第2話 バカの相手は辛いよ
「あーダルい」
4時間目の授業が終わると、俺の席は瞬く間に重くて、けだるい空間へと変貌を遂げた。
「太一もそろそろ勉強しないと期末、ヤバイんじゃないのか?」
いつも警告してやるんだが、この金山太一のやる気のなさには一向に改善の気配が見られない。
このままだとニート街道まっしぐらなのに。
「いーもん!亮太は元から勉強できるだけのくせにっ!」
太一は相変わらず理不尽な理由を根拠にして
「ぶー」と膨れている。いや、全然可愛くないんだが。
「あのなぁ、俺だってちゃんと勉強して……」
今日こそは正しい道に引き戻さねばならんなと説教を始めたところで、教室中に向けられた大きな声がそれを遮った。
「次、自衛だから特別室に移動ね!」
自衛……あまり聞き慣れない言葉だな。科目の名前だったろうか。
そんな俺の様子とは一転、太一は目をキラキラと魚のように輝かせる。あ、子供のようじゃなくて魚な。ここ、大事。
「これだよこれ!自衛なら勉強できない俺だっていい点貰えるニョロ!」
語尾がキモいのに突っ込んだら負けなんだきっと。
「自衛って……どんな科目だったっけか」
なんだか学校説明会の時に聞いた気がしたが、あいにく俺はそんなの一々覚えてるほど暇じゃないんだよ。
「え〜やぁだ奥さん!自衛って言えばこの学校の目玉じゃない!」
「で、なんだっけ?」
とりあえず近所のおばさん達の会話を再現するのはやめてほしい。太一がやるとリアルだから。
「も〜〜冷たいわね!自衛ってのは人工精霊、通称ガーディアンを使って危険が起こった時に自衛ができるようにするための授業」
確かにそんなんだったな……だがそれ以上に今はこいつの憎たらしいほどの、
「自分は物知りなんで」みたいな笑顔に瞬間的殺意を覚えるよ。
「人工精霊の授業は最先端らしくて、ここら辺じゃこの学園しかやってないらしいよ」
「おまえ勉強はできないのにこういうのは知ってんのな。最初から筆記棄てて実技で点稼ぐつもりかよ」
今思い出したが、この学園では筆記試験とは別にガーディアンを用いた実技試験があるらしい。
「まぁな。それにほら、最近は物騒だから自分の身は自分で護れないとさ」
そう言って太一は目を潤ませると
「襲われちゃうっ」とか言って自分の体を抱きしめる。
こんなのを襲うやつが現れたならそれこそ世も末だと思うんだが。
「おっと鐘だ。そろそろ特別教室に行くかにゃ亮太」 休み時間終了の鐘と共に教室にいた野郎達がぞろぞろと特別教室へと向かう。もちろん女の子もいるんだよ?
「ところで太一、特別教室ってどこ?」
教室から閉め出された俺 はふと疑問に思ったのでとりあえず聞いてみたが。
「さぁ?」
……あ、遭難した。