プロローグ 雨のち晴れ
ープロローグー
ちょっと前から氷の様に冷たい雨粒がシタシタと校庭に降り注いでいる。
「置き傘」
「ない」
「はぁ……やっぱり高村君は使えないわね」
不満げに頬をふくらませて彼女はまた憂鬱そうに俯いたままになった。
「しかし天下の白雪霙様が傘を忘れるなんて珍しいねぇ」
この一見小さくて小学生くらいにしか見えない白雪霙は、実は俺の同級生。つまり高校一年生なわけだ。 「わ、私だってたまには忘れることくらいあるのよ!た、たまたまなんだから……」 と、まぁいつもは完璧で付け入るスキが見当たらない白雪さんにもドジる時はあるらしい。
「しっかしこの雨冷たいな。いつまで降るんだろう」 さすがに体育館倉庫の前の一つ屋根の下でずっと二人きりなんてまずいだろ。いや、こいつが美少女なことや突然の雨に当たったせいで制服が透けてるとか等いろんな意味で。
「天気予報では夜中まで降るらしいわね」
「へ?」
「どうしたのよ?」
「いや、傘忘れたくらいだし天気予報見てなかったのかなって思ってたから」
「……はぅっ!」
その一秒で彼女のいつも以上に膨らんだ頬が紅潮する。いや、いつもながらわけがわからないよこの人。 「えっと……いきなりどうしたの?」
「う、うるさい!別にわざと忘れたわけじゃないんだから!」
「は、はぁ……」
なんというか、正直理不尽なキレ方だなオイ。 「忘れたふりして入れて貰おうなんて考えてたわけじゃ……はぅぁっ!」
自分で言って自分で驚く。自問自答風に言ったら、自言自驚。これが白雪さんだ。
「要するに、俺の傘に入りたかったのな」
「な、なに自信過剰のオンパレードしてんのよ!そんなわけないじゃない!高村君のカバッ!」
おうっ!カバとは……これはまた新しい罵り方。いや、違うんだ。決して罵られて嬉しいとかじゃないんだぞ?ただ毎日のことだから慣れてるだけなんだよ。 「でも折り畳み傘ならあるけど。入る?」
「入らない!絶対っ!」 ははは俺の好意が一刀両断ですよ。
「じゃあどうやって帰るんだよ。そのまま帰るのはいろいろまずいだろ」
その艶やかな黒髪は水気を帯びて流動し、見る者を危ない考えへと誘う。ように見える。ぱっちりとした両目と整い過ぎた顔立ちにはまだ幼さがあり、でもどこか深さを感じる凛とした瞳。
そんな美少女がせーふくiSすけるとんなんだから、もはや見ただけで犯罪だろ。
「高村君。この前貸した100円の借りはこの傘でいいから」
「え?俺100円なんて借りたっけ……」
しかし白雪さんは思い出す暇も与えず、俺の手から傘をひったくる。
「じゃ、おっさき〜♪」 「ちょっと白雪さんっ!俺はどうやって帰るんだよ〜!」 その俺に向けられた混じり気のない真っ直ぐな笑顔に、思わずつられて俺も笑ってしまう。だって、バカみたいに単純で、明るくて、優しくて。でも、どこか不安そうで。
そんな笑顔に思えたから。
つまらない作品かもしれませんが是非感想をお聞かせください。