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片鱗


 種々様々な恰好をしている奴らは、誰もかれもが人とはどこか違ったいで立ちをしていた。

 魔物───それは、俺の良く知る小説や漫画の世界で目にするような、あるいは見た事もない様相を呈している。


 ───異形の集団。


 彼らを一言で表現するならその言葉がしっくりくる。

 ただ、俺の知っている、慣れ親しんでいた娯楽物のような───デフォルメはされていない。

 嫌悪感を抱くに十分なその見た目は、俺を恐慌状態にさせるには十分だった。


 震える足は、地面と一体化したと錯覚するかのように言う事を聞かない。

 そんな俺を置いて、周囲の緊張感はより高まっていく。

 肌を指す空気が、重圧がすごい…ッ!


 やがて、それら数百にも及ぶ軍団ともいうべき存在達が、遠目にでもはっきりと見えるようになった場所で停止をする。

 形はバラバラでも一糸乱れぬその動きは、テレビで観た事のある”訓練された軍隊”を彷彿させる。

 そんな中においてもなお、それを指示した者はひときわ異彩を放っていた。


 鎧兜は、周囲の魔物達がしている物に比べると日の光を受けて煌めいている。

 肌は絵具の青黒さをそのまま人間に塗りたくったような色をしていて───なによりも、その大きさは俺達人類の数倍は下らない。

 筋骨隆々としている肉体は腕一本だけで、俺のウエストを軽く超えていた。


 まさに巨躯。


 外見は人───しかし、決定的に違うその容貌を遠目に確認した俺の心は、ほとんど折れていた。

 おもわず天を仰ぐ。

 無理だ。あんな奴に勝てる訳がない…!

 ただでさえ、取り巻きの魔物にビビッてるのに、アレは反則だろ!


 こちとら、サングラスをかけた外国人にビビる一般人だぞッ。

 いくら勇者だって───!!?


 その時、脳裏に稲妻が走るのを幻視する。


 そうだよ!なんでこんな簡単なことに気がつかなかったんだ!

 小さく息を吐き出す。

 己を落ち着ける様に。


 俺は勇者だ。

 なら───ッ!


 アレがあるじゃないか!!


 ここは異世界!なのにどうしてここに俺はいる?


 そうだ。

 勇者だからだ。

 俺が、勇者だからだッ。

 選ばれたからだ!

 なら───!!あるだろう?あるに決まっているだろう!?


 最初の出だしから躓いていて忘れていたが───力が!特別な力がある筈だろ!?

 まったく、何を焦っていたんだか。


 気がつけば、先ほどの震えは治まっていた。

 まったく、我ながら現金なやつだと思わなくもないが、人間てのはこんなもんだ。


 欲望に正直で何が悪い。こちとら命がかかっているんだ!


 そう自分を正当化しつつも、思わず顔がにやけてしまう。

 今の俺はさぞ、気持ちの悪い顔をしているに違いない。


 さてどんな力が俺に宿っているのか。そこが問題だけど──────。

 そこでふと思う。


 ───どうやって確認するんだ?


 力よ出ろ!とか、我の呼びかけに応じよ!とか、脳内で念じてみるが、特に変化はない。

 もしや動作なのだろうか、なんて考えながら手をそのまま上に向けてそれっぽくしてみたが特に変化はない。

 ……もしかして、あの時、アイツが説明していたのだろうか。

 まさか、話をちゃんと聞いていなかったツケが回って来たというのか。


 アレ、もしかして詰んだかコレ。


 心境はバグで身動きの取れなくなったプレイヤーのごとしである。


 不安に駆られつつも、大丈夫だ、きっとなんとかなるさっ、だって勇者だしっなどと、持ち前のポジティブシンキングという名の楽観的思考を発揮しつつ、そのまま顔を正面に戻し───絶句する。


 いつの間にか、周囲は戦場と化していた。

 冒険者や傭兵、騎士団の人たちが、一気呵成に攻めて来た魔物達と真っ向からぶつかり合う光景が至る所で起きている。

 飛び交う様々な色の液体は───血、だろうか。

 どこか現時間のないその光景は、鼻孔を指す異臭によって否でも現実だと認識させてくる。


 だが──────ここで勘違いをしないでいただきたい。


 別に、俺は乱戦の様相を呈している渦中にいることに対して言葉を失ったわけじゃないんだ。

 一人ぽつねんと出遅れたことに驚いている訳でもないんだ。

 いや、全部当てはまってはいるんだが、そうじゃない。


 なんで。

 

 そう、なんで───────。

 目の前に魔物の親玉がいて、物凄い形相で俺に拳を振りかぶって来てるんだよ!!

 


「カァ───────ッ!!」

 裂帛の気合いもかくやなその気迫に、勇者という名ばかりの一般人な俺が、それに対してどうこうできるはずもなくて───、迫りくる死の気配に、周囲の景色は不思議とゆっくりになっていた。

 緩やかに迫る拳を他人ごとのように見やりながら、そうかこれが走馬燈か、なんてぼぅっとしていた俺は、次の瞬間───────。


 拳を振りかぶった魔物の親玉───その後ろに、()()


 周囲の音が止んだ気がした。


 何が、起きたんだ。

 

 どうして、俺はこいつの背中を見ている?


 その問いに答える物はいない。 


















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