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ガチな厨二病患者




 小林晴は、奇天烈な見た目をしている。




 成長期が遅いらしく、背は低く体は華奢。顔はどちらかというと整っており女顔で、おばちゃんに可愛がられそうなタイプ。

 しかも、性格はおとなしく、協調性はあるが前に出るタイプではない。


 それだけでは普通の少年なのに。


 溢れる個性は、彼が異世界から帰ってきたときに付け加えられた。


 綺麗な細工のされた黒い眼帯を身に着け、左腕に包帯、そして毛先だけ蒼い髪。

 それは一見すると拗らせた可哀想な人。そう、厨二病患者である。

 おまけに「封印された右眼が疼く!!前世での恋人何茶羅漢チャラはこの俺デスknightが助けなければっ!!」といった感じの如何にもなセリフを吐けば完璧である。


 ・・・・・晴は、絶対に言いそうにないが。


 晴を少しでも知っている人がいれば違和感を覚えるだろう、なんせ晴は極端に目立つのを嫌う。いや、反対にその極端な性格が爆発して、あんな個性を生み出してしまったのだ、と納得するものもいるかもしれない。


 晴は、それこそ愛想よくするが、自分の情報は一切口にせず本心を見せるようなことは全くしなかったため、結局彼を“知る”人はほぼいないといっても正しいのである。


「絶対に勘違いしてるよ、これ」


 断言しよう。晴は決して厨二病ではない。


 寧ろそんな真似、晴のプライドと羞恥心が許さない。これまで、それっぽいセリフを吐いていた情報係兼友人を表で共感し、裏で嘲笑っていた晴だ。


 自分が嘲笑われる側に回るのは、冗談じゃなかった。

 そして、現状嘲笑われている。


 晴だって説明したい。なぜ厨二病でもない自分がこんな恰好をしているか。なんたってそこには、海より深く山より高い理由があるのだ。

 でも、説明できない。


 だって言えるだろうか!?

 俺は異世界で魔王を倒すための勇者をやっていた、と。

 そしてこの右眼は魔人の邪眼が、左手には邪神の核の力が封印されていると。

 この髪は、それらの後遺症であると。


 それこそ、厨二病じゃないか!!


 だが、これこそが事の真相。

 晴の失踪事件(異世界勇者事件)の紛れもない真実である。


 信じて貰える訳がないと誰にも話さなかった摩訶不思議な恰好をする理由。

 こんなことを言った折には、完全な厨二病のレッテルを貼られ、悪ければ精神病院に入院させられるかもしれない。


 今まで思春期の御盛んな子が自己のアイデンティティーの形成のために言っていた作り話が実際に起こったなど誰が信じるのか。


 晴だってこんな体験をしなかったら絶対に信じていない。


「ああ、これからの人生どうすっかな・・・・」


 晴はもう全て諦めた。

 無理だ。ムリゲー、クソゲー。

 学生の内は許されるかもしれないこの個性(意地でも厨二病と呼びたくない)は、社会人になったらどうなるのか?


 それこそ病院にぶちこまれるか、クソニート決定だ。


 嫌だ!!嫌だ!!社会不適合者にはなりたくない!!




 だけど、この豪華な“個性”は、外れることはない。それも、女神に説明された。

 実世界に送り返される寸前に。


 そんな大事なこと予め言っとけよ!!


 後から後遺症残ります、なんか言ったらこの世界では詐欺で違法だし捕まる。

 思い出すたびに女神への恨みが爆発しそうになる。


「あんの、クソ詐欺師女神め!!!」


 心はダムのようだ。溜められる不満の数には限りがあり、それ以上は外に流れ出てしまう

 案の定その不満も言葉になって口から洩れた。


 この心の叫びが聞こえてしまった幾らかの生徒は、不審な目を晴に向ける。


 またやってしまった!!!!


 今まで学校生活せめて目立たないようにと気を付けているのに、“あれ”と心から洩れる本音が邪魔して奇功のような行動を繰り返している。

 ここまでくると、クラスメイト達は不審な目を向けてすぐ、またかといった様子であきらめた顔をして元の行動に戻っていった。


 晴はこの負のスパイラルから逃れられずにいる。




 本日四度目のため息。

 肺から古い空気が抜けていくと共にこのどうしようもない状態を諦めないと、と一種の悟りがまた大きくなった。


 一緒に帰る友人がいないのは、中学から続いていること。

 一年生のほとんどが部活見学で、この校舎に留まっているところ晴はさっさと下校しようとしていた。


 ほとんどといっても帰宅部になる人もいるらしいので、帰宅部になっても目立つことはない。


 時々間違えそうになる自分の靴箱を開けて気付く。


「手紙?」


 靴箱に淡いピンク色の便箋が入っていた。

 思春期の男の子だったら、告白!?と、どきまきするところだった晴は違う。


 99%悪意ある悪戯だな。


 まず、こんな変人だと思われる人を好きになる奴はいないし、まだ入学して時間もたっていない。


 自分のことを好きになる人はいない、と断言できてしまう可哀想な晴だったが、悪戯であると確信する理由はまだあった。


 それは、空気になって過ごした中学のこと。

 ある日の放課後、同じような便箋が靴箱に入っており、そこには、何とも可愛らしい呼び出し文が書いてあった。この丸文字から女子。で、呼び出された場所は、校舎裏の空き地である。


 絶対にありえないと分かっていながらも、少し期待して校舎裏に向かった。そして、悪戯である可能性もあるだろう、と着く手前そこを覗いてみると案の定柄の悪いクソガキ共がニヤニヤしながら立っていた。


 残念に思いながらも納得して、一応気配を消しながら奴らの会話を耳を澄まして盗み聞きをした。



「一色のやつ来ると思う?」

「来るだろ!あんな奴、絶対告白され慣れてなくて絶対舞い上がってるっしょ!」

「たしかに。勘違いと知った時の絶望の顔は見ものだよな」

「ぎゃはは!!笑える!!」



 こいつら、クソだなと改めて思った晴はまた校舎玄関に向かい、その便箋を地面に落としてから帰った。落としたのは、後日何で来なかったとイチャモンつけられたときに気付かなかった、と言い張るためである。


 てか、あの丸文字あいつらが書いたのか?・・・想像したら笑えるわ。


 そんなこんなで、手紙には嫌な思い出しかない晴だが一応手紙を見ることにした。

 期待はしていないが万が一、という事がある。

 その万が一も、告白などというピンク色の物でなく、厨二病患者になら言いやすい人に言えない相談かと思っている。


 くまさんのシールを剥がし手紙の内容を見た晴は、目を見開いた。






 一年三組三番一色晴様へ


 我々は、あなたと同じ“力”を持っています。


 異能である“力”を持っていては、一般人と一緒に暮らすのは不便ではありませんか?


 我々はあなたの味方です。


 今日、午後四時半家庭科教室で待っています。






「なん、だと!?」


 晴はよろめいた。まさかこんな奴がこの学校にいたなんて。


 全く気が付かなかった。


 どくどくとなる心臓をなるべく落ち着かせて晴は、その手紙をたたむ。


「ガチの厨二病患者がこの学校にいたなんて・・・気付かなかった」


 晴は戦慄していた。

 いくら厨二病という言葉があろうと、そんな人は滅多にいないのだろうと。

 だが、この手紙からはこの学校に厨二病患者が少なくとも一人はいることが読み取れる。


 隠れ厨二病患者が、見るからに厨二病患者である俺に接触を図ってきた。

 会うか、会わないか。


 それ、すなわち。


「めんどくせっ。だいたい家庭科室とかここから真反対じゃん。歩くのだりぃし」


 晴の答えは、否、会わないだった。

 自分は厨二病患者ではないし、そんなめんどくさそうな人種と関わりたくない。

 それに家庭科室は、四階特別棟右端で生徒玄関は、クラス棟一回の左端。

 興味のない晴にしては、わざわざ呼び出しておきながら、たくさん歩かせるなど、鬼畜の行う行為であった。


 会いたいならせめて、そっちから会いに来いよ。

 てか、自分が何者か名乗るのも常識だろ。


 結局晴は、無情にもその手紙も折り畳み、地面に落とした。


 一方その様子を家庭科室で、人型から見ていた晴曰く“ガチ”の厨二病患者達は、晴のあんまりな態度に肩を震わせていた。



「「なんだ!こいつ。マジムカつくんだけど!!!!!」」






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