鳥籠の貴方と鳥籠の中の鳥の私。
ちょっとビックリするものを書いてみました。結構面白いと思います。誤字脱字があったら教えて下さい。良かった点を書かずとも気になった点だけ書くというのも良いです。厳しい意見を下さい。
今日も窓から射し込む太陽の光を両手で掬って顔に浴びる。
あぁ!何て気持ちが良いんだろう!
カーテンが風でヒラヒラと動くと光もあちらこちらとゆらゆら揺らめく。窓の外の景色は緑が沢山あって畑と田んぼがある。土の香りが漂ってくる。
今日は玄関に佐伯さんちからの新鮮な山菜が置かれていた。また今度お礼に野菜のお菓子を作って持っていこう。野菜のお菓子はとてもうけが良いからこっちも嬉しいのよね。
私はスーパーの袋に入った山菜を冷蔵庫の野菜室に入れた。野菜室はご近所の方達からの野菜で幸せだ。
ピンポーン
久しぶりに鳴ったインターホンにはーい。と返事をする。
ガラガラ
玄関を開けると夫が立っていた。
「ただいま。」
「おかえりなさい。どうして今日は鳴らしたの?鍵持ってるでしょう?」
夫は微笑みながら応える。
「気分だよ。新鮮だっただろ?たまには家のも鳴らしてあげないと壊れそうだから。いいだろ?」
「そうね。インターホンなんて滅多に鳴らないものね。」
居間に向かいながら話しているとガシャン!と大きな音が向こうの廊下の向うから聞こえた。
カーッ!カーッ!
烏の鳴き声がする。
「あら、一体どうしたのかしら。貴方。見てきます。先に行っててください。」
「ああ。わかったよ。」
心配になりながらも廊下を真っ直ぐ進んで右に曲がると廊下の窓ガラスが割れて廊下に散らばっていた。硝子の破片の上には羽の折れた血だらけの烏がジタバタ暴れていた。
「あらま。大丈夫?大人しくしてて手当てをしてあげるわ。家の主人はお医者なのよ。腕は良いから安心してちょうだいな。」
私は警戒する烏に駆け寄り、通じるはずのない言葉を掛けた。 なのに、烏は知性のある目で私を見大人しくなった。私は大人しくなった烏にかかっている硝子手で払い夫を呼びに行くから待っててくださいね。と烏に言い残して夫を呼びに行った。
それからは夫が怪我をした烏を治療し、私はその間に窓の片付けをして窓の修理はどうしようか考えていた。
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烏の治療が終わり、私達二人と一匹は一緒に食卓を囲んでいた。
「美味しいですか?今朝に佐伯さんからもらった山菜なのだけれど、食べやすいように切っておいて正解だったかしら。」
烏は籠の中に収まっている。そこから山菜をつまんでいる。
表情こそ全くわからないが、満足ととって良いだろう。
「一応治療はしたが、烏の回復力を知らないから何時になったら完治するかは解らないよ。だから、完治するまで家にいなさい。」
夫は烏にそう言ったが、私には家に置いても良いけど完治したら必ず自然に戻りなさい。と聞こえた。
「良かったわね。」
私は烏にそう言った。
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昼食を食べた後に私達は烏の名前を決めるのに熟考した。話し合いの上決まったのは、♀だったのでアケミだった。
夫がアケミはハシボソガラスという種類の烏だと教えてくれた。
その後もアケミは順調に回復していった。
烏はとても賢い烏だというけれど、本当のことだったのね。
私は世間知らずなので当然烏の生態など知るはずもなかった。アケミは飛べなくとも、ジャンプをして机に乗ったり椅子に乗ったりもできた。最初はあちこちで糞尿を垂らして困ったが、今は庭先の一ヶ所でやってくれる。本当に賢い烏。
私は毎朝届けられる野菜と果物をアケミと二人で分けあって食べたり夫を含めて三人で食べたりもした。楽しかった。自然の友達が出来た気分だった。
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アケミの傷が完治した頃には気温は大分下がって少し寒い位だった。今日はアケミを自然に返す日と夫と決めていた。少し寂しかったけどたまにアケミが会いに来てくれると考えていたので泣きはしなかった。アケミは飛ぶ前に私達を見つめてから飛び立った。
「行ってしまったのね。私達の子供みたいな存在だったわ。」
「ああ。そうだね。賢い子だから元気にやっていけるさ。」
私は子供を産めない。アケミは数ヵ月だけだったけれども、私達の娘になってくれた。ありがとう。
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アケミは家から飛び立ち遥か上空を飛んでいた。
田んぼや畑はあるけれども人はいない。ここを囲っている森を進むとコンクリートの壁が横にずっと続いている。一ヶ所だけ人間が出入りできる扉がひとつある。
そして、アケミはいつも見ていて知っていた。その扉から人間が一人出入りしていることに。その人間が夫だということに。
佐伯さんというけれども、会ったことはない。もちろんあの人も会ったことがないだろう。だって、佐伯さんはいないんだから。そして、佐伯さんは夫なんだから。毎朝玄関に野菜を置いていたのは夫なんだから。あの人は夫に監視されて世話をされていたのだ。
一羽の烏は自分に怪我をさせた人間を知っていた。その人間は鳥籠のようなところにいて毎日退屈だったから私を攻撃して、さも鷹か何かに怪我を負わされたかのように私を介抱した。その人間は夫よりも恐ろしい人間だった。
夫はもしかしたら獰猛な、人を食らう恐ろしい人間を大きい囲いの中に閉じ込めて監視をして逃げ出さないようにしていたのではないのか。
それは鷹を閉じ込めるような鳥籠のような関係だった。
実は鷹でした。
読んでいただきありがとうございました。
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