ガチな”厨二病患者、鈴木の正体
昼休み終了のチャイムが鳴る。
これから、また視線の筵、自教室に帰らなければならないとは・・・・。
取り敢えず話しかけるなオーラを出しておこう。
晴は覚悟を決め、読んでいた小説を閉じた。今、読んでいた本は映画化で話題になっているSFの本である。ストーリーは、都市伝説の昔から存在していると言われている秘密機関が舞台であり、一般人である主人公が秘密機関の事故に巻き込まれ無理矢理、入隊させられたところから始まる青春スペクタクル。話の設定がしっかりしている所や身近な都市伝説という事も相まって、評判を呼んでいる。まあ、作者の力量もあるのだが。
俺も、異世界での話を書いて本でも売ろうかな・・・・
なんたって、本当の話。リアリティーは充分に出せる。
厨二っぽくて少し恥ずかしいが、最近は出版社と顔合わせしなくても本を出せるそうだ。
この本の作者も表に出ているのは、作者名だけでそれ以外は、一切謎らしい。
一回妄想し始めると、止まらない。
自分の書いた本がバカ売れして、アニメ化が決定され、世界中で大ヒット。ついには、ハリウッドで映画化なんて!まるで、ハリーポッターみたいだ。
晴の妄想は、映画が終わった後の作者の挨拶まで進んでいた。
☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆
―――――「素晴らしい作品ですね!一色先生」
「いえいえ、そんなことないですよ」
「謙遜なさらないでください!!素晴らしいですよ。質問なのですがこの作品で書くのに苦労したことは何かあるのでしょうか?」
「ええ、苦労したことは・・・・」――――
☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆
苦労したこと?・・・・なんだ?
やっぱり、リアリティーを出すための文章を書くこと?
いや、待てよ。そもそも俺は文章能力皆無だぞ。小論や作文の評価はいつだってb-。
え、じゃあ小説家とか絶対無理じゃん。
一気に現実に帰った晴は、自分の文章力のなさを思い出し、壮大な妄想を打ち切った。
ハリウッドの名の知れた煌びやかな場所から、学校の図書館へ。
なんか虚しいな・・・・
小説を片付け時計を見ると、授業開始の一分前。絶対に遅刻する。
妄想の時間が長すぎたようだ。
無論、晴に遅刻する予定はない。
絶対に遅刻する、というのはあくまで一般人だったらという事。
正規のルートでいけば、長い距離も一直線と考えればそお遠くはない。
晴は人目のない窓を探すとそこから飛び出す。
はた目から見たら自殺だと思われるだろう。それにしては、表情が明るすぎるが。
図書館は第三棟の四階に位置する。
そこから、飛び降りるというのはつまり・・・・
「よっと」
教室への一番の近道をしたともいえる。
とはいっても、まだ先は長い。距離としては、半分ほどしか短縮されていないのだ。
残りは二十秒。
「あとは、ただ走るだけっしょ」
晴はただ走った。ただ、走った。地面を駆け、時には校舎の壁を垂直に昇る。
そのスピードは、音を置き去りにして。
これならば誰に見られても平気だ。なんせ、早すぎて相手は自分が誰かなんて認識できない。いや、気付くことさえ出来ないだろうから。
間に合ったか。
結局晴は、チャイムの鳴る15秒前に席に着いた。次の授業の教科書、ノートを用意して。
教室にぎりぎりに入るのは正解だった。
なんせ、男子からの視線が強い。時間がたって熱は収まったと思ったが間違いだったらしい。
佐々木君なんて、こちらをチラチラ見てきて、視線が合うと顔を赤くする。
・・・乙女か!!
どうやら、晴の思っていた以上にスポーツが出来るというアドバンテージは、人の好感度を上げるらしい。ほとんどの視線は、興味や憧れだ。
だが、実は男子のそれらは問題ではない。
少女鈴木、基“ガチな”厨二病患者がこちらに殺気を送っている。
晴は、少女鈴木以下略称への印象がまた変わったと感じる。少女鈴木以下略称が放っている殺気は、素人が放つそれとはまったく違う。本物である。
相当な経験をしなければ出せないそれ。
少女鈴木以下略称の周辺の生徒は、寒気と本能的恐怖で涙目になっていた。
この女、鈴木以下略称、一般人じゃない?
プロの格闘技家とか、そんな感じの者か?
まあ、この時点で分かっていることは、少女鈴木以下略称は、“ガチな”厨二病患者であり、それなりの経験をした手練れである、という事。
いや、待てよ。それなりの経験で現実を分かっているにも関わらず、それでも尚“ガチな”厨二病患者、だと・・・・・・・
ま、まさかこの少女鈴木以下略称はマジもんなのか?
本当に、この少女鈴木以下略称は――――――――――
マジもんの変人なのか!!!!!??????
“ガチな”厨二病患者の上をいくマジもんの変人、又は変態。こいつら一時期の自己のアイデンティティーによるものではなく、生まれたころからねじ曲がった性質を持っている。
常人とは違った感性やルールを持つ彼らは、国籍は一緒でももはや外国人と言っていいほど言葉と常識が通じない。
こんなところに変人がいるとは・・・・・
よく、周りにばれていないな・・・・・
もしかしたら二面性の激しい変人なのかもしれない。
とは言え、変人の多くは悪意があるのではないが、そのおかしな行動によって、人に嫌悪感を与えてしまう可哀想な人種である。
迷惑ではあるけれど、悪意がないのなら人間関係を作っても構わない。
これからは、もうちょっと優しく接して上げようと決めた晴なのであった。