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すみません。厨二病がうつるので近寄らないでください

 



 そして始まったバスケのゲーム。

 晴は、高ぶっていた。中岡の勇士に感化されたのかもしれない。

 だから、久しぶりに、目立ちたくない、という自分のポリシーを吹っ飛ばしてしまった。


 勿論、最初は我慢したがやっているうちに、血が滾ってしまったのだ。


 一般人離れまではしていなかった、と晴は思う。

 ただ、鍛えられた動体視力と足さばきで、バスケ部達の間をすいすいとすり抜け、そのままダンクシュートを決める。ダーン、と音が響き、脳筋男、基体育教師と生徒が驚愕の顔を表した。

 それでも、晴は少し力を開放できて楽しく、そんな様子など見えずにまた動き出す。



 しまった。ダンクシュートより3ポイントシュートの方が良かったよな。



 もう、晴の独壇場である。

 相手のボールを脅威の速さで奪い取って、そのままゴール。全ての球がゴールに吸い込まれる。

 相手のチームも、初めは戸惑い動けなかったが、状況を理解してからは一斉に晴に向かってくる。それでも、なお晴はそれらをすり抜け、ゴールを収めた。



「お、おーい。一色!!仲間にボール回せよ!!」



 慌てた先生の言葉を聞き、やっと一人で戦っていたことに気付いて、興奮を抑えきれないまま味方にパスした。


「佐々木、パス!」


「ぅえっ!?…………う、うわぁぁああああ!!!!!」



 良い位置にいた仲間は、晴のボールを受けてそのまま後ろに吹っ飛ぶ。

 興奮したまま投げた晴の球は、もはや砲弾なみの威力を持つ。


 そして、やっと少し力を出し過ぎたと気付いた晴は、ケガさせないよう佐々木を受け止めた。

 そう、受け止めたのだ。

 コートの右側にいた晴が一瞬で佐々木のいる左側のコートへ。


 一瞬のことで。


 体育館から言葉が消えた。


 誰かが、呟く。



「瞬間移動?」

「すまん。佐々木、ちょっと強く投げすぎた」


 けろり、とした晴と、顔面蒼白の佐々木君。それ以外の物は、全て口を開け、現実を受け止めかねていた。


 いつの間にか残り時間は10秒を切っていて。

 自分たちがラインの内側にいる、と分かっている晴は、最後に3点と小さく呟いてからボールを相手のゴールに向かって投げる。


 晴がいるのは、自分のゴールのほぼ真下。


 普通だったら入らない。



 だけど。


 こいつなら。


 晴の人間離れした行動を見た彼らは確信する。

 きっとこのボールは、ゴールに吸い込まれる、と。



 がっしゃん。



 案の定、綺麗な放物線を描いたそれは、直径25センチの穴を通り抜けた。

 球が、地面に落ち、数回跳ねているうちに終わりのブザーがなった。


 ちっ、ブザービートとはいかなかったか。


 晴の悔しそうな小さな声は、静まり返った体育館には、良く響き。やっと、晴は自分がやらかしたことに気付く。


 全ての眼差しがこちらを向いている。

 それには、驚愕と、好奇心と、尊敬と、熱情が入り混じっていた。



 ちょっと待て!!熱情って!!!体育は、男女別々でここには男子しかいないはずなんですが!!!!!



 少しおかしな視線につっこみながらも、晴は焦っていた。

 完全にやり過ぎた。


 佐々木受け止めるとき一瞬、本気出してしまった。



 晴の同様を他所に、放心状態からいち早く帰った体育教師は、集合をかけた。



「いや、一色。すごかったな。・・・・元バスケ部か?」


 生徒全員の前で問いかけてくる体育教師。


「・・・・いえ、違います」


 晴は、嘘はつかない主義だ。いや、社交辞令では使うがそれ以外では、なるべくつかない。事件の時は、記憶喪失だと言ったが、誘拐されたなどの大きなウソよりましか、と配慮したものでもある。バレる様な嘘はつかない。


 正直に答える。



「そ、そうか・・・・まあ、元から天性の才能を持つ奴はいるもんだ」



 晴に、見抜きもされず敗れて言ったバスケ部員に配慮して、晴の化け物じみた運動能力を才能で片付けた体育教師は、その話を打ち切り、終わりの挨拶へ移った。



 晴は、考える。今後、どうしようか、と。


 まずは、今どう切り抜けようか。


 恐らく、授業が終わり私語が許されたとなると、話しかけてくる奴がいるだろう。というか、話しかけたそうにうずうずとした雰囲気が、伝わってくる。



 ……逃げよう。



 ありがとうございました、と言った瞬間晴は駆けだす。誰よりも早く。

 10%、陸上部のエース並みの速さで。



「「「「こば……」」」」



 後ろから聞こえた声は、自分の名前を言っていない。

 きっと、あいつらは「小判ざっくざく」と言おうとしたのだ。そうだ、そうに決まっている。

 きっとあの4人の生徒は偶然にも、金欠でどうしようもないのだ。

 うん。だから、俺は無視などしていないし、呼びかけられてもいない。


 だから、俺は無視などしていないし、廊下を走っているのだ……

 そう、トイレに行きたくてたまらないのだ!!!

 ちゃんと理由がある。だから走っていいのだ。

 洩れちゃったら社会的地位の大暴落がおきちゃうしね!!!

 しょうがないんだ!!!!



 晴は急いで制服に着替え、更衣室を飛び出した。幸いにも次は昼休み。

 このまま、人のいないところに、向かおう。


 図書室か!


 図書室なら辺境の地にあるし、私語厳禁だから話しかけられない。

 急ぎ、教室棟でもなく部活棟でもない、第三棟の図書室に向かう。


 第三棟は、完全に他の二棟から離されており、外の渡り廊下を通らなければならない。

 幸いにも、今のところ誰にも逢っていない。


 この角を曲がれば、図書館まであと10メートル。


 その時だった。


「ここまでよ!!小林晴!!!」


 角を曲がると廊下に怒った少女が仁王立ちしていた。


 鈴木?


 少女は、晴のクラスの級長だった。

 黒髪に可愛いおさげを作っているお淑やかな彼女は、とても綺麗な顔立ちをしておりクラス、いや学年で高値の華扱いを扱いを受けている。


 この少女と話したことは一回もない。


「えっと、なにかな?鈴木さん?」


 怒らせた覚えはないが、一応聞いておく。

 それを聞いた彼女は、頬をぴくっと動かし、怒りに耐えながら言った。


「よく、そんなことが言えるわね?小林晴?あんた、どうして呼び出しを無視すんのよ!!」


「呼び出し?」


 鈴木さんに呼び出されたことは一度もない。

 この反応を惚けていると、勘違いした彼女はまたいっそうに顔を強張らせた。


「惚けんじゃないわよ!!!毎回毎回、書いた手紙をそこらへんに捨てやがって!!!あんたが目立ちたくなさそうだったから、わざわざこういう方法を取ったってゆうのに!!!」


 ……パズルのピースがつながった。


「……ああ」


 これが、あの“ガチな”厨二病患者か。





「あの、厨二病菌がうつるので近寄らないでください」



「はぁっ!?」

「それじゃ」



 目を見開き固まる少女、鈴木の横を通り抜け図書室に駆け込む。


 やっと目的の場所に着き、腰を降ろした晴の耳には

「何なの!?あいつ、マジムカつくんだけど!!!」と叫ぶ高嶺の華、いや“ガチな”厨二病患者の声が聞こえたそうな。








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