許を拭って無理に笑った。

 元恋人ということは置いておいて、その仕草が可愛くて思わず胸が高鳴ってしまった。


 いや、駄目だ。落ち着け。

 見た目は可愛くてもこの子は初対面の人に前世の記憶とか口走っちゃうヤバい子なんだから……



甘々なラブコメです!

更新頑張ります!

ブクマ、評価で応援してもらえれば作品の糖度が増すかも!?

よろしくお願いします!


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ