呆然とする傍らで
お久しぶりです。
久々の更新で手が震えています。
何様だよコイツとツッコミどころ満載なそのセリフに、ヤツはしばしポカンとした様子を見せ。
「……ふはっ!どうやらまぐれじゃないらしい」
獰猛な笑みを浮かべることで答えた。
肉体はそれに呼応するかのようにして段々と───隆起していってる!?
纏った鎧は明らかに増えた体積でも壊れる事無く、むしろ大きくなっていて、ははっ。ファンタジーを感じるなぁ。
オオオオオ───ッ!!
ヤツの咆哮に合わせてビリビリと周囲の空気が張りつめていく。
これは───まさか!?
俺は目を見開いた。
知ってる。それも知ってるぞ!
あれだろ?強敵と相対した好戦的なヤツが「まだだ。我の本気を見せてやろう…」とかいって強くなるやつでしょ!!
「私はまだ、あと二つ変身を残している…!」とか言って強くなってくやつだろ!??
───────いやいやいやいや!! まじで洒落になってないから!!!
まあ? 本来だったらムネアツな展開キタ───!とか叫ぶよ?
これがゲームとか漫画とかだったらという但し書きは付くが。
いいか?もう一度言うぞ?
これがゲームとか漫画とかだったらな?
無意識に後ずさろうとして、思い出す。
今俺の身体動かないんだったわ。これはうっかり。はっはっは!
──────うっそだろコレ。
そんなヤツを見つめたまま。俺じゃない俺は、ぼそりと。自分にしか聞こえないような声量で、誰にともなく呟く。
「よく見ておくんだよ」
まるで俺に対して言い聞かせるかのようにして、そう呟いたんだ。
「行くぞ!人間!!」
瞬間、戦いは始まる。
唸る風切り音が舞う渦中において、俺は戸惑う。
これは。
明らかに独り言。なのにこれは───。
俺に言っている?
そうとしか考えられない。
この不可解な状況において、さらに増える疑問。
何もできない現状。
勝手に動く身体。
不可解な状況に拍車をかけるその言葉は俺の意志に反してなぜかストンと入り込んでくる。
カチンと何かがハマったような、そんな気がした。
そして、ああ。また理解させられていく。
そのまま俺は言われた通りに、今まで以上にこれから行われることに対して集中し始める。
あたかもそれが俺の意志であるかのように。
熱に浮かされた様な感覚のままに、そこから先の戦いを見ていく。
試合などじゃない、文字通りの真剣勝負を見ていく。
「ハァッ!」
「ふっ」
ボッ! パァンッ! ギャリィ! ブォンッ!
瞬く間もなく、気がつけばヤツの拳は振り抜かれ、そうだと認識する頃には既にその背後に存在している俺自身。
明らかに目で追えている訳ではない。
では、なぜここにいるのか。
わからない。だが、俺はヤツの後ろにいる。まずはその事実だけを受け入れる。
そのまま、俺の身体は抜き放った唯一の武器こと刃渡り三十センチのナイフを振り下ろす。
それが、ヤツの首元を切りつけ、保護していた鎧を傷つけながら火花を散らす。
それに反応した奴が振り返りながら腕を薙ぎ払ったと理解した頃には、すでにヤツの背後に着地を決めていた。
やはり、視界がその動きを捉えてはいない。
まさに気がつけば、ヤツの後ろにいる。
そんな俺の疑問は当然知っているとばかりに、俺の口がぼそぼそと喋り出す。
「いいかい。この能力はね、自分自身、つまり君の身に危険が訪れた時に回避をしてくれる能力なんだ」
ヤツの猛攻が来るたびにそれを躱しながら、そう説明をしつつ、ちゃっかりと反撃は入れていく。
兜、胴鎧、手甲、脚甲と手当たり次第に切り付けているそれは、どうみても悪足掻きにしか見えない。
どこか決定力に掛けているように思える───その動きは、相手の目にもそう映ったらしい。
「ハッ!!そんな攻撃ばかりでは俺を倒すことは出来んぞ!!」
獰猛に笑っているその表情には余裕があり、そこにはこちらを嘲笑う意味も含まれているようだ。
最初こそ怒りで染まっていた表情も、こちらに攻撃手段がないと理解するなりどこか失望した表情へと変わっている。
俺のこの後ろに出現する回避も、そればかりのせいか、もはやネタは割れたとばかりに把握されており、攻撃するや否やすぐさま自分の後ろへ向けて攻撃を繰り出している。
まあ、当たってはいないんだけど。それももはや時間の問題だろう───と俺は思うんだが、同時にもう一つの俺を動かしている誰かの意図も理解しているため、不思議な気持ちだった。
奴が振り返りざまに繰り出した後ろ回し蹴りをもはや当然能ようにしてヤツの後ろに出現してはやり過ごす。
そして遂に。
その蹴りを放った軸足の方を救い上げる様にしてナイフを振り上げる俺は────。
「いいや、これで終わりだ」
無造作にそれをヤツの脚へと突き刺した。瞬間──────。
バギィ……ン…ッ!!
ヤツの纏っていた鎧がすべて───まるで連鎖していくかのようにしてはじけ飛んだ。
「なッ──────」
時が止まったかと錯覚するような静寂──────。
先ほどから耳朶を震わせていた風切り音が、その音を最後に止まったことで静かになったのだと、そう理解するのにしばしの時間を要した。
ヤツは俺に繰り出した足を振り下ろそうとした姿勢のまま動きを止め、目を見開いていた。
至近距離でそれを為した元凶こと俺は、奴を見上げるような姿勢のまま、さっきの人を小ばかにするような目で奴に向けて一言。
「まさか、今のが全力だって言わないよな?」
今の今まで自分の優位性を確信し、むしろ俺に対して抱いていただろう言葉を改めて言い放ったのである。
ヤツの青黒い顔が朱色に染まっていく。
それを見て笑みを深める俺。断じて俺じゃないが、それは紛れもなく俺、なんだよなぁ。
身体は動かずとも、これやっているの俺なんだよなぁ…!!
泣きたくても泣けないとはこのことを言うのだろうか。
たぶん違うんだろうが。
圧倒的煽り…
誤字脱字の指摘、ご意見ご感想お待ちしています。