忠犬に生まれ変わったので幼女をペロペロする
青年は誠意にあふれる人間ではなかった。
トラックに轢かれそうになったとき、思ったことは、もっと親孝行するべきだったなぁ。だった。
他人を助けて感謝されるような人間になりなさいと親に言われたことを思い出す。
しかし年を重ねるにつれ、現代日本に染まった青年は他人を思いやる心が陳腐なものに思えていた。
あぁ、もし、やり直すことができるなら、今度は人助けに生きようと、
根は優しい青年は、しみじみと心の底から思った。
だが、それは走馬灯だった。思いもむなしくその生涯はここで閉じてしまった。
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「助けてくれたの…?ありがとう!」
そう幼女は言った。
なっ!?
声をかけられたことにより思考が停止してしまう。
『レベルアップにより脳内処理能力が上がりました。規定値を超えました。
前世の記憶をインストールします。』
『記憶の融合をお行います。記憶の混在による混乱にご注意ください。。。』
謎の声が頭の中に響く。
理解できない情報の嵐に停止した俺の脳みそに謎の声が追い討ちをかける。
強烈な最期の記憶がフラッシュバックする。
反射的に腕で顔を庇った隙間から見えるのはトラックのヘッドライト。
そうだ、俺はトラックに引かれた。
その次の瞬間に編集された動画のように、この場面に飛ばされた感覚だ。
これはよくある異世界転生というやつか。
今まさに自我が目覚め、今のメッセージが脳内に流れた。
何とかそこまでは理解できた。
体が人間じゃないことに関しては理解が及ばなかった。
何だ…これ…
混在している記憶を紐解いていく。
二つの記憶が混ざった混在度だ。
今までになかったほうに記憶に意識を向ければ時間をかけずに理解してしまう。
「ワ、ワフッ!?」
俺、犬ジャン
母親の犬を覚えている。父犬はどうやら見たことがないようだが
母犬の乳を飲んで成長したのだ。
犬じゃないほうがおかしい。
前世でこういう手合いの小説は好きだったが
人外転生もしてしまうとは予想外のさらに外だ。
そんなに前世で業を背負ったのか…人助け、してなかったなぁ…。
そんなことを考えていると周囲の状況が目に入ってきた。
「ワフ、フルル…」
ここは近くの森だ。薬草が取れるが、魔物の森に接隣してる。
だからだろう、このゴブリンのようなのが流れ着いたのだ。
周りには噛み散らかされたようなゴブリンの死骸が散乱している。
これを俺がやったのだろう。
自我が生える前の犬の俺、まるで他人事のように考えたが
もちろん戦った記憶がある。
VRゲームをプレイした後のような気分だ。
目の前の幼女、は服装が乱れてしまっているが、怪我をした様子はない。
この幼女の名前は――
「よかったアミ、無事だったか」
そう、アミと呼ばれている。
アミの父親、ジン父さんは周囲に気をかけつつ、アミと俺の元に、ゆっくりだが駆け寄った。
「ワンワフッ!」
アミは今年で6歳になった。きれいな金色の髪にエメラルド色の眼をしている。
自分の口から血の臭いが混じっているが、良い女の子の甘い香りがする。
俺はその幼女上に跨って、激しく息を切らしながら覆いかぶさっていた!
「ワウッ!?」
おおおおおおちちおちちつけけけけ!
今退きますから防犯ブザーを引っ張らないでくださいいいぃい!
犬で後ろ歩きは難しいが、あわてて離れようと行動に起こす寸でで―
がば!
「ぜったい死んだと思ったわ!とってもかっこよかったわ!!」
「ワフッ!?」
ふおおおおおお幼女からの厚い抱擁!!!
顔近い!顔近い!!
かわいい幼女だなあ!おい!
アミは美幼女だ!
顔の容姿も泣き顔でゆがんではいるものの、
美形であるとよくわかる。
喋ってる言葉も日本語ではないようだし、ヨーロッパ系ロリ…
良さ…
「ワフッ!ハッワフッ…!」
さすがに喋ることはできないようだが、
言語を理解しているとは、この体はなかなか頭が良いらしい。
レベルアップとか言ってたな。魔物を倒すことで犬も成長するのか。
はっ!!
そうではなくて!幼女の上から動かなくてはいけないのだった!
現実逃避をしていて、覆いかぶさったままだった俺は
幼女からの抱擁をうけ、立ち上がれないでいる。
無理に振り払ったら、また拗ねられる。
まずは幼女のご機嫌取りだ。
何をすれば喜ぶかは経験で知っている。
いつものように
幼女の顔をペロペロと舐めまくった。
「きゃ、んぷ、くすぐったいよぉ!」
……って、まてええええええええええいい!!
いや今までもやったことがある!何回も!
しかし、今は自我が備わったのだ。
人の半生を、モラルを得た俺は、幼女の顔をペロペロするという行為が、
いけないことをしているような気が…。
いや、いけないことをしているわ、これ。
でも、選択は正しかったようで、幼女の抱擁は緩まっている。
なんなら、もう終わり?見たいな顔で俺を見上げてくる幼女。
きゅん…!なんて愛おしい仕草か…!
うおおおおお、お、俺はロリコンではなかったはずだ!
犬という生物的にも、今世の俺は忠誠心に溢れている!
忠犬なのだ俺は!
近所の住民が騎士を呼んできたらしい。
騎士は現代の警察官のようなものだ。王宮に仕えてない騎士も多い。
彼らは自主的に町の治安を守って王に貢献している。それが時間とともに組織化して、騎士団となった。
だが、その通報案件が
『幼女を黒い狼が襲っている』というもの
襲ってませんよ?!助けた結果、覆いかぶさっていただけで!
ペロペロはしましたがっ!!
あぁおしまいだぁ…!
自我が芽生えたが、犬の本能に逆らえず
ペロペロ罪によって保健所行きだ…!
俺は黒い毛並みの犬だ。確かにシャドーウルフに似ているかもしれない
けど中型犬サイズなのだ。一目で魔物ではないとわかる。
しかし幼女との体格差であれば、遠目だと見えるかもしれない…
駆けつけた騎士の目線は鋭く俺に突き刺さった。
「ちがうの!ローイは私をゴブリンから助けてくれたの!」
「誤解です騎士さん、この子はとても賢い犬で、アミを守ってくれました」
俺はローイという名前でこの幼女に飼われている。
幼女アミの弟として、家族の一員なのだ!
犬の俺は人の俺と違って
日頃の行いがよかった。俺をかばってくれる家族!なんて良いものなんだ!
「ワフッワフッ!」
ご近所の方に確認してもらえればわかりますよ!
お隣のおばあちゃんにも聞いてもらってもいいですよ!お肉の切れ端をもらうほどの仲なんです!
俺も犬語で訴える。
しかし騎士は、残念そうに
「魔物を倒した動物は魔核ができて、魔素を蓄えてしまう。いつか魔獣になってしまうんだ」
「えぇ…」
「くぅーん…」
そんな!俺は魔物になってしまうのか…?
「これはどうしようもないんだ。お嬢ちゃんも襲われたら怖いだろ?」
なっ!
そんなことする訳ないじゃないか!
この騎士め。手を少し齧ってやろうか。
「ローイはそんなことしないよ!」
「どうにかならないでしょうか?」
俺の家族、二人が反論する。
「…ただし、従魔としてなら…」
騎士さんの呟きを受けて、アミの笑顔は返り咲いた。
「!、本当ですか!?」
「うむ、まだ人を襲ったことのない個体なら、早目にギルドに申請し、徹底して調教すれば…順従に魔獣化したら、貰い手があらわれるかもしれない。」
騎士さんは言葉を紡いだ。
か、齧らなくてよかったーーー!
でも、どこの誰かわからないやつに順従か…
俺は家族と扱ってくれる2人がとても大切に思っている。
アミと別れてしまうのはとても悲しい。
「ワン…」
伝われこの悲しそうな泣き声!
「それじゃあ一緒にいられなくなる…」
アミも声のトーンを一段と落とした。
「アミとローイは本当の姉弟のように育ちました…どうにか一緒に暮らすことはできないでしょうか?」
ジン父さんも生活が良いわけではないのに俺を養い続けるつもりだ。
「ワフッ」(お願い騎士さん!)
無駄だとわかっていても、俺も訴える。もしかしたら犬好きかもしれない。
「うーん、とりあえずギルドに行って確認しないと。檻を持ってくるから逃げ出さないように。」
檻かぁ…入れられたら最後、自由になる未来が見えない。
この世界はブリーダーというものはなさそうだ…つける首輪は奴隷用の首輪…。
これは脱走のほうが家族と会える機会が増える可能性が高いか…?
「……あの」
「ん?どうしたんだい?」
「わたしがこの子の魔物使いになります!」
おおう!なんてやさしい子なんだ、アミは。
確かにそれなら、ずっと一緒に居られる!
アミは俺のために…!感動して涙が出そうだ…
くっ
どうして俺はこの気持ちをアミに伝えることができないんだ…!
言葉にして伝えたい。言葉が理解できてしまう一方通行さが、もどかしく思えてしまう
「アミ、そんな危険なことは認められない。それにアミはまだ6歳だ」
確かに俺と一緒に行動するということは、いろいろな場所にも着いて来るということだ…
きっと魔物と戦うことになる…
ジン父さんは足が悪い。今は竹の小物細工で細くつないでいる状況だ。
とても森には入れないのだ。
「だいじょうぶ!ローイが守ってくれるから!」
「ワフッ!」
おう!守る守る!超守る!
俺は忠犬だ!
「ローイが今すぐ魔獣になるわけじゃないんでしょ…?」
「そうだな、ゴブリン程度だとたいした魔素ではない。今後、ちゃんと管理すれば勝手に魔物化はしないはずだ」
騎士さんのナイスアシスト!俺もそれを聞いてホッとする。
「10歳になったら働くつもりだったし、冒険者なら、ジンお父さんの足もよくなる薬を探せると思う!」
なんてええ子なんや…!
この100点満点の返しでジン父さんはもう反対には回れない。堕ちたな!
ほら、感動で涙を流している。
あ、ジン父さんが向こうを向いて涙を拭いているときに、ペロッと舌を出していた!
いつの間にこんな武器を…!
将来、魔性の女になるんではなかろうか…
「お嬢ちゃん、魔物に襲われるかもしれないんだ。怖いだろう?」
「だいじょうぶだもん!そ、それにローイは私の言うことしか聞かない!」
えぇ!?急にそんな設定が!?
「そうなのかい?」
「う、うん!」
すぐばれそうな嘘だが、本当にしてしまえばいいのだ。
「では何か命令をしてもらっていいかな?」
騎士さんは怖がらせないよう、笑顔でそう言った。いい人だわこの人。
「…ロ、ローイ」
アミがこちらを潤んだ目で見る。
「ワフッ!」
任せろ!アミと一緒に居るためなら、いくらでも従うぞ!
「おすわり」さっ!
「おて」しゅば!
「ふせ」しゅざ!
「とってこい」びゅんっば!
何でもござれ!
次は三回回ってワンと鳴こうかい?
「うーむ、確かに意思疎通ができている…」
「でしょう!」
アミはとっても嬉しそうだ!でもこの騎士さんを懐柔できただけだ。
説得する人はもっと別にもいる。
「しかし、ギルドで確認は絶対に必要だ。檻に入れなくていいから行こうな?」
「うん…」
アミは心配そうに俺に視線を落とす。
「わふっ!」(行こうアミ!)
なあに、ギルドで大立ち回りすればいいんだ!
精一杯、媚てやる!なんだったら靴でも舐めてやるぜ!
「私も口添えしてあげるから、きっと大丈夫さ」
騎士さんデレた!!これでかつる!
「親御さんもいいですね?」
「…わかりました」
「やったねローイ!」
「わん!」
幼女が抱きついてくる。
顔が目の前にあったので、つい
ぺろん
と舐めてしまった。
「あはは!」
声を上げてアミは喜ぶ。
ヒヤッと背筋が冷たくなる。こんな公然で幼女を舐め回してしまった…現行犯逮捕だ…
しかし、
周りの反応は、微笑ましいものを見る目だった。
…この体は幼女舐め放題なのか!!?
パブロフの犬の話は流石に知っている。
人でも犬でも、関連付けられた行動仕草を反射的にしてしまうというもの。
反射的に舐めてしまうこの体…。今までいったいどれほど幼女を舐めてきた体なんだ…!
い、いかん!心は人間なのだ!体に引っ張られないよう、心を強く持つんだ!
ギルドに向かう道すがら、俺は期待で胸を膨らませた。
魔物と戦うことは、青年のときから夢に見ていた妄想の代表のようなものだ。
興奮するのも無理はない。
また、魔獣になってしまうというのは、希望もある
魔物の中には人と獣の中間のものもある。と、思う
いつかケモ耳人間に進化することができれば、アミに感謝の言葉をかけることができるかもしれない。
人助けをすれば、俺の業も幾分かましになるだろう。
そうすれば人に近づく進化も神様も認めてくれるはずだ!
そのために魔獣使いアミと一緒に冒険者になることは、一石二鳥だ。
忠犬ローイは前世でできなかったことを、やり直せることに幸せを感じ、
今度こそ、人生を謳歌しようと歩みだした。
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ギルドに入るとたむろしている冒険者が一斉にこちらに視線を向けてくる
アミは大して気にする様子もなく中央を進んでいく。俺もその後ろをぴったりとくっついて進んでいく
受付に用紙を提出し、おねがいしますと声をかけた。
アミのすぐ傍でお座りをしながら、ちょっかいをかけてくる冒険者が居ないか威圧しない程度に、室内をざっと見渡す。
受付の女性は
「ありがとうございます、この依頼も完了ですね!」
「えぇ!なかなか疲れる依頼だったわ!」
幼女から少女に進化したアミはこの町でベテランの域だ。
C級冒険者に昇格したアミは今年で15歳。ギルドでも異例の若さだ。
「ローイもお疲れ様」
受付嬢とアミは俺を見上げた。
おすわりでも1,8m近くになる俺。恐れられた頃もあったが、今では名物になっている。
アミがからかわれないよう、広告塔となり、一時もそばを離れない。
「バウッ」
俺も進化してナイトシャドーウルフになった。
闇系統の特性を持っており、戦闘や偵察が得意で、スピードパワーにも自信がある。
しかも、野生で存在しない固有種らしい。レアだ。
この進化というものは先が分からず、選択肢はないが、俺は不満はない。
知性はかなり上がっている。まだ喋れないが、可能性はむしろ濃くなった。
人助けをするという、俺の目標も続けられている。やっぱり冒険者は性に合っている!
「もう私の靴を舐めまわさないでね?」
「バ、バウッ!」
「懐かしいね!最初に会ったときだっけ?」
その時
ドガンッ!と扉が跳ね開いて、
ギルドの入り口を壊す勢いで満身創痍の男が転がり込んできた。
「大変だ!ダンジョンがあふれた!」
「なんだって!?」
「ダンジョンの位置が近すぎる…!」
「恐れていたことが…!」
「このままではこの街は飲み込まれるぞ!!」
一気に喧騒に溢れるギルド内。ギルド職員が一斉にどこかに駆け出した。
アミは興奮を隠しつつ、受付嬢に声をかける
「これは緊急依頼になりますよね?」
アミは俺に目で合図する。
わかっているぞ相棒!
「ええ間違いなく!」
受付嬢は深々と頭を下げた。
「よろしくお願いします!」
受付嬢と処理を手伝ったギルド職員は深く頭を下げた。
「はい!人助けは冒険者の本分です!確かに受注しました!」
笑顔でそれを受け取り、早足で外に向かう。
俺もそれにピッタリと寄り添って追いかけた。
アミはギルドの外に出ると俺の頭をなでてくれた。
俺はいつもどおりアミの顔をペロっと舐める。
「行くよローイ!」
先行が役目の俺はアミを背に乗せて街の外へと向かった。
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「ローイ?」
そう言ってアミは不思議な顔をして、俺の口端をナプキンで拭いてくれた
「あぁ、ありがとう」
俺はそう言った。
両手にナイフとフォークを持ち、二足歩行での生活。
そう、俺はついに人に進化できた。
ワーウルフの何とか後ろ足で立てる状態から、完全な人型に進化できたときは天にも昇る気持ちだった。
その場の勢いで、アミに感謝の気持ちとともにプロポーズ。
冒険者を引退し、辺境に隠居した俺たちは、幸せな日々を送っていた。
「どうしたの?食事中に急に物思いに耽って」
「なんでもないさ」
どうして急に思い出したのか、懐かしい記憶だ。
俺はロッキングチェアに座ったアミに唇が触れる程度のキスを頬にした。
「もう、いつもそうやってごまかす…!」
そのアミの笑顔に、俺の頭の上の耳がうれしそうに動く。
椅子をリズムよく俺の尻尾が叩いている。
それを見てアミがさらに笑みを深める。
「はは」「ふふ」
ふたりは幸せな笑い声をあげた。
おんぎゃああああぁぁぁあぁぁあぁ
「あぁ、この子が起きてしまったわ」
「大丈夫、あやすのは得意なんだ。任せてくれ」
おれはアミの腕から娘を受け取り、
「おーよしよし」
泣いている我が子を
ペロペロと幼女を舐めたのだ。
ここまで読んでいただきありがとうございます。
初投稿です。
反応がよければ連載化や、
他にも書きたいなぁと思うかもしれないので、評価などもよろしくお願いします。




